報道陣100人が殺到!写真から見える 藤井四段人気の凄さ
まずは冒頭の写真をご覧ください。こちらは2017年6月26日、午前9時45分頃に、筆者が撮影したものです。藤井ブームの状況を端的に伝えるものとして、ネット上で広く拡散されました。この写真から、どれだけの情報を読み解くことができるでしょうか。
中央、座布団の上に正座しているのは、藤井聡太四段です。この写真では見ることはできませんが、藤井四段の前には、厚さ六寸(約18cm)で、脚のついた、高級な榧(かや)の盤が置かれています。
藤井四段の右側に置かれているのは、青いリュックサック。イギリスの「カリマー」というブランドのものです。藤井四段が愛用しているということで、メーカーに問い合わせが殺到したそうですが、既に生産は終了し、品切れになっているそうです。ちなみに青いリュックに代えて、フランスの「ミレー」の黒いリュックが使われることもあります。
藤井四段はデビューからこの日まで、公式戦では無敗。28連勝という、史上最多連勝記録を達成していました。そしてこの日は、29連勝という、新記録がかかっています。棋戦は竜王戦決勝トーナメント。渡辺明竜王への挑戦権、七番勝負への登場を目指しての、重要な一番です。
対局相手は、増田康宏四段でした。まだ19歳ながら、その実力は多くの棋士が認めるところで、将棋界の将来を担う、大器の一人と目されています。まだ若い増田四段ですが、当時14歳(7月19日の誕生日が来て15歳)の藤井四段から見れば先輩です。同じ四段でも、序列としては増田四段の方が上であり、床の間を背にして、上座にすわることになります。
冒頭の写真が撮影されたのは、午前9時45分頃です。対局開始の定刻は10時ですので、ずいぶんと余裕があります。対局者は午前10時までに対局室に入っていれば、遅刻にはなりません。それでもできるだけ余裕をもって、両対局者は席に着き、駒を並べ終えるところまですませ、10時ちょうどに記録係の合図で対局を始めるべき、という棋士もいます。注目される大一番では、ほぼ定刻通りに始まることがほとんどです。
序列下位の側が、先に対局室に入らなければならない、というルールはありません。それでも下座にすわる方が先に、対局室に入ることは多いようです。
冒頭の写真が撮影されてから、もう3分後に、増田四段は対局室に姿を現しました。
こちらも余裕をもっての登場です。席について、両者一礼。
スチールカメラや、テレビカメラを持って、対局者を取り囲んでいるのは、もちろん報道陣です。日本将棋連盟の広報の発表では、この日、40社・100人の報道陣が、東京・千駄ヶ谷の将棋会館に詰めかけていました。
1976年に建設された、現在の将棋会館の中には、いくつかの対局室があります。写真に写っているのは、その中でも最もグレードの高い、4階の「特別対局室」です。広さは18畳。普段の対局では広々としているのですが、これだけの報道陣が中に入ると、かつてないほどに、狭く感じられました。
向かって右側には、長机が置かれています。そこを盤側(ばんそく)と呼びます。盤側には、記録係や観戦記者、関係者などが座ることになります。
左側には比較的多く、テレビカメラを持った報道陣がいます。テレビやインターネットの動画配信サイトでは、盤側を正面にして、両対局者を同時に横から撮影した映像が流されることがほとんどです。
これだけの報道陣の数ですから、その中におけるポジション争いは熾烈なものです。そして、報道陣のほとんどは、藤井四段に注目しています。そうである以上、藤井四段を正面か、斜めか、横か、いずれにしても、その顔を撮影する必要があります。そうすると、これだけの数の報道陣にもかかわらず、藤井四段の背中の側が空いている、という現象が起こります。
そこで筆者は、こうしたシチュエーションの際には、注目される対局者の、あえて背中側からも撮影をすることにしています。ブームを追う報道陣の姿も一緒に収めることで、その時代の熱気が伝えられるのではないか、とも思うからです。
これらの写真を見た方たちからは、
「これだけのマスコミがずっと対局室にいては、対局者は集中できないのではないか?」
という声も聞かれました。誤解のないように付記しておくと、報道陣は、対局が開始して、対局者が数手(多くの場合は、両対局者の最初の1手ずつ)を指した後で、速やかに退出します。そして対局が終わった後、また対局室に戻ってきます。
以下は終局後の写真です。
この日、藤井四段は増田四段に勝ち、新記録の29連勝を達成しました。
対局後の感想戦には、次の対局者である、佐々木勇気五段(現六段)も姿を見せていました。
撮影された一葉の写真からは、実に多くのことを読み解くことができます。その中にはもちろん、撮影したカメラマンも気づかないことが、たくさんあります。写真を見たファンの方の発見や感想から、そういう視点もあったのかと、教わることも多いのです。