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オスカーノミネーション発表。意外な結果に泣いた人、笑った人

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

第86回アカデミー賞のノミネーションが、アメリカ西海岸時間16日午前5時38分に発表された。作品部門に候補入り確実と思われていた「それでも夜は明ける」「アメリカン・ハッスル」「ゼロ・グラビティ」「キャプテン・フィリップス」「あなたを抱きしめる日まで」「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」は予想どおりノミネーションを果たしたが、あちらこちらで予測を裏切る結果もあった。眠れない夜を過ごし、朝5時からテレビの前でライブ中継を待った人たちのうち、笑った人、泣いた人は、この人たちだ。

笑った人

*レオナルド・ディカプリオ&ジョナ・ヒル「ウルフ・オブ・ウォールストリート」

ディカプリオは主演男優部門、ヒルは助演男優部門にノミネート。だが、このふたりをはじめとするこの作品のキャストは、SAG(俳優組合賞)にまったくノミネートされていない。俳優は、アカデミー会員の中で一番大きい割合を占め、その人たちがSAGにも投票するため、SAGにまるきり引っかからなかった段階で、オスカー候補入りの道は険しくなったと思われていた。作品も、批評家の評価は高い一方、悪いことをした人を華やかに描いているという批判も上がり、アメリカでは論議も呼んでいる。しかし、その大胆な映画を71歳にして作ったマーティン・スコセッシ監督の勇気とエネルギーは高く評価され、DGA(監督組合賞)にノミネートされており、オスカーにも監督部門ではおそらくノミネートされるだろうと予測されていた。

*アレクサンダー・ペイン&ジューン・スキッブ「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」

ペインは、DGAへのノミネーションを逃している。が、オスカーでは、DGAに入ったポール・グリーングラスを差し押さえて候補入りした。同作品からは、スキッブも助演女優部門にノミネート。代わりに、この部門で候補入りするのではとささやかれていたオプラ・ウィンフリー(『大統領の執事の涙』)はノミネーションを逃した。

泣いた人

*トム・ハンクス&ポール・グリーングラス「キャプテン・フィリップス」

作品部門には入ったが、ハンクスはSAG、ゴールデン・グローブ、英国アカデミー賞、グリーングラスはDGA、英国アカデミー賞、ゴールデン・グローブ、ロンドン映画批評家サークル賞にノミネートされており、主演男優部門、監督部門での候補入りも期待されていた。ハンクスはレオナルド・ディカプリオ、グリーングラスはアレクサンダー・ペインに奪われた。

*ロバート・レッドフォード「オール・イズ・ロスト〜最後の手紙〜」

1時間46分、ほとんどせりふもなく、ひとり芝居状態で観客を惹きつけ続ける名演技は、昨年のカンヌ映画祭で大喝采を受け、インディペンデント・スピリット賞、ゴールデン・グローブにノミネートされた。オスカーでも主演男優部門の有力候補と思われていた。もし候補入りすれば、俳優部門では「スティング」以来、40年ぶりのノミネーションとなるはずだった。

*エマ・トンプソン「ウォルト・ディズニーの約束」

今回最大のサプライズと言えるのは、アカデミーに愛されているこの人の候補漏れ。SAG、ゴールデン・グローブ、英国アカデミー賞にノミネートされており、オスカーノミネーションもほぼ確実と思われていた。エイミー・アダムスに奪われた形。

*ダニエル・ブリュール「ラッシュ/プライドと友情」

伝説のレーサー、ニキ・ラウダを演じて、SAGとゴールデン・グローブにノミネート。オスカー候補枠は、ジョナ・ヒルに奪われた。

*「大統領の執事の涙」

アメリカでこの夏大ヒットしたこの作品は、SAGにもノミネートされ、作品部門、主演男優部門(フォレスト・ウィテカー、)助演女優部門(オプラ・ウィンフリー)で期待をされていた。PGA(プロデューサー組合賞、)ゴールデン・グローブの候補入りを逃したあたりから希望は小さくなっていたが、オスカーにはまるきり引っかからなかった。

*「インサイド・ルーウィン・ディヴィス 名もなき男の歌」

昨年のカンヌ映画祭でプレミアし、審査員特別グランプリを獲得。批評家受けも良く、北米の各都市の批評家賞にノミネートされ、トロント映画批評家協会からは最優秀作品に選ばれた。主演のオスカー・アイザックも、トロントとバンクーバーの批評家協会から主演男優賞を獲得しており、オスカーにも多少の可能性を匂わせていたが、かなわなかった。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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