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「命を奪ってる」ワクチンデマでFacebookを大統領が非難する事情

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

「(フェイスブックなどのソーシャルメディアは)人々の命を奪っている」とバイデン米大統領は強い調子で非難した――。

バイデン氏は7月16日、新型コロナの誤情報に関するソーシャルエディアの責任についての報道陣の質問に対して、こんな表現で応じた。

その前日には、米公衆衛生政策のトップである公衆衛生総監、ビベック・マーシー氏が、やはりソーシャルメディアの対策強化を勧告したばかり。

報道官のジェン・サキ氏もバイデン氏の発言に先立つ会見で、「(ソーシャルメディア上の接種拒否を招く情報で)人々が亡くなってる」と発言していた。

バイデン氏は、独立記念日である7月4日までに少なくとも1回の接種率70%達成を掲げていたが、まだようやく50%を超えたところだ。

ワクチンデマなどの新型コロナにまつわる誤情報をめぐり、バイデン政権がソーシャルメディア批判を強めていることに対しては、フェイスブックは「接種目標を達成できなかったことの、スケープゴートにされている」と反論。

また、保守派からは「表現の自由」の侵害、との声も出ている。

●バイデン氏の発言

彼らは人々の命を奪っている。今、パンデミックが起きているのは、ワクチン未接種の人々だけだ。それはつまり、彼らが人々の命を奪っているということだ。

報道陣から「新型コロナの誤情報について、フェイスブックのようなプラットフォームへのメッセージを」と問われて、バイデン氏は「人々の命を奪っている(killing people)」という表現を2度、口にして非難した

バイデン政権は、新型コロナにまつわる誤情報、特にワクチン接種をめぐる誤情報対策について、フェイスブックなどのソーシャルメディアへの要求を強めている。

この前日、7月15日には、米公衆衛生総監のビベック・マーシー氏がホワイトハウスで記者会見を行い、ワクチンの誤情報を含む新型コロナウイルス誤情報が「公衆衛生への差し迫った脅威」であるとして、対策強化の勧告を発表。

この勧告の中では、「コンテンツ推薦のアルゴリズムを再設計し、誤情報の増幅を避けること」など、プラットフォームのシステムそのものの見直しに踏み込んで、対策強化を求めている。

※参照:「SNSはアルゴリズム見直せ」コロナデマ拡散で衛生トップが勧告(07/16/2021 新聞紙学的

また、この会見の席で、報道官のサキ氏も、政府としてフェイスブックなどに対策を求めてきたと言及。特にフェイスブックに対しては、新型コロナとワクチンの誤情報について、そのエンゲージメントに加えて、拡散の規模やそれが表示されたユーザーについても、データを公表すべきだとした。

さらにサキ氏は、翌16日、バイデン氏の発言に先立つ記者会見でも、「全米で多くの人々が、誤情報に触れたことでワクチン接種を拒否し、亡くなっている。それが我々の最大の懸念だ」と述べている。

●フェイスブックの反論

当社は事実に基づかない非難に惑わされることはない。20億人以上の人々がフェイスブック上で新型コロナとワクチンについての信頼できる情報を目にしている。これはインターネット上のどのサイトよりも多い。さらに330万人以上の米国市民が当社のワクチンファインダーを使い、ワクチン接種の場所と手続きを確認している。これらの事実は、フェイスブックが救命に役立っていることを示している。以上

NBCニュースとMSNBCのシニアメディアリポーター、ディラン・バイヤーズ氏が、こんなフェイスブックの公式声明を紹介している。

さらにフェイスブックは、こんな追加の声明も出しているという。

公衆衛生総監には、プライベートなやり取りでは、新型コロナに関する情報提供など当社の取り組みを賞賛していただいている。つまり政権の反応には狙いがある、ということだ。ホワイトハウスはワクチン接種目標を未達成のスケープゴートを探しているのだ。

バイデン氏は5月4日、2カ月の後の独立記念日、7月4日までに成人の70%が最低1回の接種、1億6,000万人が2回接種を行う、との目標を発表した

だが、なお1回接種率は60%にも到達せず、2回接種率も50%に届いていない

フェイスブックは、その「スケープゴート」にされている、と政権を批判しているわけだ。

また、共和党下院議員のケン・バック氏のツイッターへの投稿は、プラットフォームの誤情報対策に批判的な保守派の主張を反映している。「これは、(表現の自由を定めた)憲法修正第1条への攻撃だ」

●情報を開示しない

ニューヨーク・タイムズは、バイデン政権による、特にフェイスブックに照準を絞った批判の背景に、同社への不信感がある、と指摘する。

どれほどのワクチン誤情報があり、それに対してどのような対応を取っているか。ホワイトハウスからの再三の情報提供要請に対して、フェイスブックは基本的な情報共有すら行ってこなかった、と同紙は報じている。

同様の対応は、ワシントンDCの司法長官のフラストレーションともなっており、同長官は6月、フェイスブックに対して文書提出命令を出した、とアクシオスが報じている

※参照:コロナワクチンのデマ対策、Facebookに司法長官が問いただす(07/04/2021 新聞紙学的

ワクチン誤情報をめぐる、非難合戦の様相も出てきている。

(※2021年7月17日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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