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映画やドラマにも多い「ホロコースト時代のソビボル絶滅収容所の大脱出」から79年:記憶のデジタル化

佐藤仁学術研究員・著述家
(米国ホロコースト博物館提供)

1943年10月14日に約600人の囚人が反乱して脱出に成功

第二次世界大戦中にナチス・ドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。ポーランド東部のルブリンのソビボルに設置された絶滅収容所では約25万人のユダヤ人が殺害された。

そしてこのソビブル絶滅収容所では、今から79年前の1943年10月14日に収容されていたユダヤ人やソ連軍捕虜らが600人が反乱を起こして、警備している親衛隊らを殺害して脱出を企てた。逃亡中に殺害されてしまったり、捕獲されて処刑されてしまった囚人もいたが、脱出に成功した人々の約半数が生き残ることができて、戦後になって当時の記憶や体験を語っている。

ソビブル絶滅収容所の大脱出は1987年の英国の映画「Escape from Sobibor」(邦題「脱走戦線 ソビボーからの脱出」)、2018年のロシアの映画「Sobibor」(邦題「ヒトラーと戦った22日間」)や、多くのドキュメンタリーやドラマなどにもなっている。2001年に制作されたフランスのクロード・ランズマン監督『Sobibor, Oct. 14, 1943, 4 p.m』(「ソビブル、1943年10月14日午後4時」)なども有名。

▼「ヒトラーと戦った22日間」

▼「Sobibor」

▼「Escape from Sobibor」

ソビブル絶滅収容所からの脱出を描いた映画、ドラマ、生存者の記憶のデジタル化

ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもされている。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。たしかに見ていて気持ちよいものではない。

ホロコースト映画は史実を元にしたドキュメンタリーやノンフィクションなども多い。実在の人物でユダヤ人を工場で雇って結果としてユダヤ人を救ったシンドラー氏の話を元に1994年に公開された『シンドラーのリスト』やユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の体験を元にして制作され2002年に公開された『戦場のピアニスト』などが有名だ。史実を元にした映画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の授業で視聴されることも多い。ソビブル絶滅収容所を扱った映画やドキュメンタリーもノンフィクションである。ドキュメンタリーなのでホロコースト教育の教材にも活用されやすい。

一方で、フィクションで明らかに「作り話」といったホロコーストを題材にしたドラマや映画も多い。1997年に公開された『ライフ・イズ・ビューティフル』や2008年に公開された『縞模様のパジャマの少年』などはホロコースト時代の収容所が舞台になっているが、明らかにフィクションであることがわかり、実話ではない。

戦後75年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。ソビブル絶滅収容所から脱出に成功したユダヤ人の体験や記憶を伝える証言はいくつもあり、多くがデジタル化されて今でもオンラインでアクセスができる。また脱出に成功した人々が伝える絶滅収容所での様子は貴重であり、生存者の多くの証言を元にした博物館の展示もデジタル化されている。ソビブル絶滅収容所からの脱出を描いた映画やドラマ、ドキュメンタリーも彼らの証言を元に制作されている。

デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画の視聴には慣れている人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。またホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画をよく見るという大人も多い。

世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界の出来事であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのは映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。

▼ソビブル絶滅収容所から脱出に成功した生存者らの証言

▼『Sobibor, Oct. 14, 1943, 4 p.m』

▼イスラエルのヤド・ヴァシェムが伝えるソビブル絶滅収容所大脱出からの79年

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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