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4バックの中で3-4-2-1的要素をしっかり落とし込む森保ジャパン【パナマ戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:つのだよしお/アフロ)

2チームに分けて2試合に臨んだ森保ジャパン

 森保ジャパンの2試合目となった10月12日のパナマ戦は、初陣のコスタリカ戦(9月11日)と同じく、3-0のスコアで日本が快勝した。

 2試合連続のクリーンシートを達成したうえ、奇しくも前半に1点、後半に2点と、得点だけを見るとコスタリカ戦と同じような試合展開となったわけだが、試合の中身に眼を凝らしてみると、前回とは少し異なる現象がいくつか見受けられた。

 果たしてそれが森保一監督の言う「自分たちがやろうとしていること」なのかはまだ定かではないが、少なくとも次のウルグアイ戦を見るうえで、押さえておきたいポイントであることは間違いなさそうだ。

 その前に、まずこの試合を総括すると、試合後の会見でパナマのガリー・ステンペル監督が「今日の試合はパナマが0−3で負けるほどのパフォーマンスではなかった。ボールを持つ時間帯もあったし、サイドからの攻撃も効果的だった。日本に対して難しい状況を作ることもできたが、決定力が欠けていた。そして、とてもバカげたかたちで3点を失ったことに失望している」と語ったように、両チームの間にはスコアほどの差があったわけではなかった。

 パナマを率いるステンペル監督は、エルナン・ダリオ・ゴメス前監督がロシアW杯後に退任したことを受け、後任が決まるまでの暫定監督だ。しかも、来日前にはサッカー連盟と選手会の間で待遇面を巡っての騒動があったうえ、「30時間の長旅で選手に疲労もあった」(ステンペル監督)ことを考えれば、パナマにとっては上出来の内容だったと言える。

 一方の森保ジャパンは、9月のメンバーをベースにしつつ、新たに原口元気、大迫勇也、長友佑都、吉田麻也、酒井宏樹、柴崎岳といったロシアW杯の主力組が合流。16日のウルグアイ戦とあわせ、指揮官がどのようなメンバー編成を行ない、どのシステムを採用するのかという点に注目が集まった。

 そして、いざ蓋を開けてみると、この2つの注目点については一定の回答が提示されたと言えそうだ。

 まずメンバー編成については、「10月の2試合でできるだけ多くの選手にピッチに立ってもらい、力を見せてもらいたい」(森保監督)と語った指揮官の狙いに沿って、GKひとりを除く招集メンバー23人を、パナマ戦用の11人とウルグアイ戦用の11人にはっきりと分け、メンバー全員に出来るだけ長い時間の出場機会を与えるつもりのようだ。

 従って、故障などのトラブルがない限り、パナマ戦のスタメンに名を連ねなかった11人がウルグアイ戦のスタメンを飾るだろう。ただし、パナマ戦で2点目が決まる前の段階から北川航也と川又堅碁の追加招集メンバー2人を途中出場させる準備を整えていたことから推察すると、66分にベンチに下がった大迫と南野拓実は、引き続きウルグアイ戦でもスタメン出場を果たす可能性は高いと見ていい。

 しかも、その後に森保監督が切ったカードは、81分に伊東純也の負傷による緊急出場となった堂安律と、88分に慣らし運転的に出場した柴崎のみ。6つの交代枠が用意される親善試合で2枠分を残した意味は、森保監督が2試合をセットにして選手起用を考えていることの裏づけと見て取れる。

 また、システムについても、試合後の「チームの融合と、全体的な戦術の浸透とレベルアップは、次につなげることができたと思います」という指揮官のコメントから推察すると、次のウルグアイ戦でも4-2-3-1を継続して採用することになるはずだ。

 このシステムにあてはめると、ウルグアイ戦のスタメンは、GKは東口順昭、DFは右から酒井宏樹、三浦弦太、吉田麻也、長友佑都、MFはボランチに遠藤航と柴崎、右ウイングに堂安、左に中島翔哉、トップ下に南野、1トップに大迫で、すっぽりハマる。

 結局、就任直後から注目されていた広島時代の3-4-2-1は、少なくともアジアカップが終わるまでは封印されそうな気配が漂ってきた。頭から物事を決めつけず、選手の主体性をベースにチーム作りを行った西野朗前監督から大きな影響を受けたという森保監督だけに、まずは自分の色を薄めたかたちでチーム作りを行なうという決意なのだろうか。

 いずれにしても、この点については今後も議論の対象となるはずなので、引き続きチェックを続ける必要がありそうだ。

前半から突出していた青山の縦パス

 試合の中身に話を移すと、立ち上がりからボールを支配したのは日本だった。前回のコスタリカ戦では、相手がセンターバック2人と攻撃の起点となるボランチ2枚が前から厳しくプレスをかけてきたことで、日本は前方にロングボールを蹴り込むことでそれを回避するシーンが目立っていたが、この試合ではそのような現象は起こらなかった。

 青山敏弘が2人のセンターバックの間に落ちることで相手の2トップのプレスを外していたことと、パナマがそれほど前から来なかったことが、その理由として挙げられる。結局、パナマはコンパクトな陣形を保ちながら、フィールド中央から自陣でブロックを敷くことで日本の攻撃を食い止めるにとどまっている。

 そんななか、前半に際立っていたのは、青山が低い位置から頻繁に縦パスを入れるシーンだった。前半41分、相手のミスパスをインターセプトした青山が、相手センターバック2人の間にポジションをとった南野に縦パスを入れ、そこから先制点が生まれたシーンがその典型だった。

 それ以外にも、青山が前方に出した縦パスは、前半だけで長短合わせて10本はゆうに超えていた。なかでも、約1分間、22本ものパスをつないでから青山が右サイドからオーバーラップした室屋成に入れたミドルパスは、前半でもっとも効果的なものだった。

