香川真司、原口元気、セレッソ大阪への思い──31歳を迎えた清武弘嗣インタビュー
天皇杯・ACL圏内浮上のカギを握る清武
新型コロナウイルスの影響で紆余曲折を強いられた2020年のJ1も終盤に突入している。首位・川崎フロンターレが勝ち点68で独走状態にあるが、興味深いのは天皇杯出場枠の2位、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)出場圏内の3位争い。
現時点では同52の2位・ガンバ大阪、同49の3位・名古屋グランパスが優位にいるが、名古屋と勝ち点で並ぶセレッソ大阪にも十分チャンスがあると言っていい。
そのためにも、今日12日に31歳の誕生日を迎えたキャプテン・清武弘嗣のさらなる飛躍が求められる。
「俺はゴールとアシスト両方とも2ケタを目指してます」と言い切るセレッソの10番は、目に見える結果を残して、チームを天皇杯とACLへ導く覚悟だ。
香川真司へのリスペクトを胸に高みを目指す
――今季はここまで5ゴール7アシスト。シーズン終盤になっても好調ですね。
「今年は数字にこだわろうと思ってるんで、積極的にいろいろやってます。正直、アシストの方が好きですけど、数字にこだわる意味ではゴールは外せない。残り試合も少なくなってきましたけど、両方2ケタに乗せたいと強く思ってます。チームもまだ天皇杯タイトルの可能性は残っているんで、頑張りたいですね」
――切れ味鋭い一挙手一投足を見ていると、以前から比べられてきた香川真司選手の領域に達したようにも感じます。
「いやいや、真司君はすごすぎて、比べられるレベルじゃないですよ。真司君は今は難しい状況にあるとは思うんですけど、ドイツ、イングランド、スペインでやってきたことだけでもすごいし、リスペクトの気持ちはずっと変わんないですね。
つねに自分の先を行ってる人だったんで、どうやったら追いつけるかってことばっかり考えてたかな。真司君はゴールへの執着心とか数字にすごいこだわっていたし、貪欲だった。僕はそこが足りなかったし、そうした重要性が年齢を重ねるごとに分かってきました。真司君をリスペクトしつつ、自分のよさを磨かないといけないと強く感じています」
――それに気付いたのはいつ?
「ドイツ時代ですね。真司君はドルトムントという攻撃的な強豪チームにいたけど、僕はニュルンベルクやハノーファーといった中堅でプレーしていましたよね。当時は全員でブロック敷いて『守備からカウンター』のサッカーを必死にやってました。僕にはそういうサッカーが合ってるし、得意なのかなと今になって思います」
ドイツ・スペイン時代の経験を生かせるロティーナサッカー
――ロティーナ監督が率いている現在のセレッソもそれに近いスタイルですね。
「ロティーナとイバン(・パランコ=コーチ)の求めるサッカーは確かにブロックを組んで守備をするので、ドイツ時代の懐かしさを感じます。1年半くらいかかったけど、今は消化できてます」
――セビージャ時代は主導権を握るサッカーで、ドイツやセレッソとは違うように映りました。
「セビージャ時代はサンパオリが監督で、その下にコーチのリージョがいて、ものすごく細かい指示をされるので難しかった。セビージャで自由を与えられたのは、ナスリ(アンデルレヒト)とエンゾンジ(スタッド・レンヌ)だけ。ドイツの頃はずっとフリースタイルだったんで、戸惑いはありました。ただ、立ち位置や役割が明確に決まっているポジショナルプレーという点では、今のセレッソに通じるところは少なからずありますよ」
――今のセレッソでは、清武選手がナスリやエンゾンジのような立ち位置ですね。
「いや、俺は全然フリーじゃないです(苦笑)。立ち位置に戻るっていうのは自分ではしっかり決めてるし、幅と深さを意識しながら、周りのポジションやボールを持ってる人の状況を見ながらやってる感じです。
今シーズンを戦って感じるのは、今のセレッソのやってる方向性は間違っていないということ。今までにないセレッソの形が作れていると思います。それに『ここにいたらもっとスムーズにボールが回るよな』とか『もっと幅を取った方がいい』というように、サッカーを見る感覚も確実に変わってきた。それもロティーナのポジショナルプレーが浸透した証拠だと思います」
――チームが着実に成熟度を増す一方で、左サイドハーフ・清武選手の存在感が大きすぎるのは少し気になる部分です。
