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Nintendo Switch後継機の発表がなかったニンテンドーダイレクト、真のサプライズとは?

多根清史アニメライター/ゲームライター
Image:任天堂

任天堂は6月18日、配信番組「Nintendo Direct」を公開し、Nintendo Switch用の新作タイトルを一挙に発表しました。

あらかじめ「Switchの後継機種に関するアナウンスはありません」と告知していたのは、前に流れた「スイッチ2(仮称)の発表は6月」との噂話を打ち消すことと、スイッチ2への期待を盛り上げる二重の(しかし矛盾した)意図があったのかもしれません。

今回のニンダイ(略称)は現行スイッチが8年目に突入し、ライフサイクルの末期に差し掛かった最中のこと。その状況で30本以上もの発表は予想を超えた数ではありましたが、「サプライズ」とは言えないでしょう。

1つには、おそらく任天堂がWii U末期のソフト日照りを反省しているであろうこと。もともと発売直後から低空飛行を続けていたWii Uではありましたが、スイッチ直前の2016年には自社対策ソフトは「ペーパーマリオ」など数本のみで死に体を露わにしていました。

写真:ロイター/アフロ

あのときは後継ハードを早めに予告していたこともあり、Wii Uは安心して見放せたのでしょう(『スプラトゥーン』や『スーパーマリオメーカー』が生まれた重要な位置づけではありますが)。が、今のスイッチは勢いが落ちてきたとはいえ好調が続いており、まだまだ支え続ける価値があるはず

もう1つは、国内のサードパーティ各社とも現行スイッチに頼らざるを得ないこと。特にスクウェア・エニックスHDは5月に純利益69.7%減を受けて3年間の改革案を発表したところ、逆に市場は「あと数年もかかるのか」と反応して株価は一時ストップ安。

これまで「ファイナルファンタジー16」などPS5に入れ込みすぎたために売上が伸びなかったこともあり、国内の普及台数では断トツのスイッチに軸足を置くほか選択肢がないでしょう。

ほか今回のニンダイ発表で、ゲームメーカー各社のどのような意図が窺えるのか? 順を追って見ていきましょう。

任天堂の新作は「子供にとって初めての体験」と「大画面で遊べるうれしさ」を提供

任天堂のファーストパーティタイトル新作は、ザックリ分けて2種類。「過去タイトルのHDリメイク」と「既存シリーズの最新作」となります。

前者は『ドンキーコング リターンズHD』や『ルイージマンション2 HD』。それぞれオリジナルはWiiと3DS用であり、Nintendo Switch Onlineのレトロゲーム配信でも対象外のハードです。

さらに「ドンキーコング リターンズ」は10年以上前のタイトル。かたや『ルイージマンション2』は携帯ゲームの小さな画面で遊ぶ他なかった。今の子供にとっては新鮮であり、大人にとっては「テレビの大画面で遊べる」というメリットもあり、どちらも商品価値は十分に高かったりします。

そして「既存シリーズの最新作」としては『マリオ&ルイージ RPG ブラザーシップ』や『スーパー マリオパーティ ジャンボリー』、『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』(メトロイドは後述)。

これら3つは、実は「シリーズ前作、全て携帯ゲーム機用」や「マリオパーティのリブート2作目」、「ゼルダ姫初の“単独”主役作(「もう一人の主人公」は結構あり)」など毛色はバラバラ。これほど方向性の異なるものが揃えられたのは、任天堂タイトルの厚みあればこそですね。

また、どの新作も当然ながら任天堂が権利を持つIPであり、PlayStationやらXboxには絶対に出ません。つまり他社の現世代ハードと表現力を比べられる恐れなく、「自社の過去ハード比で」HDだと名乗れるのも強みです。

最後に『メトロイドプライム4 ビヨンド』は、初め2017年に発表、2年後に開発スタジオを変更。その後は音沙汰なし……ということで、現世代ハードで出ることがサプライズ。もっとも一人称視点シューティングで国内市場とは相性がいいとは言えず、「海外ファンは大喜び」止まりでしょう。

ソニーと任天堂は急接近?『LEGO HORIZON ADVENTURES』のサプライズ

今回、サードパーティ製タイトルで最も興味深かったのは『LEGO HORIZON ADVENTURES』です。数多くのタイトルに埋もれてる感じでしたが、ど真ん中のソニーというかPlayStationタイトルのスピンオフですよ。

これは間に「レゴ」を挟んだから実現したのでしょう。すでに2年前、「Horizon Forbidden West」のレゴセットが発売済みであり、ソニーとしてはPSハードとは独立したキャラクター・世界観IPとして育てていく意図が窺えました。

また任天堂は「ゼルダの伝説」実写映画化で、米ソニー・ピクチャーズエンタテインメントと共同出資しています。最近は意外と両社(グループ)とも接近しており、いずれホライゾンのアロイがスマブラに参戦するかもしれません…というか、開発スタジオのプロデューサーがそんな発言をしていました。

その一方、上でも少し触れましたがスクエニの動きもとても面白いです。

たとえば『FANTASIAN Neo Dimension』は、もう少し注目を集めてもいい。ファイナルファンタジー生みの親の坂口博信氏と音楽・植松伸夫氏のコンビが再結成したものの、初めはアップルの遊び放題サービスApple Arcade専用タイトルだったため話題になったとは言い難い。

それがようやく家庭用ハードに移植、しかも古巣のスクエニがパブリッシング。ベテランのFFファンの人々は、もっと歓迎してあげましょうよという気持ちで一杯です。

そして本命のHD-2D版『ドラゴンクエストIII』と『ドラゴンクエストI&II』。2021年5月に制作が発表されてから約3年もの沈黙、先月末にやっと対応プラットフォームが発表。PS5、Xbox Series X|S、スイッチ、Steamという、マルチプラットフォームでスイッチが外されない!のはレアケースでしょう。

まぁ、「最も売れてるハードに出す」ことが恒例のドラクエで、スイッチを除外する選択肢はなかったでしょう。発表に時間がかかったのは、開発スタジオが変更されていたことと関係があるはず。

もともとドラクエは『週刊少年ジャンプ』で作者の堀井雄二さん自らが「ファミコン神拳」で紹介や攻略ガイド、さらには開発途中の画面を公開したりと、「小学生がプレイする初めてのRPG」という色合いが濃かったものです。

その役割は、マインクラフトを思わせる『ドラゴンクエストビルダーズ』シリーズに受け継がれていたものの、やはりドラクエ本編のプレイヤーが高齢化するばかりでは将来がありません。このHD-2D版で初期のロト三部作から仕切りなおすことで、ドラクエが世代を超えて続いていくと期待したいところです。

アニメライター/ゲームライター

京都大学法学部大学院修士課程卒。著書に『宇宙政治の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。現在はGadget GateやGet Navi Web、TechnoEdgeで記事を執筆中。

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