東京ディズニーランド&シーの入園者数制限の規模は妥当? 赤字覚悟の運営、感染対策のあり方とは
緊急事態宣言下の入園者数制限
東京ディズニーランド(TDL)と東京ディズニーシー(TDS)は、政府から発令された緊急事態宣言および各自治体からの要請を踏まえ、1月12日から各パークの1日当たり入園者数を5千人に絞り込む入園者数制限を行ってきた。2月と3月頭の2度の延長を経て、3月21日で緊急事態宣言が解除されるまで、結局69日を要した。これは、1年365日の約2割の期間に相当する経営的大ダメージである。そして、この間のパーク内の閑散とした様子は、パークを訪れたゲストには奇異に映っただろう。
22日以降は、緊急事態宣言の解除や政府、自治体からのイベント開催等の段階的緩和の方針を受けて、5千人か、収容人数の半分までの多い方(ただし1万人以下)に緩和する方針が示され、それぞれ1万人を上限に運営されている。4月1日以降は、これを2万人まで引き上げる見込みである。
そこで改めて、TDL&TDSにおける5千人、1万人、あるいは2万人という入園者数制限について考えてみたい。
入園者数制限の圧倒的厳しさ
緊急事態宣言下に設定された入園者数制限5千人は、他のテーマパークや遊園地においても年間入園者数の大小に関わらず一律に設定された。年間入園者数が仮に両パークあわせた規模の30分の1にあたる約100万人の施設では、営業日数365日とすると、単純平均で1日当たり2,740人となり、入場制限を要しない。すなわち、5千人×営業日数365日とすると、年間入園者数182.5万人以上の施設において入園制限がなされることになる。
そこで、TDL&TDSの1日平均入園者数を想定し、それに対して5千人、1万人、2万人が何パーセントを占めるのか試算してみた(表1)。その結果、入園者数制限5千人は概ねTDLの約11%、TDSの約13%、1万人はTDLの約22%、TDSの約26%、そして、2万人はTDLの約43%、TDSの約52%となる。これは季節変動を加味していないが、1年間の単純平均でみて、一日当たり5千人という入園者数の制限がかなり厳しい水準にあることを理解でき、1万人であってもダメージはかなり大きいことがわかるのではないか。1日当たり2万人であっても半数以下、あるいは半数程度であり、これでも赤字覚悟の運営を余儀なくされる。
表1 TDL&TDSの想定入園者数と制限人数の構成比
入園者数制限の水準を他の観光業界と比較
比較対象として、外食店、宿泊施設、鉄道、航空、旅行業をとりあげ、それぞれ客数(旅行業のみ取扱額)の前年比をみた(図1)。昨年の4月、5月を底に落ち込んだが、その後に回復を始め、7月の「Go To トラベル」開始、それに東京が組み入れられた10月、そして11月にかけてピークを迎えた。年間平均で見ると、外食店の客数82.2%、鉄道旅客67.7%、延べ宿泊者数51.1%、航空旅客45.9%、国内旅行の取扱額41.8%であった。
緊急事態宣言において、感染拡大抑止の重点施設に挙げられた外食店については、客数82.2%に対して、客単価103.3%、そして、売上は84.9%であった。こうした水準に対して、東京ディズニーランド&シーの入園者数制限5千人による10数%、1万人でも20数%という設定は、昨年の4月や5月の水準にあり、ダメージの大きさが際立つ。
実際、1月28日に発表された、2021年3月期の第3四半期決算補足資料によると、閉園期間の4月〜6月から、パーク営業を再開した7月〜9月、GOTOトラベルの東京が解禁された10月〜12月と、収容人数を増やしていった結果、10〜12月は黒字化していた。入園者数2万以上からいかに増やしていけるかが、黒字化のポイントといえる。
図1 2020年における観光関連データの前年同月比伸び率
図2 外食店の客数・客単価・売上高の前年同月比伸び率
TDL&TDSの感染防止対策は行き届いている
遊園地・テーマパークは、政府の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を踏まえて、東日本・西日本遊園地協会と賛同企業が作成した「遊園地・テーマパークにおける新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」に基づき運営されている。実際、TDL&TDSは感染対策を徹底しており、独自に工夫した感染対策を随所に施し、ゲストとキャストの健康と安全の確保に努めている。
昨年の10月から12月にかけて入園者数を比較的増やした時期に、混雑がまったくなかったとはいえないが、広い屋外においては三密の心配はほとんどないと言ってもよい。専用アプリを有効活用し、密をつくらない対策を徹底してきた。アトラクションにおいても、キャラクターグリーティングにおいても、そして、待ち行列においても、三密の発生は抑制されている。レストランやショップは、通常のお店と同等以上に気を配っている。
テーマパークで感染が広がっているという統計的根拠は見られないが、パークまで移動する人数の規模が多く、人と人との接触機会が多いこと、飲食につながる場合が多いこと、そして、何より人気の高い施設であるが故に、人の移動を抑制するシンボル的な施設とされてしまっている印象もある。
入園者数制限のあり方の見直し
TDL&TDSの入園者にとって、数少ない危惧される場面であった公共交通機関の駅やバス亭の混雑についても、4月1日より閉園時間をTDL午後8時、TDS午後9時にずらすことで、回避するよう工夫した。自家用車での来園を促すことで、公共交通機関の混雑を回避するため、一時的に普通乗用車の駐車料金2,500円(平日)、土日祝日3,000円を、一律1,000円に値下げする。感染対策はますます高度に進められている。
先々、残念ながら第4波があったとしても、TDL&TDSのような大規模テーマパークについて一律に入園者数を制限するのではなく、個々の施設における感染対策の状況を踏まえながら、それにあわせた適切な収容率を設定しながら感染対策を施すことが望まれる。これは、単に経済活動と感染防止を両立させるためではない。もちろん、感染対策をおろそかにすることはあり得ない。しかし、しっかりと感染対策を施す施設においては、それに見合った適切な入園者を許容することが、結果的に安全かつ健全に運営され、社会的な効果を最大化することにつながるのではないか。