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「イカルディは去れ!」 ウルトラスが決別宣言、市場価値は半減…インテル元主将の運命は?

中村大晃カルチョ・ライター
2018年12月15日、ウディネーゼ戦でのイカルディ。もう腕章はない…(写真:ロイター/アフロ)

腕章はく奪騒動から2カ月弱。当初、ここまで問題が長期化すると考えた人は少なかったのではないだろうか。インテルのマウロ・イカルディが4月3日、セリエA第29節のジェノア戦でピッチに戻ってくる。ルチアーノ・スパレッティ監督が前日会見で先発起用を明言した。

2月13日にインテルがキャプテンマークを取り上げてから、50日以上にわたってイカルディが戦列を離れていたことについては、多くを振り返る必要もないだろう。ただ、前節ラツィオ戦で指揮官がイカルディをメンバー外としたことは驚きを誘った。アルゼンチン代表で負傷したラウタロ・マルティネスが不在だっただけになおさらだ。

◆指揮官の爆弾と口撃

クラブはマッシモ・モラッティ元会長とのつながりを持ち、イカルディとの仲介役となった弁護士のパオロ・ニコレッティと、復帰に向けて交渉を重ねていた。それだけに、ラツィオ戦での招集外というスパレッティの“爆弾”は、クラブにも想定外だったと報じられている。

招集外の理由は、イカルディがチームに謝罪しなかったからと報じられた。そして結果は、スパレッティに味方しなかった。代役のケイタ・バルデはインパクトを残せず、インテルはチャンピオンズリーグ(CL)出場権を争う直接のライバルにホームで痛恨の黒星を喫した。

それでも、試合後にスパレッティはイカルディを“口撃”した。ニコレッティとの交渉が必要だったことを「屈辱的」と表現し、イカルディがリオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドのように「違いをつくる選手」ではないとも断じたのだ。

スパレッティの主張は賛否両論を呼んだ。『スポーツ・メディアセット』電子版のアンケートでは、約1万6000人のユーザーのうち、58%が「イカルディは違いをつくる選手ではない」発言を支持した。一方で、スパレッティが黒星への批判の矛先をかわそうとしているとの声も上がっている。

◆OBから監督支持の声

ただ、メッシやC・ロナウドとの比較や、チームへの謝罪が必要かどうかは別に、スパレッティの方針にはOBから賛同する声が寄せられた。

『スカイ・スポーツ』によると、ジュゼッペ・ベルゴミは「スパレッティが正しい。大事なのはクラブのエンブレムだ。私は彼が100%正しいと思う」と述べている。

「私も主将だったが、腕章がなくても重要度は変わらない。どうして分からないんだ?プライドは脇に置け。インテルのユニフォームは重要だ」

アンドレア・ピルロも「(スパレッティは)自分が考え、言ったことを貫いてきた」とコメント。「監督やチームメートと話すのに弁護士が必要か?」と、指揮官を支持した。

元日本代表監督のアルベルト・ザッケローニは、『Radio1Rai』の番組で「私も同じことをしただろう。私ならチームへの説明を求めた」と、イカルディはチームと話し合うべきだったと述べている。

もちろん、イカルディを支持する者もいる。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』電子版によると、コッラード・オッリーコは『Radio Crc』で「どうして腕章をはく奪したか分からない。私なら二度とピッチに立たないね」と、そもそものインテルの対応を批判した。

◆因縁のウルトラスはクラブに放出要求

いずれにしても、イカルディを口撃したうえでジェノア戦での復帰を示唆していたスパレッティは、実際に背番号9を招集し、先発起用まで明言した。

だが、まさにその日、ウルトラス「クルヴァ・ノルド」は、イカルディに決別宣言をつきつけている。声明のタイトルは「インテリスタと前進、イカルディは去れ!」。クラブに放出を要求する内容だ。

クルヴァ・ノルドは、イカルディは「腕章のみならず、チーム団結のための未来を築くために必要な気質を持ち合わせていないことを証明した」と断じ、その振る舞いは「もはや容認されるべきではないと満場一致で決定した」。

さらに、「シーズン終盤を危うくするリスクを負ってでも、直近および将来の道のりを共有するつもりがまったくないように見受けられるグループから彼を遠ざけるために必要な措置をできるだけ早く講じる」ことをクラブに要求。CL出場権を失ってでも、イカルディ放出に動くべきと主張している。

「グループというコンセプトを中心としたプロジェクトなしにCL出場権を獲得しても、成功しない未来の土台をつくるに過ぎない。そしてイカルディがそのコンセプトに含まれないのは明白だ」

「チームという価値が最優先」というクルヴァ・ノルドは、「イカルディはもうインテルの一員ではなく、今後はそのように扱う」と絶縁を宣言している。

クルヴァ・ノルドがイカルディをこき下ろすのは、今に始まったことではない。両者は以前から衝突を繰り返している

ただ、イカルディはプレーで一般のファンの信頼を勝ち取ってきたが、今回はその一般ファンからの批判も多かった。それだけに、今後のサポーターの対応が注目されるところだ。『メディアセット』のアンケートでは、1万7000人のユーザーのうち、56%がクルヴァ・ノルドを支持した。

◆「全員敗者」からの失地回復なるか

確かなのは、スパレッティが会見で口にしているように、今回の騒動では「全員が敗者、あるいは勝者なし」だったということだろう。

『ガゼッタ』は、イカルディの市場価値が今季だけでほぼ半減したと報じた。スパレッティはシーズン後の退任が有力視され、クラブもイメージダウンに加え、CL出場権を失えば財政に響く

少しでもダメージを軽くするには、CL出場権を得ることだ。そして、その道は決して容易ではない。残り9試合で、インテルはローマやユヴェントス、ナポリとの対戦を残している。少なくとも残り2カ月、共通の目標に向けてだけでも団結できれば、少しは失地回復となるかもしれない。

サッカーとそのファンを取り巻く環境は、じつに不思議なものだ。ゴールがすべてを解決へと向かわせることもある。イカルディがネットを揺らせば、事態が好転する可能性も否定はできない。

それでも、シーズン後に何があるかは、誰にも分からないが…。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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