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韓国は「世界で7番目」の「SLBM保有国」? 実際は北朝鮮の次の「8番目」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
韓国の潜水艦(左)と北朝鮮のSLBMの潜水艦搭載(韓国海軍HPと労働新聞から)

 韓国の国防科学研究所(ADD)が9月15日、文在寅大統領や徐旭(ソ・ウック)国防部長官らの立ち合いの下、独自に建造した3000トン級潜水艦からSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の水中発射実験を実施し、成功させたことはすでに報道されているとおりだ。

 韓国の報道をみると、文在寅大統領は「世界で7番目のSLBM保有国になった」と大喜びだった。嬉しさのあまり「北の挑発への確実な抑止力になる」と一言付け加えたところ、金正恩総書記の妹・金与正(キム・ヨジョン)党副部長から「挑発とはなにごとか。大統領までが出てきて(我々を)けなすなら南北関係は完全に破壊に至るだろう。どんな言動も深思熟考すべきだ」と窘められていた。

 直前に北朝鮮が長距離巡航ミサイルを2発奇襲発射したことに国民の間で安保危機が高まったことや抗議しなかったことに野党、保守メディアから「北朝鮮に甘すぎる」と叩かれたこともあって勢い余ってめったに口にしたことのない「北の挑発」いう言葉が飛び出してしまったようだ。

 それにしても不思議なことがある。金与正副部長の談話では文大統領の「挑発」発言だけが非難され、SLBM発射そのものは問題にされてなかった。さらに意外なのは「世界で7番目の保有国」の発言に噛みついていなかったことだ。

 韓国は本番前の9月1日に非公開で水中射出テストを行い、成功させていたが、このことを後から知らされた韓国のテレビ、新聞は7日に一斉に韓国軍当局の発表に基づき「SLBM潜水艦水中試験発射成功・・・8番目のSLBM保有国になった」と伝えていた。

 例えば、「聯合ニュース」は「今回の試験発射成功でSLBM開発は事実上完了し、韓国は米国、ロシア、英国、フランス、インド、中国、北朝鮮に続き事実上、世界8番目の保有国となった」と報道していた。政府系の「ハンギョレ新聞」を含めすべてのメディアが「北朝鮮に続いて世界8番目の保有国となった」と書いていた。

 それが、約1週間後の「聯合ニュース」(9月15日)では「独自開発したSLBMの潜水艦からの発射実験に初めて成功した。SLBMの潜水艦発射実験の成功は世界で7番目となる」と伝えられたのである。大手紙「東亜日報」など新聞媒体も「独自開発したSLBM潜水艦発射試験成功…世界で7番目」の見出しを掲げ、発射成功を大々的に伝えていたが、SLBMの開発では韓国よりも先行し、すでに世界で7番目の保有国となったはずの北朝鮮がクレームを付けないのはなんとも奇妙だ。

 韓国は潜水艦からのSLBMの発射が確認されていないことを理由に北朝鮮をSLBM保有国から除外しているようだが、北朝鮮は2015年5月に金正恩総書記の立ち合いの下、独自開発したSLBM「北極星-1型」の水中発射実験を初めて行い、2016年8月24日には成功させている。

 放物線を描いて飛行し、適当な高度で1段と2段が分離され、2段目推進体が発射地点の新浦沖から500kmの日本の防空識別圏に落下したことから日本でも確認されている。「固体燃料を満杯にして正常発射していればその射程距離は2000km以上」と日本でも韓国でも報道されていた。

 また、2019年10月2日には同じく日本海に面した元山の海上で改良型の「北極星―3型」の水中発射の試験にも成功していた。当時、韓国軍合同参謀本部は「最高高度は約910kmに達し、約450km飛行した」と発表していた。この時は、潜水艦のすぐ隣に幅10m、全長22mのバージ船が係留されていたことから潜水艦ではなく水中に沈めたバージ船(台船)から発射された可能性が指摘されていた。

 昨年10月10日の労働党創建75周年の軍事パレードでは「北極星―4型」が登場し、また今年1月14日の党大会記念軍事パレードでは「北極星―4型」よりも大きい「北極星―5型」がお披露目されていた。韓国同様に新たに建造された3000トン級の潜水艦を近々進水させ、新型の「北極星―4型」もしくは「北極星―5型」のどちらかの発射実験を行う可能性が指摘されている。

 韓国は経済では日本に、軍備では北朝鮮に対抗心を燃やしていることから「追いついた」あるいは「追い抜いた」と自画自賛、吹聴するケースがしばしばあるが、さすがにあったものをなかったと言い張るには少々無理があるようだ。

 それにしても、北朝鮮が韓国のSLBM発射に口を閉ざしている理由は何なのか、それが知りたい。これから行う北朝鮮のSLBM発射に韓国も問題にするなとでも言いたいのだろうか?

(参考資料:建造中の3千トン級の新型潜水艦は北朝鮮初の原子力潜水艦!?)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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