国葬を妨害したらどんな罪が
9月27日には、安倍元首相の国葬が予定されています。
「国葬」とは、「国家にとって特別な功労があった人物の死去に際し、国費で執り行われる葬儀」(国葬:Wikipedia)のことですが、安倍元首相の国葬については、世間に反対の意見も相当多いことから、ネットではもしも国葬を妨害した場合には、刑法188条2項の罪が成立するといった書き込みが流れています。
刑法188条2項は、説教等妨害罪と呼ばれ、つぎのような条文です。
つまり、上のような意見は、「国葬」も葬儀であるから、この条文の「葬式」あるいは少なくとも「礼拝」には該当するのではないかという意味です。
そこでこの罪について考えてみたいと思います。
まず、説教等妨害罪は、神社仏閣、墓所などの礼拝所に公然と不敬な行為をする礼拝所不敬罪(188条1項)、他人の墓を暴く墳墓発掘罪(189条)、死体を傷つけ冒涜する死体損壊罪(190条)などと同じくくりで、刑法典の第24章「礼拝所及び墳墓に関する罪」の中に位置づけられています。
これらの罪の基本的な性格については、一般的な宗教的感情や習俗、宗教的な平穏を保護するものだと理解されています。そして、国家が特定の宗教や宗派の活動を保護することは、信教の自由を保障する憲法20条に反することですから、これらの罪は特定の宗教や宗派そのものを保護するのではなく、一般的な宗教的感情や習俗、宗教的な平穏、あるいは死者に対する敬虔(けいけん)な感情などを社会秩序の一部として保護しようとするものです。
ただし、妨害行為の対象が「説教」「礼拝」「葬式」に限定されています。
説教は、宗派の教義を解説することであり、礼拝は、神や仏に宗教的な敬虔の心を捧げること、葬式は、死者を葬るための儀式のことです。したがって、たとえば、宗教的教義を解説する学術講演会や神式仏式の婚礼などのようなものは、ここには入ってきません。
国葬も広い意味では葬儀に含まれますが、信教の自由から特定の宗教的色彩は帯びておらず、何よりも死者を葬る儀式とはいえないのではないかと思います。よく「~を偲ぶ会」といった会がもたれることがありますが、国葬はむしろこのような追悼の会に近いのではないかと思います。
以上のように考えると、国葬を具体的に妨害しても、説教等妨害罪は成立しないということになります。
では、何罪が成立するかですが、普通に人(国家)の業務を妨害したということで、具体的な行為に応じて、偽計業務妨害罪(刑法233条)か威力業務妨害罪(刑法234条)が成立します。法定刑は両罪とも最高3年の懲役ですので、むしろ説教等妨害罪よりも重い犯罪になります。
なお、軽犯罪法1条24号に「公私の儀式に対して悪戯などでこれを妨害」する行為を処罰する規定があります(法定刑は1日以上30日未満の自由刑[拘留]か、千円以上1万円未満の財産刑[科料])。
ここにいう「儀式」は必ずしも宗教的なものに限られませんので、入学式や卒業式、入社式、起工式なども対象になります。行為は「悪戯」(あくぎ)ですが、これは文字通り「いたずら」や「悪ふざけ」であって、強い悪意のないものをいいます。まさに一時的な戯れで、人の行事を妨害するような行為が念頭に置かれています。(了)