GSOMIAを破棄すべきか、撤回すべきか 苦悩する文大統領の選択は!?
韓国が「ホワイ国」からの除外など日本の輸出規制措置への対抗手段として日本に通告してした日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄は今月22日までに韓国政府が再考し、撤回しない限り、翌日の23日から自動的に発効されることになる。
文在寅政権は翻意する条件として日本政府がホワイト国除外など一連の経済制裁措置の撤回が先決としているが、安倍政権は事の発端となった元徴用工問題で韓国が納得できる対応を取らない限り、原状回復は困難との立場を貫いている。
個人の請求権を認め、日本企業に元徴用工への支払いを命じた韓国最高裁の判決を順守する文政権は政府・与党レベルで日韓双方にとって受け入れ可能な折衷案を模索しているが、妥協は容易ではない。
仮に、期限までに妥協が成立しない場合、見切り発車で破棄に踏み切るのか、それとも、一転撤回し、自動継続を表明するのか、どちらにせよ、文大統領にとっては頭の痛い問題だ。というのも、どちらに転んでも、得るものよりも、失うものが多いからだ。
▲GSOMIAを破棄した場合
1.米国との関係に亀裂が生じる。
米国は国務省も、国防省も、駐韓米軍(国連軍)司令部も米韓同盟体系、日米韓協調体制を損なうとの観点から韓国に対して再三にわたってGSOMIAを破棄しないよう迫っている。
当然のごとく、最大の同盟国の意向を無視すれば、安全保障上の問題だけでなく、韓国の外交、経済、国防、さらには対北関係など全般に悪影響を及ぼしかねない。
2.日本との関係をさらに悪化させる。
韓国がGSOMIA破棄をカードに使った目的は日本に対韓輸出規制を解除させることにある。破棄となれば、解除どころか、逆に制裁強化という意図せぬ「報復」を招く恐れもある。
タイで行われているASEANプラス3首脳会談の場で安倍首相と握手を交わすなど李洛淵総理の訪日を機に関係修復の兆しも見えている折にGSOMIAを破棄すれば、韓国が日韓関係改善の気運を台無しにしたとの批判を浴びかねない。
3.北朝鮮の「ミサイル脅威」に対応しきれない。
韓国を標的にした北朝鮮の短距離ミサイルや大型大口径放射砲(多連装ロケット)の発射が活発化し、今後のトランプ政権の対応次第では、金正恩政権が米朝交渉を打ち切り、ICBM(大陸間弾道弾ミサイル)の発射を再開しかねない状況下にあるだけにタイミングがあまりにも悪すぎる
▲GSOMIA破棄を撤回した場合
1.日本から見返りのないままの撤回は文政権の支持率低下に繋がる恐れがある。
「チョ・グク法相スキャンダル」で下落の一途を辿っていた文大統領の支持率は先週から上昇し、「支持」が2か月半ぶりに「不支持」を上回ったばかりだ。
チョ・グク元法相を庇いきれず、辞任させたことへの失望感から進歩勢力や支援団体の間で離反が見られていたが、仮にここで日本に譲歩、妥協すれば文政権の支持基盤は揺らぎかねない。来年4月の総選挙を前に支持層を結集しなければならない時に「コンクリート支持増」の離反は痛手である。
2.野党、保守メディアに攻撃の材料を与えかねない。
野党第一党の「自由韓国党」はGSOMIAの破棄には慎重、もしくは反対の立場だが、政権奪還の戦術上、文政権を苦境に陥れるためにはあらゆる手を使うことも辞さないので「不当な経済報復措置に対し相応の措置を断固採る。もう日本には負けない」との文大統領の言葉を逆手に取って、文政権のGSOMIA撤回を一転「屈辱外交」「弱腰外交」と責め立てることが予想される。
というのも、昨年の韓国最高裁の徴用工問題判決に対して「自由韓国党」は「日本は請求権協定に反すると反発しているが、我が国の国民情緒を考えず妄言を繰り返して関係をさらに悪化させている」と日本を非難する論評を出しているからだ。
かつて保守野党は金大中政権が竹島問題を棚上げにして日本との間で日韓漁業協定を妥結した時も、また盧武鉉政権が対立していた竹島の海底地形の韓国名称申請問題で日本に譲歩し、引っ込めた際にも「韓国の外交敗北」「売国外交」と罵倒した過去があるからだ。
3.北朝鮮との関係修復が困難となる。
文大統領は「南北の経済協力で平和経済を実現すれば、(日本に)一気に追いつくことができる」と豪語していたが、日韓関係同様に南北関係も最悪の関係にある。昨年3度の南北首脳会談で築き上げられた南北の信頼関係は今まさに、風前の灯にある。
北朝鮮はGSOMIAの破棄については「脱米国」の一環として、また南北関係にとって「一歩前進」と評価していたが、これを実行しないとなると、北朝鮮の反発は避けられず、文大統領が描いている朝鮮半島の平和の下での南北経済協力の実現は絵にかいた餅となりかねない。
GSOMIAは1年ごとの更新ということになっているので、日本の「心境変化」を期待し、1年間猶予したうえで、米朝・南北関係が劇的に好転すれば、来年に破棄という選択肢もあり得るかもしれない。