「五輪をデジタル化する」アリババのジャック・マーが平昌で明かした壮大な構想
「五輪のデジタル化を目指す。」
2018年2月10日、韓国江原道江陵市オリンピックパークで、アリババグループ・ショーケースのオープニングセレモニーが開催された。上記は創業者ジャック・マー氏の言葉だ。アリババグループは2018年から五輪の最上位スポンサーであるワールドワイドパートナーの一員となった。アリババグループの力で五輪のデジタル化を支援していくという。
五輪のデジタル化とは何を意味しているのか。この点については董本洪(クリス・トン)CMOから説明があった。
・現場体験の向上
参加選手及び観客に都市内での正確なナビゲーションを提供し、最も的確な方法で会場までナビゲーションする。また突発的な天候の変化を伝える、あるいは(ARなどの)没入型テクノロジーで臨場感ある体験を提供する。
・開催地にスマートシティー都市計画を提案
未来の開催地が会場建設を計画する際、AIが地理空間のデータ分析を行い、最も適切な候補地を選出する。
・五輪の安全管理
生体認証技術を活用し、会場の安全確保、混雑緩和に貢献する。
・アスリートのトレーニング効率を向上
機械学習によって、睡眠、栄養、トレーニングの関連性におけるモデルを構築。また温度、風速など自然環境の影響も考慮し、アスリートが最適なトレーニング効果を得られるようにする。
・五輪コンテンツの配信を強化
競技映像の保存、放送、検索に関する技術を支援。ファンは見たい場面をいつでも視聴できる。
また説明であげられた分野以外では、ECへの取り組みもある。ショーケースにはEC関連技術の展示ブースがあり、実際に試着しないでも大型ディスプレイで試着した映像を表示できる機器や、国籍などの個人情報にあわせてオススメの五輪グッズをリコメンドするシステムが展示されていた。
ECやコンテンツ配信、生体認証の活用はイメージできるが、それ以外の項目についてはまだ具体性に乏しい。もっともアリババグループとIOCの契約は2018年に始まったばかり。クリス・トンCMOはアリババグループの取り組みが本格的に始まるのは2022年の北京冬季五輪以降になると説明していた。
まだ具体性を考える段階ではないだけに、逆に壮大な構想が楽しみとも言える。例えば「アスリートのトレーニング効率」だが、中国ではトレーニングアプリ「KEEP」が人気を集めている。自分のトレーニング内容をシェアしたり、あるいは公開されたトレーニングプログラムを入手できるサービスだ。有名人が教えるダイエットプログラムを試してみるといった使い方で人気となった。その延長線上で、アスリートの効率的なトレーニング方法がシェアされるようになれば、貧しい途上国のアスリートのレベルアップにつながるとの構想が披露されていた。
またAIによる都市計画の立案も、実現までのハードルは高いが興味深いプロジェクトだ。アリババグループはすでに都市交通改善のAIをリリースしている。浙江省杭州市では監視カメラから得た道路交通情報を画像認識によってデータ化。AIの判断によって信号の最適化を実行することによって渋滞時間が15.3%減少したと発表された。この都市交通改善AIは広州市や蘇州市、さらにはマレーシアのクアラルンプール市でも導入される。
五輪を目指すアスリートがトレーニングプログラムをシェアするのか? AIが立てた都市計画を開催地が受け入れるのか? 実現性には疑問符がつくが、それはそれとして面白そうなのは間違いない。最近日本でも注目を集めているが、急成長する中国IT企業の力はモバイル決済やEC、シェアリングエコノミーによって中国社会の様相を変えた。その力は五輪の姿をも変えるものになるのか。アリババグループとIOCの契約は10年間だ。この間に何ができるのか、注目したい。