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特許を取得したスタートアップ企業は成長の確率が25倍高いというMITの研究について

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

英エコノミスト誌のサイトに” Mapping startups A recipe for success”という記事(英文)が載ってます。MITスローンビジネススクールの研究者が、2001年から2011年にカリフォルニア州で創業したスタートアップ企業160万社を統計的に分析した結果を発表したそうです(論文自体はサイエンス誌に掲載されてますが有償)。

同内容についての日本語記事から引用すると、

オーナーの名前に基づいて創設された企業は6年間にわたる成長確率が70%低くなると指摘した。一方、短い社名の企業は50%成功の可能性が高かったという。法人企業は非法人事業体の6倍の成功確率であり、ロゴがあると成功の確率が5倍高まる。特許を獲得している企業は25倍成長の確率が高い。

ということです。

直感的にはうなずける話です。たとえば、「栗原企画」とか「Kurihara and Associates」などの社名でロゴも作らずに営業して、会社がどんどん成長できるとは思えません(というかもともと大きく成長することを想定していない企業がこういう選択肢を取ると思います)。

特許と企業の成長率の関係についてはいろいろな意見があります。スタートアップの中にも、商品力や営業力だけで勝負する企業もあります。たとえば、ブルーボトルコーヒーが特許を取ってもしょうがないですね。また、今回のMITの調査結果も特許取得とビジネス成功への相関が判明しただけで、因果関係があることが証明されたわけではありません。優秀な経営者がいるスタートアップは成功の可能性が高い、そして、優秀な経営者は特許出願を行なう可能性が高いというだけの可能性もあります。

スタートアップ企業にとっての特許の価値について、米国ベンチャーキャピタルY-Combinator創業者のポール・グレアムは(だいぶ昔の)コラムで以下のように書いています(抄訳は栗原による)

我々は投資対象のスタートアップ企業に特許出願を勧めているが、それは競合他社を訴えるためではない。スタートアップ企業の成功とは、大企業に買収されるか、大企業として成長するかのいずれかになる。大企業とし成長したいのであれば他の大企業と対抗できる特許ポートフォリオ構築のために特許を取得しておくべきだ。大企業に買収されたいのであれば交渉材料として特許を取得しておくべきだ。

買収側企業がスタートアップ企業のビジネスに興味を持ったときの重要な意思決定は、自社で類似製品を作ってそのスタートアップと競合するか、スタートアップを会社ごと買ってしまうかのいずれの選択肢を取るかだ。この時、スタートアップ企業が強力な特許を持っていれば、この意思決定は「会社ごと買ってしまう」に大きく傾くことになる。「自社で類似製品を作って競合」では特許によるトラブルに巻き込まれることになるからだ。

テクノロジー系のスタートアップで商品やサービスの技術的要素で差別化できるのであれば特許取得はローリスク・ハイリターンのオプションになると思います。特許取得の費用の相場は100万円くらいという認識があるかもしれません。しかし、弁理士の報酬は自由競争なのでスタートアップに特化した事務所であれば50万円以下の予算でも十分に特許取得は可能です。

ここで、注意すべきポイントは「魅力のない製品やサービスの特許を取ってもその製品・サービスの価値が増すことはない」ということです。あくまでも、魅力のある製品やサービスをまず作り出し、その付加価値を高めるために特許を使うという考え方が重要です。

もちろん、実際の製品やサービスとは関係なしに、頭の中のアイデアだけで特許を取得し、それを大企業に買ってもらって悠々自適というパターンはないことはありません(私の知り合いの中にもそういう人がいます)。しかし、やはり、まずは良い製品・サービスを作る→それを特許で守るというパターンが基本だと思います。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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