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<ガンバ大阪・定期便109>不屈の男、福田湧矢が戦列復帰。「長かったー!」。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
外国籍選手にも可愛がられる『愛されキャラ』も魅力の1つ。写真提供/ガンバ大阪

■約10ヶ月ぶりの公式戦。ポヤトス監督に掛けられた言葉。

 福田湧矢が待ち望んだ瞬間は、大きな歓声と拍手で迎えられた。33878人を集めた満員のパナソニックスタジアム吹田。離脱していた間も、繰り返し夢に出てきた場所だ。

「もともと僕はガンバファンだから。ガンバが勝つたびに、めちゃ嬉しい! って思いと、なんで自分はここにいないんや? って悔しさが心の中でぶつかって複雑です。でも、やっぱり僕はガンバが勝つのが嬉しいし、みんなが盛り上がっているのを見るのが好き。大体そんなことを考える時は自分がパナスタで試合をしている夢を見るんですけど、絶対にそれを夢で終わらせたくない。早くその瞬間を迎えられるように、ここから先はとにかく全力でやるだけです」

 話を聞いたのは、リハビリも最終過程に入り、部分合流が目前に迫った6月上旬。その時には、リハビリに寄り添ってくれたメディカルスタッフへの感謝はもちろん、ポヤトス監督に掛けられた言葉にも助けられたとも明かしていた。1月15日に左足首の強度の捻挫によって引き起こされた副骨障害による痛みを取り除くための内視鏡の手術を行なった福田は、その3週間後に同箇所を痛めてリハビリが振り出しに戻るというアクシデントに見舞われている。その「どん底にいた」時に掛けられた言葉だという。

「僕の様子を見てダニ(ポヤトス監督)が心配したのか『湧矢はいつもニコニコしているけれど今がいちばん、しんどいんじゃないか』って声を掛けてくれて。『大丈夫だ。ピッチに戻ればまた湧矢らしくサッカーができる。期待しているぞ』と言われて涙がブワッと溢れてしまって、その場でやばいくらいに泣きました。家で一人で泣くことはあっても、クラブハウスでは絶対に(弱みを)見せちゃいけないと思っていたのに歯止めが効かなくなっちゃった。でも、おかげで吹っ切れました」

 その手術から約7ヶ月。離脱から数えると約10ヶ月。J1リーグ第28節・アビスパ福岡戦で福田は戦列に戻ってきた。途中出場にあたってはポヤトス監督にしばしの間、抱きしめられ、想いを託された。

「湧矢を信頼している。落ち着いてやってこい。お前なら大丈夫だ」

 込み上げる感情をグッと堪え、スタジアム全体を視界にとらえてピッチに立つ。

「(ここまで)長かったー! ひっさびさやなーって思いと、やっぱりここは最高だっていう思いと、やるぞっていう思いと。ちょっと泣きそうにもなりながら…入る瞬間にはうわ〜っという歓声が届いて心強かった反面、その数秒後にはもう何も聞こえなくなっていました。ゾーンに入るっていうか、集中しすぎて。でもちゃんと満員のスタンドを目に焼き付けて入ったので、この応援が味方についているなら大丈夫って思っていました」

 高まる鼓動と緊張感が、幸せだった。

約10ヶ月ぶりの公式戦に、ポヤトス監督に背中を押され、両手でパンパンと頬を叩いて気合を入れて、ピッチへ飛び出した。写真提供/ガンバ大阪
約10ヶ月ぶりの公式戦に、ポヤトス監督に背中を押され、両手でパンパンと頬を叩いて気合を入れて、ピッチへ飛び出した。写真提供/ガンバ大阪

■熾烈なポジション争い。仲間と共存しながら自分らしさで勝負する。

 全体合流から約2週間が過ぎた7月の頭には、8月のJ1リーグ再開から試合に絡んでいければ理想だと話していた。

 いうまでもなく、少しでも早くピッチに立ちたいという思いはあったが、一方で1年近い時間をリハビリに費やしていたことを踏まえ「無理はせずに、できるだけ早く」と自身に言い聞かせてもいたからだ。同時に、チームが上位を争っている状況を受け、中途半端なコンディションではその競争に加わっていけないという自覚もあった。事実、福田が出場機会を狙うのは、ウェルトン、山下諒也、ファン・アラーノ、倉田秋、食野亮太郎、岸本武流ら、今シーズン、チーム内でもっとも熾烈な競争が起きているポジション。ましてやこれまでの戦いにおいて『結果』を残してきた選手たちが顔を揃えている。当然、そこに割って入るのは簡単ではなく、だからこそ真摯に我慢の時間と向き合った。

「メンバーに入るのすら難しい状況ですけど、体の準備も、絡んでいくイメージも、できています。いや、めちゃめちゃ、できています! だから早く試合に出たいって気持ちもめちゃめちゃあるし『出たらやれる』『自分だって負けていない』って思ってもいる。でも、そのメンタリティでいられるうちは絶対に自分は大丈夫だって思っています。それに、今、先発しているウェルトンも諒也くん(山下)もすごくいいプレーをしているから。そのことにリスペクトしながらも、自分が出たら、また自分の持ち味で勝負したいし、そのための準備を続けようと思います」