「確かにそうかもしれない。今は31歳の俺、30歳の(柿谷)曜一朗と29歳のトシ(高木俊幸)の3人ですけど、その下がなかなか出てこない。タツ(坂元達裕)が今年、山形から来て右サイドを引っ張ってくれてますけど、左はちょっと見つからないですね。(西川)潤も(藤尾)翔太も左はやりませんし、『おまえ、いらねえよ』ってくらいの強気の左サイドの若手が出てきてくれれば、すごく楽なんですけど……」
ハノーファーの10番を継承した原口元気への思い
――清武選手と同タイプの選手は森保ジャパンを見渡しても少ないですね。ロンドン世代の2列目アタッカーはもはや原口元気選手(ハノーファー)1人。その彼も周囲を生かす役割を献身的に担っています。
「そうらしいっすね(笑)。元気も年齢的にそういう役回りなんだろうし、元気ならしっかりやるんじゃないですか。ハノーファーでも10番だし、今は元気のチームみたいになってるっていうから、代表戦であいつを見るのはすごく楽しみですけど」
――原口選手はもともと自分を前面に押し出すタイプですよね。周囲のサポート役という意味では清武選手の方が向いてるようにも感じます。
「いやいや、全然そんな目線で見てないですし、俺が語れるレベルじゃないんで(苦笑)。
代表の攻撃に関して1つ言えるのは、今は守備のタスクをこなさないといけないから、攻撃に100%力を使うのはなかなか厳しいということ。だからこそ、チームとしてサポートし合いながらやっていくことが大事なんです。10月のカメルーン、コートジボワールとの2試合は『もどかしいんだろうな』と感じながら試合を見てました。
それでも、1人1人がプレッシャーに行く意識の高さ、切り替えの速さは今の代表に合っているし、大きな強みになってます。それに久しぶりの試合で準備時間もなかった。これから徐々に攻撃の形もできていくと思います。選手個々のパフォーマンスが代表でしっかり発揮されることを願いながら、僕はこれからも1ファンとして応援しますよ」
――森保さんは「選手は年齢では選ばない」と言っています。同世代の永井謙佑選手(FC東京)も昨年、30歳で呼ばれています。
「もちろん僕も代表への欲はありますけど、今の自分が代表レベルでプレーできているかといったらそうでもない。1年間しっかり高いレベルでプレーして、チームとしてもいい結果を残すことが先決なんです。これからの自分がどうなるか全く見えないけど、とにかく1年間をケガなくしっかり終えたい。そこに集中していきます」
香川越えのためにも2ケタゴールは必須!
セレッソ大阪に残された今季リーグ戦は8試合。そこでゴールを量産できれば、香川真司がセレッソ時代に残した数字に少しでも近づけるかもしれない。1つ上の偉大なアタッカーは2008年J2での16ゴール、2009年のJ2・27ゴールと2部ながら2年連続2ケタ得点をマーク。2010年J1でも半年の在籍期間で7ゴールと点を取りまくった。その香川を越えるためには、やはり今季2ケタ得点は必須と言っていいだろう。
清武らしいスキルを活かしたゲームメークや長短のパス出しに数字が伴えば、もはや怖いものはない。充実したシーズンを過ごすためにも、まずは目標を達成し、最高の形で2021年につなげていくことが肝要だ。Jのレベルを超越した華々しいパフォーマンスを彼には大いに期待したい。
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■清武弘嗣(きよたけ・ひろし)
1989年11月12日生まれ。大分県大分市出身。2008年、大分トリニータU-18からトップチームに昇格。2010年、大分のJ2降格に伴い、セレッソ大阪に完全移籍。2011年8月に行われた韓国戦でA代表デビュー、2アシストの活躍を果たす。2012年5月、ドイツ・ブンデスリーガのニュルンベルクに移籍。同年8月のロンドン五輪では、U-23日本代表メンバーとして全試合に出場、44年ぶりのベスト4に導いた。2014年のブラジルW杯にも日本代表メンバーに選出されるが、出場機会は第3戦の後半40分から途中出場しただけに終わった。その後、ドイツ・ブンデスリーガのハノーファーに移籍。2016年にはスペインの名門セビージャに移籍した。リーガ開幕戦では1ゴール1アシストの衝撃のデビューを飾ったが、その後は出場機会に恵まれず、2017年2月にセレッソ大阪に4年半ぶりに復帰した。