スマホ決済が早める米中逆転? 足引っ張るトランプVSアマゾン泥沼の戦い【フィンテック最前線】
エスカレートするアマゾン叩き
アメリカの大統領ドナルド・トランプが16日、ツイッターで米ネット通販最大手のアマゾン・ドット・コムを改めて批判しました。
「アマゾンはまじめに納税をしている小売業者に大きな損害を与えている。多くの職が失われ、アメリカ全土の町や市、州が傷ついている」
トランプのアマゾン叩きは今に始まったことではありません。アマゾン会長ジェフ・ベゾスは大統領選の期間中、トランプを厳しく批判していました。
「大統領候補は『私は最も重要な国の大統領選に立候補している。どうか私を検証して』という態度で臨むべきだ」(昨年5月、トランプがアマゾンと傘下のワシントン・ポスト紙を頻繁に批判していることに対して)
「トランプは彼を調査している人々に報復を加えると脅している。ライバル候補(ヒラリー)を刑務所にぶち込むだろうと言っている。こうした言動は大統領候補としてふさわしくない」(昨年10月)
トランプの当選が決まった後、ベゾスは「ドナルド・トランプさん、おめでとう。あなたがアメリカの大統領として偉大な成功を収めることを心からお祈りしています」とツイートし、休戦を申し入れたかたちとなっていました。
しかしトランプはアマゾン傘下のワシントン・ポスト紙が政権を批判的に報道することが我慢ならないようです。
ワシントン・ポスト紙はアマゾンの守護者か
「ワシントン・ポスト紙は、払うべきインターネット税を納めていないアマゾンの守護者として報じる偽ニュースだ」(今年6月28日)
「アマゾンのワシントン・ポスト紙にまた情報機関からのリークが掲載された。今回はジェフ・セッションズ司法長官についてだ。ジェームズ・コミーFBI(連邦捜査局)長官がしていたような、こうした違法な情報漏えいは止めなければならない」(7月22日)
「落ちていくニューヨーク・タイムズ紙やアマゾンのワシントン・ポスト紙は読むに耐えない。なぜならすべてのストーリーや意見は、仮に前向きであるべきだとしても、最低だ!」(7月23日)
「アマゾンのワシントン・ポスト紙は、シリアのアサド政権と戦う反政府勢力への膨大かつ危険で無駄遣いに過ぎない資金提供を私の決定で止めた事実を歪めている」(7月25日)
「ワシントン・ポスト紙に掲載された私に関する非常に多くのストーリーは偽ニュースだ。CNNと同じぐらい低レベルだ。ワシントン・ポスト紙はアマゾンと税金のためのロビイストなの?」(7月25日)
「偽ニュースを垂れ流すワシントン・ポスト紙は、アマゾンの税金逃れによる独占から政治家の目をそらすために使われている議会対策ロビイストの武器なの?」(同)
アマゾンがアメリカ国内で税金を全く納めていないかと言えば、そうではありません。ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると、2014年に法人所得税を1億7700万ドル、15年は2億7300万ドル、昨年は4億1200万ドルを納めています。
07年~15年にかけて連邦、州、海外で支払った税率の平均は13%で、S&P500の企業平均の26.9%や連邦の法人税35%と比べると、確かにかなり低くなっています。
トランプは法人税率を15%に引き下げる計画で、アマゾンの税率13%がそれほどかけ離れているわけではありません。アマゾンとトランプの対立がさらに深まれば、アメリカの情報通信技術(ICT)ビジネスの今後の展開に悪い影響を与えかねません。
昇竜
7月中旬、ロンドンで開かれたフィンテック・イベント「フィンテック・ウィーク・ロンドン2017」で中国初の非営利ビジネススクール、長江商学院(CKGSB)副学長で欧州代表のBo Jiが「中国のスタートアップ」について講演しました。長江商学院はアリババ集団創業者、馬雲が卒業したことでも有名です。
トランプが「チャイナ」と口にする映像を集めて「チャイナ」「チャイナ」と連呼する滑稽な動画を見せて会場を沸かせました。これだけ「チャイナ」に言及しているトランプは本当に中国を知っているのかとBo Jiは会場に問いかけました。
国際通貨基金(IMF)のデータで中国とアメリカの名目国内総生産(GDP)を比べてみました。中国が物凄い勢いでキャッチアップしていることが分かります。
Bo Jiはこう力を込めました。「中国は2024年にアメリカを追い越して世界最大の経済大国になるでしょう」
「中国では平均所得が毎年10%ずつ伸びています。私は中国のユニコーン(評価額が10億ドル以上の非上場ベンチャー企業)を『ドラゴン』と呼んでいます。なぜなら中国人はドラゴンだからです」
世界の電子商取引で中国が占めるシェアはアメリカを凌駕しています。
そしてフィンテックへのベンチャーキャピタル投資でも昨年、アメリカを抜いて世界一に躍り出ました。
中国の民間部門の債務残高は、1990年代にバブルが崩壊した当時の日本の債務レベルと同じぐらいに膨らんでいます。アメリカのサブプライム住宅ローン危機やギリシャ財政危機に比べても非常に高い水準です。
中国では家計の債務比率は低いものの、企業の債務比率はバブル期の日本をはるかに上回っています。国有企業、建設、不動産に債務が偏っています。
高度経済成長を支えてきた重厚長大産業の国有企業が供給過剰に陥り、債務を膨らませてきたわけです。
欧州と中国を結ぶ習近平国家主席の経済圏構想「一帯一路」でインフラ輸出を進め、供給過剰を解消したいところですが、関係各国でナショナリズムが高まり、思うようには進んでいません。
頼みの綱が情報通信技術(ICT)を利用した内需主導型経済、サービス産業への転換です。
8月前半の1週間、上海で現地調査したところ、スマートフォン(多機能携帯電話)のアプリを利用した出前サービスの普及で「売り上げが増えた」というお店が多いように感じました。みんな生き生きとした表情で働いているのに感心しました。
アメリカはトランプ大統領が誕生したことからも分かるように「内向き」「後ろ向き」の白人労働者、失業者が増え、アマゾンに代表されるテクノロジー企業で働く若きエリートたちへの反発を強めています。
一方、欧州ではイギリスの欧州連合(EU)離脱交渉の難航が予想されます。
アメリカと欧州がもたもたしている間に、中国がICTの活用で内需を拡大し、米中逆転を早める可能性は十分にあると実感しました。
(つづく)