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飽くなき探求心と誠実さと――DREAMS COME TRUE 全国の郵便局でも販売中の最新作が好調 

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

10月21日、『DREAMS COME TRUE CONCERT TOUR 2017/2018 THE DREAM QUEST』の初日、さいたまスーパーアリーナ公演を観た。ツアーは来年3月まで続くので、中身の詳細についてはもちろん触れないが、笑顔で人生を謳歌するために、また、観ている人もそうであって欲しいという思いを込め、吉田美和は歌い、中村正人はベース弾き、バンドを率いて音楽を楽しんでいるのだと改めて感じた。そしてドリカムらしくあること、自由であることを貫いていた。それはこのツアーの源でもある、3年ぶりのオリジナルアルバム『THE DREAM QUEST』でも、しっかりと感じる事ができる。アルバムの資料には「音楽的大冒険に満ちた」という言葉があるが、それこそがドリカムらしさ、自由に音楽の旅を続けるという二人の変わらぬ姿勢を表している。

『THE DREAM QUEST』はCDはもちろん、デジタルでも好調。全国の郵便局でもCDを発売するという画期的な施策を実現

『THE DREAM QUEST』(10月10日発売)
『THE DREAM QUEST』(10月10日発売)

そんな『THE DREAM QUEST』(10月10日発売)は、初週で約7万枚を売上げ、アルバムランキングで1位を獲得した。この作品は2014年8月にリリースされ『「ATTACK25」以来約3年ぶり、通算18枚目のオリジナルアルバムで、これまでのアルバム総売上枚数は約3,000万枚と、長年、多くのファンから愛され続けている事がわかる。ドリカムの凄さは、CD=パッケージだけでなくデジタルでもその強さを発揮している事だ。ビルボードジャパンが発表している週間デジタルアルバムランキングでも1位に輝き、ユーザーの音楽の聴き方にもしっかり対応している。さらに今回はパッケージを、全国約4,500か所の郵便局でも発売するという、まさに目から鱗の施策を実現させた。レコードショップが少なくなっていく現状、最強のネットワークを誇る郵便局でCDを売るという、新しい販路を開拓し、まさにドリカムのファン層である老若男女が、日本中でどこででもCDを手に入れる事ができる環境を作り出した。

そんな一人でも多くの人に聴いて欲しいという変わらない思いの元、作り上げた『THE DREAM QUEST』には、ノーザンソウル、ファンクをベースに、情緒や、どこか郷愁感を感じせてくれるエッセンスを、洗練されたアプローチで融合させた、独特のポップスを追求し続ける、ドリカムの変わらない姿勢を感じる。そしてその先には、ポップスという言葉で表すことさえもどかしくなる、壮大なエンタテイメント性を感じさせてくれる音楽が広がっている。

最新の音楽、エンターテイメントが生まれる街・ニューヨークでレコーディングを敢行。圧倒的な熱量、刺激の中で音作り

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今回はニューヨークでレコーディングに臨んだ事も作品に大きく影響しているようだ。オフィシャルインタビューで吉田美和は「以前ニューヨークを訪れた時に、東京で感じた時と同じようにピンと来て、またここでも音楽をやっていくんだっていう気がすごいしたんです」と、アーティストの感性を大いにくすぐられる場所と言い、中村正人は「R&Bにしても、ソウルにしても、民族音楽なので、その土地の空気感に触れるか触れないかというのは大きな違いだと思います。でも、そういった音楽的な背景にあるものというよりも、たとえばブロードウェイなんかは象徴的なのですが、ここはすべての表現が生まれる元というのかな」と、自身のルーツミュージックのルーツの場所に身を置く事で、音楽への“感じ方”を再確認したようだ。さらに「役者もたくさんいるし、ミュージシャンも星の数ほどいるし、そこでみんなが一番を目指している。やっぱりアメリカン・ドリームっていうのがまだあるわけで。エンタテインメントに関しては熱量が違うというかね」(中村)と、そう話しているこの瞬間も、この街のどこかで世界中を熱狂させる音楽、エンタテイメントが生まれているかもしれない、そんなドキドキ、ワクワク、そしてヒリヒリする空気で満ちた場所で音を鳴らす事で今作を、よりエンターテイメント性が高いものに仕上げていった。

まだまだ音楽を探求する旅は続く――そう感じさせてくれる、エネルギーとエンターテイメント性とが溢れるアルバム

そんな作品の中身にスポットを当ててみると、既発曲のアルバムバージョンや、そのオリジナルバージョン、新曲という構成で、オープニングナンバーは、旅の始まりを告げる鐘が鳴り響くインストナンバー。そして『KNOCKKNOCK!』はアッパーなダンスチューンで、旅の大きな一歩を踏み出した昂揚感を感じさせてくれる。最新のR&Bをドリカム流に昇華させた「秘密」は、コアファンの中ではすでに人気の、許されない恋を想像させる文学的で切実な歌詞に、サックスが差し色になり、ムーディーで不穏な空気を漂わせるサウンド。絡みつくような吉田の切ない歌が胸に迫る。アルバム初収録の「堕ちちゃえ」もそうだ。「秘密」と同様に、打ち込みと生楽器を抜群の塩梅で融合させ、トランペット、トロンボーンなどで奥行きを感じさせてくれる、最新のR&Bを意識したサウンドメイクだ。文字通り<世界中のサヨナラを盛り込んで 浴びせかけてやる!>と叫ぶ「世界中からサヨウナラ」も、アルバム初収録だ。

観月ありさに提供した「あなたが笑えば」のセルフカバーでは、これぞドリカムというメロディラインとサウンドを、EDMで表現。「普通の今夜のことを- let tonight be forever remembered-」は、三浦大知への提供曲。メロディがどこまでも美しいミドルテンポの楽曲で、吉田のボーカルパワーと表現力を存分に味わう事ができる一曲。映画『インサイド・ヘッド』日本語版テーマソングの「愛しのライリー」はアルバムバージョンに生まれ変わり、より“希望”を感じさせてくれる強い曲になった。「あなたのように」は、桑田佳祐がパーソナリティを務める人気ラジオ番組『桑田佳祐のやさしい夜遊び』(TOKYO FM)の年の瀬恒例企画、「桑田佳祐が選ぶ邦楽シングルベスト20」で、2016年の1位に選ばれた楽曲で、かんぽ生命のキャンペーンソングとしてもCMでおなじみの美しいワルツ。泣ける詞としても人気が高い。

音楽とファンに対し、どこまでも誠実なドリカム。その姿勢が伝わり、ファンに長きに渡って愛され、新しいファンもついてくる

他にも聴きどころ満載の一枚だが、作品に貫かれているのは前述したように、自分達の音楽を追及し続ける姿勢と、やはり吉田の歌から感じるその“誠実さ”だ。言葉もメロディも、ライヴもとにかく誠実だ。ライヴのMCや、ファンとコミュニケーションを取るシーンにも、その温かな人間性が滲み出ている。もちろん音楽の持つ力や豊さ、楽しさ、切なさ、温もり、様々な事を伝えてくれるが、その前に誠実さがあるからこそ、音楽がより感動的に伝わってくるのだと思う。だからこんなにも長きに渡って、多くの人から支持され、新しいファンもきちんとついてくるのだ。アルバム『THE DREAM QUEST』もそうだ。二人が聴き手の手をギュッと握り、音楽の冒険の旅へといざなってくれているような感覚になる――そんな優しさと強さに満ちた、どこまでも誠実なアルバムだ。

DREAMS COME TRUEオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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