 そんな言葉を聞いたのは8月11日のJ1リーグ第26節・柏レイソル戦の前。『無得点』の試合が2つ続いていた時期ということもあって、起爆剤になりたいとも意気込んでいたが、同時に、チームの勝利を願う姿も福田らしかった。

「僕にとってはいつもガンバの勝利がいちばん。自分が試合に出ていなくても、いつも全力で応援しているし、勝利を願っています。もしかしたら、チームが勝てばメンバー外の選手のチャンスが遠のくんじゃないの? って思う人もいるかもしれないけど、僕はそうは思わない。ガンバの勝利も全力で願って、自分も全力で準備して監督が『こいつを使いたい!』と思うような選手になる。今はそのことに集中しています」

 そのアピールが監督に届いたということだろう。福岡戦で彼は復帰後初めて、メンバー入りを果たすと、83分からピッチに立つ。監督に背中を押され、同じタイミングでの出場になったネタ・ラヴィには、その瞬間を祝福するべく、ポンと頭を叩かれて。

「福岡戦を迎えるにあたっての練習がすごく調子が良くて。自分でも手応えを感じていたんですけど、そしたらダニがメンバーに入れてくれた。今週は宇佐美(貴史)くんと同じチームでボールを蹴ることが多かったのがよかったのかも。僕、宇佐美くんと一緒にサッカーをするとすごく楽しくなっちゃって、コンディションも勝手に上がるから。なんだろ、『この人、夢みたいな選手だな』って思って楽しくなっちゃう(笑)。今日も久しぶりに公式戦で一緒にプレーできて、やっぱり楽しかった」

 直近の天皇杯・湘南戦での弟・福田翔生の姿や、かつての仲間に受けた刺激も力になっていた。

「湘南戦が終わった後、翔生と康介くん(小野瀬)、耕平くん(奥野)で近くの温泉に行ったんです。湘南戦は翔生だけじゃなくて康介くんのアシストで耕平くんもゴールを決めていましたから。みんなが活躍している姿を見て『負けたくねぇ』『次は、俺だ』って思っていたのがよかったのかもしれない。だから、練習でももう1つギアが上がったのかも」

 与えられた時間は、7分間のアディショナルタイムを含めて約15分。その中では、福田らしくグイグイとドリブルで仕掛ける姿も。外から見ていた時以上のチームの変化にも驚いたという。

「今年のガンバは、去年までとは全然違う。外から見ていた時や練習でもそれは感じていたけど、公式戦に入ってみるとより感じました。みんなが前に、前に意識が向いているから、ボールを持った瞬間にもパスコースがいっぱいあるし、チーム全体に躍動感が漲っている感じもある。去年は正直、ボールをもらってもそこで詰まってしまうことも多かったし、自分の良さを出すことに苦労した部分もあったけど、今年のチームはいい状態でボールを受けられるし、みんながつながってゴールに向かえる感じもある。だからこそ、より自分の良さをチームの勢いに連動していけるんじゃないかって思いました」

 そして、だからこそ自分には『結果』がいると言葉を続けた。

「今日みたいに、仕掛けの部分で違いを出せたらな、とも思いますけど、やっぱりいちばん欲しいのは結果。ピッチに立ってみて改めて感じたけど、これだけみんなが自分の良さで勝負しようとしていますからね。競争は激しいし、少しいいプレーをしたくらいで序列が入れ替わるとも思わない。でもだからこそ、どうしてもこいつを使いたい、って思わせる結果がいるな、と。改めて今日、それを感じたのでこの先はその数字、アシストとかゴールにもこだわってやっていかなくちゃいけないと思っています」

プロ7年目。苦境に直面するたびに「サッカーができる幸せ」をリマインドして、強くなってきた。写真提供/ガンバ大阪
プロ7年目。苦境に直面するたびに「サッカーができる幸せ」をリマインドして、強くなってきた。写真提供/ガンバ大阪

■近い目標に据える、ガンバでのJ1リーグ100試合出場まで、あと6試合。

 戦列に戻った時から口にしていた直近の目標はJ1リーグで100試合出場を達成すること。福田曰くガンバでそれを達成することに意味があるという。

「今年でプロキャリアも7年目ですけど、その間、自分のケガとか脳震盪とかだけではなく、チームも残留争いに巻き込まれたシーズンも多くて苦しい時期も長かったけど、その全てをガンバで乗り越えてきたから。ガンバと一緒に苦しんできたし、ガンバと一緒に喜んできたし、もうサッカーができなくなるんじゃないか、って真っ暗闇の中にいた時期も、周りのチームメイトやスタッフにも助けてもらってガンバにいるから乗り越えられた。今回のケガは、これまででいちばん辛い時間だったけど、どんな時もガンバのエンブレムを背負っていることの責任が、自分を何くそと這い上がらせてくれた。そのガンバで刻む100試合は、僕にとってすごく特別なもの。今もガンバの一員でいられることへの感謝と意地と、プライドは誰よりも持っていると自負しているからこそ、それをピッチにぶつけたい。ガンバが大好きだという気持ちを、ガンバが勝つためのプレーで表現したいと思います」

 今シーズンのJ1リーグは残すところ10試合。福田のいう『100』までは、あと6試合。今シーズンのうちに彼がその目標を達成する可能性は十分にある。そして、そこには、彼が熾烈を極める終盤戦の起爆剤になる可能性も多分に含まれている。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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