今こそ安心安全「ひとり温泉」でリラックス 【3大おすすめの宿】 初めての人への満喫マニュアル
人に合わせなくていい――。
スケジュールも、旅のルートも、宿での過ごし方も、すべて自分のペース。その気ままさゆえの心地良さに目覚めてしまったのが、私の「ひとり温泉」の始まりだった。
自由を存分に楽しむために、宿だけ決めて旅に出る。お天道様に相談しながら、その日の気分で全てを決める。これが「ひとり温泉」の極意である。
加えて、「ひとり温泉」は、湯と語らう旅でもある。
ひとりで湯に浸かると、肌への馴染み具合や、刺激、香りを感じることができる。すると自分とその湯の相性がわかってくる。これは友人とお喋りしながら入浴していては得られない発見だ。
私が「ひとり温泉」を始めたのは2000年代前半。まだ「女性のひとり旅は寂しいもの」と見られた時代で、まして「ひとり温泉」は稀有だった。その意味では2012年2月に刊行した『おひとり温泉の愉しみ』(光文社新書)は早すぎたのかもしれない。
しかし今や、女性の「ひとり温泉」は「寂しい」どころか、「カッコいい」という風潮さえある。旅館のスタッフも、適度にほっておいてくださる。つまり「ひとり温泉」のお客と旅館の程よい距離感が、自然に出来上がってきたのではないだろうか。
まして人との接触を避けることを求められるコロナ禍において、「ひとり温泉」は理に適っている。
それでは、はじめての「ひとり温泉マニュアル」を記すとしよう。
ひとり温泉に憧れるが、その勇気がないという方は、ぜひ参考にして欲しい。
まず、「行くタイミング」と「場所選び」。
ひとり静かに過ごしたい場合、その地域の繁忙期でなく閑散期を狙う。例えば、スキーシーズンに混み合う温泉地は、冬ではなく夏に。高所にあるので避暑地として最適だ。また避暑地として人気の軽井沢は、あえて夏は避け、澄み渡る空気と静寂さを目当てに冬に行く。繁忙期と比べて、宿も余裕があるから、丁寧な接客が期待できる。
さらにコツは「小さめの宿を選ぶ」こと。
大型旅館よりも50室以下の宿を。私は20室程度のアットホームな宿を選ぶようにしている。賑やかな団体客と遭遇したくないから。また旅には突然のハプニングやちょっとしたトラブルがあるものだ。「ひとり温泉」の場合は、自分で対応しなければいけないわけだが、そんな時、旅館のご主人や女将がとても頼りになる。家族経営の小規模の宿を選ぶと、人の顔が見えて、相談しやすい。
最も大切なのは、滞在中に「温泉と語らう」こと。
両手で湯をすくい上げ、香りや肌触りを感じて、湯を鑑賞する。温泉と向き合って、はじめて湯がもたらす肌や身体の変化に敏感になる。友人とお喋りしながらの入浴とは違い、温泉そのものに興味を持つようになるのだ。
湯あがりの「うたた寝」。
湯あがりは、部屋でごろんとする。読書するか、そのままうたた寝。私は文庫本を持って行くが、すぐに瞼が重たくなり、ページは進まない。だが、それでいい。湯あがりの昼寝こそ至福の極みである。
「旅館のパブリックスペース」を上手に活用。
宿にライブラリーがあれば、なお良し。「この町の成り立ちは」「この味付けのルーツは」と、旅先でこそ好奇心がわくというもの。私は郷土本を手にすることが多い。
目的もなく、だらだら、のんびり、時にざぶん。この繰り返し。ひとり温泉の醍醐味だ。
最後に私の「ひとり温泉」おすすめ宿を3つ紹介しよう。
草津温泉湯畑からほど近く、「湯畑草庵」という藍色の暖簾をくぐると、草庵の足湯がある。この先が宿。簡単な朝食はつくが、夕食は温泉街に食べに出られるのが嬉しい。希望すれば系列の老舗旅館「奈良屋」や「ナウリゾートホテル」でもいただける。1泊夕食なし朝食付を定番化した最初の旅館。
インテリアデザイナーだった女将が、働く女性のために快適な湯治宿を作った。カサブランカが香り、洗練された館内でおしゃれな湯治をしよう。
拙著『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)に「妙の湯」誕生の秘話を綴っている。
材木商が経営するという異色の旅館ゆえに、木の美術館と見まがうほどの立派な材木がふんだんに使われている。客室数に対して、お風呂の数が多いことも特徴で、とりわけ渓流沿いの貸切風呂や、滝を眺められる大浴場は風景に見とれているうちに時を忘れる。