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松原みき「真夜中のドア~stay with me」が海外発で40年ぶりのヒット。その立役者2人とは?

柴那典音楽ジャーナリスト
(提供:フジパシフィックミュージック)

松原みきが約40年前にリリースしたデビュー曲「真夜中のドア~stay with me」が、今、海外で大きな注目を集めている。

Spotifyのバイラルチャート「グローバルバイラルトップ50」では2020年11月頃から急上昇し、2020年12月には18日連続で世界1位を記録。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン、オーストラリア、インド、シンガポール、フィリピンなど各国のバイラルチャートでも1位となった。

(松原みき「真夜中のドア~stay with me」 提供:ポニーキャニオン)
(松原みき「真夜中のドア~stay with me」 提供:ポニーキャニオン)

こうした状況を受け、ポニーキャニオンの公式YouTubeチャンネルでは2020年12月25日に「真夜中のドア~Stay With Me」の公式リリックビデオの配信をスタート。こちらの再生数も伸び続けている。

さらに、入手困難な商品や廃盤により発売を終えた商品の復刻を目指すポニーキャニオンのプロジェクト「パッケージ・オーダー・プロジェクト<POP>」でも、「真夜中のドア/Stay With Me」(7インチシングル)復刻盤と、同曲のアルバム・バージョンをA面1曲目に収録した1stアルバム『POCKET PARK』(LPレコード) 復刻盤の商品化が決定した。

松原みき『POCKET PARK』(提供:ポニーキャニオン)
松原みき『POCKET PARK』(提供:ポニーキャニオン)

この現象には、いくつかの背景がある。

ひとつは、ここ数年に渡って70〜80年代の日本のシティポップがアジアや欧米の音楽ファンの間で人気を呼んでいることだ。こうしたムーブメントの立役者の一人が、インターネット発の音楽ジャンル「フューチャー・ファンク」の代表的なアーティストである韓国のDJ・プロデューサー、Night Tempo。彼がきっかけのひとつとなり2017年頃から竹内まりや「Plastic Love」が世界的なシティポップのブームを築いていったのだが、当時から「真夜中のドア~stay with me」もシティポップ・アンセムとして海外の音楽ファンの間に浸透していた。

2月12日には、そのNight Tempoによる「真夜中のドア~stay with me」の公式リエディットも配信リリースされた。

『松原みき – Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』(提供:フジパシフィックミュージック)
『松原みき – Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』(提供:フジパシフィックミュージック)

これまで「昭和グルーヴ」と銘打ち、Wink、杏里、1986オメガトライブ、BaBe、斉藤由貴、工藤静香などの名曲の数々を公式リエディットしてきたNight Tempo。そのシリーズ第7弾としてリリースされた『松原みき – Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』では、「真夜中のドア~stay with me」に加えNight Tempo自身のフェイバリット・ソングである「ニートな午後3時」をセレクトし、フューチャー・ファンクのサウンドへとアップデートしている。

そして、もうひとつの背景はTikTok発のバイラル・ムーブメントだ。

昨年11月から、海外のTikTokユーザーの投稿動画に「真夜中のドア~stay with me」が使われるようになり、一気に若い世代に広まった。日本にルーツを持つユーザーが母親に曲を聴かせた様子を撮影したリアクション動画が600万回以上再生されるなど、バイラルヒットの直接的な引き金となっている。

その火付け役となったのがインドネシアで活動する女性シンガー、Rainych(レイニッチ)。スマトラ島在住で、2016年からJ-POPやアニソンのカバーを自宅のベッドルームからYouTubeに投稿してきた。日本語は話せないが、地元インドネシアで日本語の歌を愛好する歌い手のコミュニティに出会ったことが活動を始めたきっかけだという。

地道に活動を続けてきたが、昨年3月にアメリカの人気女性ラッパー、Doja Catのヒット曲「Say So」を日本語カバーした動画を投稿すると、これが本人のTikTokで絶賛されるなど世界的な注目を集め、チャンネル登録者140万人を超える(2月18日現在)人気ユーチューバーとなった。

そのレイニッチが10月末に「真夜中のドア~stay with me」を公開すると、彼女の甘くキュートな歌声が大きな反響を巻き起こし、再生回数は220万回を超える(2月18日現在)人気動画に。インドネシア、タイ、マレーシアなど東南アジアから英語圏に話題が広がり、これを追い風に松原みきのオリジナル版が世界的ヒットになったという経緯だ。

2017年に竹内まりや「Plastic Love」のブームが巻き起こった時には楽曲がサブスク配信されておらず(2020年12月に配信開始)非公式の音源が海外ユーザーに多く聴かれていたのに対し、松原みきの楽曲はすでにサブスクで配信中。レコード会社側もリバイバルヒットを後押ししている。

CDと違い過去のカタログ音源が楽曲単位で注目を集め再生されることで収益につながるのがサブスク時代の音楽ビジネスの新たな特徴である。今後もシティポップの世界的なリバイバルヒットが生まれていきそうだ。

音楽ジャーナリスト

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

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