 残念ながら、室屋が自らシュートを狙わず、クロスを入れてしまったことでチャンスは潰えてしまったが、これが日本にとっての最初の決定機と言えるシーンとなった。

 なぜパナマがあそこまで青山をフリーにし続けてしまったのかはわからないが、少なくとも相手の対応のまずさを突き、青山が得意とする縦パスを駆使することによって日本が攻撃のリズムを作っていたことは間違いない。さらに、この試合ではセンターバックの冨安健洋の積極的なフィードも目立っていて、コスタリカ戦での三浦の役割を担っていた。

両ウイングが中間ポジションで2シャドー役に

 そして、青山の縦パスと冨安のフィードを生かす要因のひとつとなっていたのが、両ウイングの原口と伊東のポジショニングにあった。

 4-4-2の陣形をキープするパナマに対して、相手のサイドバックとセンターバックの間にある中間ポジション(ハーフスペース)に立つことで、最前線の大迫と、フィールド中央を自由に動きまわる南野とあわせ、多くのパスコースが作られていたのだ。その結果、もともと強固ではなかったパナマが敷く4-4-2のブロックは形無しとなっていた。

 もっとも、パスそのものの精度の低さと、パスを受ける選手のミスも重なったため、それほど多くのチャンスが作れたわけではなかった。実際、前半のシュートは南野のゴールも含めてわずか3本を記録したにすぎなかった。

 ただ、その成功率は別として、両ウイングがとった中央寄りのポジショニングについては、明らかに意図していたものだと思われる。

 布陣は4-2-3-1ではあるが、これは森保監督のトレードマークである3-4-2-1の2シャドーに求められる役割と共通するものであり、ボール保持型のチームによく見られるプレーモデルでもある。そういう意味では、9月のコスタリカ戦の前半に見せた縦に蹴り込むスタイルは、あくまでも相手のプレッシャーを回避するための安全策だったことが、あらためて証明されたとも言えるだろう。

 パスをしっかりつないで、ボールを保持しながらゴールを目指す。それは、パナマが青山にプレッシャーをかけるように修正を施した後半も、大きく変わっていない。

 縦パスを入れる役目は青山から三竿健斗に移ったものの、ビルドアップ時に両ウイングが中間ポジションに立つ場面は多く、さらに相手の足が止まったことでサイドバックの位置取りは前半よりも高くなった。

 とくに室屋が攻撃に絡むシーンが一気に増えたことで、前半は攻撃面で存在感がなかった伊東も、室屋との絡みによって次第に息を吹き返すという相乗効果も見受けられた。

 両サイドバックの位置が高くなれば、サイドバックの動きは3-4-2-1のウイングバックに近くなる。4-2-3-1という布陣で、森保監督自身が築き上げた得意の3-4-2-1のスタイルを応用し、落とし込んだ格好だ。

3-4-2-1のメリットとデメリット

 ただし、当然ではあるが、そこにはメリットもあればデメリットもある。

 ひとつは、両ウイングが中間ポジションをとると、縦パスを入れる場所も中央付近に偏ってしまうため、ボールを奪われたときに危険な状態で相手のカウンターを受けてしまう点だ。幸いパナマの拙攻により縦パスをカットされてそのままカウンターを受けるシーンは少なかったが、縦パス後の中央でのプレーでボールを失い、間接的に危険なカウンターを受けるシーンは多かった。

 たとえば後半立ち上がり早々の50分。大迫のミスパスから受けた相手のカウンターの際、青山と三竿の2人が高い位置をとっていたため、最終ライン4人がボールホルダーを含めた相手5人に対峙するという危険な場面があった。原口の必死の戻りもあり、最終的にはコーナーキックに逃れたが、ボール保持型のチームが中央エリアでボールをロストした時の危険性を示した場面のひとつだった。

 また、攻撃面におけるデメリットとしては、横幅を広く使って攻めるシーンが少なくなり、得点機会となりやすいサイドからのクロスも減少してしまう傾向が挙げられる。たとえばこの試合で、日本がコーナーフラッグ付近の深いエリアからマイナス気味のクロスを入れたシーンは、佐々木翔が前半と後半にそれぞれ1回。あれだけ攻撃に絡んだ印象を受けた室屋に至っては、後半の1回のみだった。

 確かにパナマのような相手であればそれほど問題にはならないかもしれないが、同等もしくは格上の相手と戦う場合、中央に偏った攻撃だけで得点することは簡単ではないはず。サイドをいかにして制するかが勝敗を分けると考えた場合、両ウイングが外に開いたポジションをとってサイドでの優位性を確保する必要もある。

 もちろんサッカーの正解はひとつではないので、それぞれのやり方には良い面もあれば悪い面もある。重要なことは、このような傾向が意図したものなのか、それとも選手のキャラクターによるものなのか、という点にある。

 果たして、両サイドバックに長友と酒井が入り、両ウイングに堂安と中島が配置された場合、パナマ戦と同じような現象が現れるのか。少なくとも、右利きの中島を左に置き、左利きの堂安を右に置いたコスタリカ戦では、彼らのボールを運ぶ力とキープ力を生かしたかたちをとっていたので、原口と伊東のように中間ポジションをとるシーンは少なかったうえ、そこまで攻撃が中央に偏ることもなかった。

 相手のコンディションと戦い方にもよるが、16日のウルグアイはパナマとはレベルが違う。中央に偏った攻撃を仕掛ければ、カウンターの餌食となることは想像に難くないだけに、森保監督がどのような修正をしてくるのかが、見どころのひとつとなりそうだ。

(集英社 Web Sportiva 10月16日掲載)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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