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本当は存在しない「高度プロフェッショナル制度」~欺瞞性を曝く~

嶋崎量弁護士(日本労働弁護団常任幹事)
デマはゴメンです、というイメージ(ペイレスイメージズ/アフロ)

採決が強行された高プロ

2018年5月25日、衆議院の厚生労働委員会で、遺影を掲げた過労死ご遺族が多数見守る中、高度プロフェッショナル制度の採決が強行され、5月31日にも衆議院を通過するとも言われています。

たとえば、2016年9月に労災認定され、大きな社会問題になった電通過労自死事件のご遺族・高橋幸美さんは、高度プロフェッショナル制度に反対する集会に向けて、こんな悲痛なメッセージを出していらっしゃいます。

高度プロフェショナル制度の対象の人は24時間ぶっ通しで働いても死なない!病気にならない!って誰が担保してくれますか?誰も生き返らせてくれません!死んでも誰も責任とってくれません! 自己責任にされます。年収1075万円で悪魔にいのちを売ってはいけない!高度プロフェショナル制度を適用する業種でかつ年収1075万円 以上とされているが、いずれ経団連は政府に適用年収を下げた改定を求める魂胆じゃないかと有識者…労働者派遣法が多数の業種に拡大されたと同様にされる危険な法案

出典:日本労働弁護団ホームページより

注目されているこの高プロ制度ですが、これだけ中身が知られていない法案も珍しいと思います。

改めて、この高度プロフェッショナル制度について、解説したいと思います。

高プロってどんな制度

法案の中身を知るには、法案の「見出し」を確認するのが簡単です。

という訳で、法案にある該当条文の「見出し」を確認してみると、実は「高度プロフェッショナル制度」などという記載はありません

実際の「見出し」は、

「(労働時間等に関する規定の適用除外)」

なのです。

ここで言う「労働時間等に関する規定」とは、労働基準法に規定された、労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定です。

これら労働時間規制を全て取り払う(=適用除外)のが高プロであり、その危険な中身を見出しはよく表しています。

条文に書いてある法的効果の箇所をみると、

「この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない」

とあるだけです。

条文に記載もないのに、本当は存在しないのに、何故か「高度プロフェッショナル制度」などという名前が一人歩きをし、法案に対する誤ったイメージを世間に植え付けているのです。

さらには、「働いた時間ではなく、成果で評価する仕組み」など制度内容に対するデマが、大手メディアでも繰り返されています。

どんな報道が・・・

例えば、採決強行後の産経新聞ニュースサイトでは、未だにこんな制度紹介をしています。

本人の同意などを条件に、一定の専門職は働いた時間ではなく、成果で評価する仕組みが高プロだ。仕事の多様化に対応し、効率的な働き方を促す制度である。生産性を高め、日本経済の成長力向上に資する。

出典:産経新聞ニュースサイト「産経ニュース」主張(2018年5月28日)

高プロは、要するに、深夜割増など残業代も、休憩も、休日割増賃金も全てゼロ(規制を取っ払う)制度に過ぎません。だから、この制度はどう考えても「残業代ゼロ法案」に過ぎないのにもかかわらず(よくある「残業代ゼロ法案とはレッテル貼り」などという批判も間違い)、こんな説明がなされています。

重要なのは、高プロでは「成果で評価する仕組み」を一切定めていないことです。

その理由ですが、現行の労働法では、賃金の決め方を成果型にすることを禁じておらず、自由にできるのです(残業代は払わねばならないですが)。だから、そんな規定を新たに創る必要などないのです。

むしろ、現在は成果型賃金体系を導入している企業が増えており、一切成果が賃金に反映しない賃金体系(例:年功序列だけ)などのホワイトカラー労働者は、珍しいでしょう。

高プロで「成果で評価する仕組み」が採用されるかのような説明は、本当に欺瞞的です。

本来の狙いは

高プロ導入の本当の狙いは、「企業がホワイトカラー労働者への面倒な労働法規制を免れること」にあります。

条文をみたとおり、そのままの制度です。

だから、本来であれば政府は、

労働時間規制は企業の経済活動の足かせになっているから規制緩和する

経済成長のため、企業が残業代も払わず休憩も与えずに済む自由な働かせ方を実現する

(過労死が増えるかどうかは、知りません)

と誠実に説明をすべきです。

ですが、そんな本来の制度・本音をひた隠し「働いた時間ではなく成果で評価する」「成果型賃金にする」など誤った説明を繰り返す政府の罪は重いでしょう。

また、このデマ喧伝の拡散に加担することになった、産経新聞・読売新聞・日本経済新聞など一部大手メディアの責任も重大です。

ご飯論法との共通項

国会での不誠実な加藤厚生労働大臣の答弁について、法政大学・上西充子教授がご飯論法という名称を拡げて、その欺瞞性を解き明かしています。

ですが、安倍政権のこういった欺瞞性は、今に始まったことではありません。制度導入の必要性から、「働いた時間ではなく成果で評価する」などと一貫してデマを拡散しているのです。

ぶれない政治家の態度は好意的に評価されることが多いでしょうが、一貫したデマ拡散など、本来は政治家失格です。

この様な制度導入を説明する安倍政権の態度は、有権者、日本で生活する全ての労働者を愚弄するものに他なりません。

これから私たちがすべきこと

まだまだ、衆議院の厚生労働委員会を通過しただけで、衆議院の本会議でも成立していません。

その後、参議院でも厚生労働委員会、本会議と国会で審議すべき場が残っています。

ぜひ、この欺瞞的な態度への批判の声を集め、高プロ制度の成立を阻止しましょう

最後に、こんなネット署名が2つスタートしていますので、ご紹介します。

こんな高プロに反対したいけど、具体的に何ができるのか分からないという方は、ぜひこのネット署名にご協力くださいm(__)m

過労死を助長する高度プロフェッショナル制度の強行採決を阻止しよう!!

「高プロ廃案」求める緊急署名をスタートしました。賛同・拡散を大至急お願いします!

【2018/06/01 9:15 :数カ所、誤記訂正をしました】

弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?-無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「#教師のバトン とはなんだったのか-教師の発信と学校の未来」「迷走する教員の働き方改革」「裁量労働制はなぜ危険か-『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(いずれも岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

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