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5Gならではの新体験 スマホ越しに見る最先端アート

小野憲史ゲーム教育ジャーナリスト
iPhone 12で鑑賞中の本作(筆者撮影、以下同様)

東京・銀座エリア最大の商業施設「GINZA SIX」で2021年4月12日から2022年4月30日(予定)まで、彫刻家・名和晃平氏によるインスタレーション『Metamorpohosis Garden(変容の庭)』が展示中だ。

先行して公開された展示内容に加えて、6月中旬からは振付家ダミアン・ジャレ氏との競作によるARのパフォーマンスが加わり、作品として完成をみた。商業施設で実施されるARアート作品として、他に類を見ない内容の本作を体験してみた。

GINZA SIX 5Fで鑑賞した本作のAR映像(iPad 2020 12.9インチでキャプチャ、以下同)
GINZA SIX 5Fで鑑賞した本作のAR映像(iPad 2020 12.9インチでキャプチャ、以下同)

別の角度からキャプチャしたAR映像
別の角度からキャプチャしたAR映像

ARで変化し続ける庭

本作の最大の特徴は、リアルな彫刻とバーチャルな3DCGがスマートデバイスの画面上で一体となり、新たな価値を提示している点だ。体験者はGINZA SIXの中央吹き抜け部分に展示されているインスタレーションを見るだけでなく、スマートデバイスをかざすことで、映像と音によるコンテンツを鑑賞できる。

本作のコンセプトは物質と生命、植物と動物、人間と宇宙の未来へ向けた物語だ。海と島々の中央には、本作の象徴ともいうべき「神鹿」が存在する。その周囲には重力と水滴をテーマにした、「Ether(エーテル)」と呼ばれる6本の彫刻の柱が立っている。それらが起点となり、渦状の波が広がっている。

その上でスマートデバイスをかざすと、Etherを起点に無数の粒が拡散をはじめる。それは波打つ海原のようにぶつかりあい、7体の精霊を生み出す。精霊は渦と一体になって踊り出し、1人から男女のデュオへと展開していく。踊りが終了すると、精霊から砂塵のような粒子が空中に舞い上がり、空間全体に広がっていきながら終了する。

このように本作には日本神話に見られる「国生み」の神話のようでもあり、生物と無生物の間の循環を現しているようにもみえる。空中に宙づりになっている作品を、さまざまな角度や視点からみられるという、本作ならではの展示スタイルとも相まって、ARでラッピングされた3DCGの効果が、さらに高まっていると言えるだろう。

映像だけでなく、サウンドも印象的だ。点群データの動きにあわせて再生されるサウンドは荒れ狂う波のようであり、すべてを飲み込んで再生する渦巻きのようでもある。特にAirPods Proを使用して鑑賞すると、高いノイズキャンセリング効果と相まって、圧倒的な没入感が得られた。

左からアートプロデューサーの後藤繁雄氏、彫刻家の名和晃平氏、KDDI株式会社の砂原哲氏
左からアートプロデューサーの後藤繁雄氏、彫刻家の名和晃平氏、KDDI株式会社の砂原哲氏

5G回線で大量の点群データを一瞬でダウンロード

本作を企画・開発したのはKDDI株式会社のau Design project[ARTS & CULTURE PROGRAM]だ。吹き抜けの周囲にau5Gのエリアを作り、MEC(Multi-access Edge Computing)サーバを経由して、大量の点群データを一瞬のうちにスマートデバイスにダウンロードさせている。

そのうえで、スマートデバイスのカメラによって吹き抜け空間の位置とサイズを認識し、それぞれの彫刻にピッタリと当てはまるように、点群データを端末上でリアルタイム再生させている点が特徴だ。これにより5Fに設置された4箇所のポイントから、自由に鑑賞することができる。

なお、対応端末はiPhone 12をはじめとしたiPhone&iPadの5G対応モデルで、auの5G専用データ無制限プランに契約していることが条件だ。中でもiPad Pro 2021セルラーモデルとAirPods Proを組み合わせると、明るく色鮮やかなLiquid Retina XDRディスプレイの映像美で、高い満足感が得られる。

もっとも5G専用データ無制限プランの未契約者や、au以外のiPhoneでも4G向け上演プログラムを鑑賞できる(au5G向けと内容は異なる)。iPadのWi-Fiモデルのように、SIMの刺さっていない端末でも、館内のWi-Fi経由でコンテンツの鑑賞が可能だ。Android端末には非対応だが、幅広いユーザーが鑑賞できるのはありがたい。

筆者もメディア向けの体験取材会の翌週、私物のiPad Pro 2020(12.9インチ、Wi-Fiモデル)とAirPods Proの組み合わせで鑑賞してみた。映像の美麗さに関してはさすがに及ばないものの、十分な体験が得られた。

現在はスマートデバイスごしに鑑賞しているARコンテンツも、近い将来スマートグラスが普及すると、さらにユニークな体験が期待できるだろう。それはアーティストにとっても、新たなキャンバスが提供されることを意味している。本作はそうした時代を先取りしているようにも感じられた。アーティストの想像力が最先端の技術を得て、どのように広がっていくのか、今から楽しみだ。

スマートデバイスをかざさずに見た、素の彫刻作品(公式より素材提供)
スマートデバイスをかざさずに見た、素の彫刻作品(公式より素材提供)

Metamorphosis Garden

2021

mixed media

dimensions variable

Installation view, “Kohei Nawa - Metamorphosis Garden“, Tokyo, Japan

ゲーム教育ジャーナリスト

1971年生まれ。関西大学社会学部卒。雑誌「ゲーム批評」編集長などを経て2000年よりフリーのゲーム教育ジャーナリストとして活動中。他にNPO法人国際ゲーム開発者協会名誉理事・事務局長。東京国際工科専門職大学専任講師、ヒューマンアカデミー秋葉原校非常勤講師など。「産官学連携」「ゲーム教育」「テクノロジー」を主要テーマに取材している。

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