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ペット系YouTuber「チャンネルと猫をセットで4400万円」譲渡で炎上。飼い猫を売るという感覚

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

コロナ禍でペットは人気が高まりました。

ペットを飼いたい人、ペット好きな人は、SNSでペット系の投稿を眺めています。動物のなかでもダントツで猫は、人気です。

そんななか、ペット系YouTuberがチャンネルとそこに出ている猫をセットで売買することを掲載しました。ビジネス&メディア ウォッチによりますと、そのチャンネルは、サイト売買サービス「SiteStock(サイトストック)」に売りますと掲載されていました。内容は「【最高利益月418万円】 ペット系YouTube2チャンネルの譲渡」との案件です。掲載は2月28日付で、売却希望価格は4400万円に設定していました。しかし、この掲載は、批判が相次ぎ、2023年3月2日までに削除されました。

猫は商品で売ることができるの?

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Twitter上では、このチャンネルの譲渡の案件を見て「愛猫家気取りで本当は猫を稼ぐ道具としか見てなかった人って事なんでしょうね」「酷すぎる。どういう神経しているのか」「安易に猫動画が見られない」などと批判が噴出しました。

猫好きな人は、自分の猫以外でも猫が好きです。その一方で、犬好きな人は、自分の飼っている犬の種類が好きな傾向があります。たとえば、チワワが好きな人はチワワには関心があるけれど、バーニーズマウンテンドッグという超大型にはあまり関心がありません。そのため猫の動画が人気になるのです。

この飼い主は猫が、毎日、YouTubeでお金を稼いでくれるようになると、道具のように見きたのでしょう。飼い猫を商品として売るという発想になり、チャンネルと愛猫をセットにすることに対して、なんの疑問も感じなかったのではないでしょうか。

猫を一緒に売ることは命の商品化が問題

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なぜ、猫を一緒に売ることが問題なのかが、わからない人がいるのです。

飼い猫は、家族の一員です。家族なら、売ろうと考えるでしょうか。確かに、自分が病気などで猫の面倒を見られない場合は、里親を探すなどしないといけません。

しかし、基本は猫を飼う場合は終生飼育です。猫を飼うということは、猫が病気のときも老いたときもずっと面倒を見ることになるのです。

このように猫がチャンネルでお金を稼ぐ道具と見ている人は、猫が病気になったり、自分の思うように動いてくれないと、虐待したりするのではないか、と心配です。猫の命は商品という考えです。

もちろん、叩くなどの身体的な虐待だけではなく、ちゃんと世話をしない(水や餌をきちんとあげない、病気になっても病院に連れていかないなど)ネグレクトも虐待になるのです。

猫は、飼い主が自分に関心がなくなったからといって、自立して自分で生きていることはできないのです。

ネット社会のいま、みんなで猫の幸せを案じよう

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動物系YouTubeのなかには、動物にとって適切でないものもあります。たとえば、猫とヒヨコを近づけてみて、猫の様子を見てみる動画なども非難が殺到しました(投稿者は、謝罪して動画は非公開にされています)。猫がヒヨコを襲わないからいいというものではないのです。猫はヒヨコなどの鳥を捕食する動物です。ヒヨコはその動画のために、恐怖を味わっていたのです。

動物には、アニマルウェルフェア(動物福祉)という考え方があります。欧州で広まった考え方で、ペットなどの愛玩動物の暮らしの質に関心が高まっています。

一般的に、人間が動物に対して与える痛みやストレスといった苦痛を最小限に抑えるなどの配慮により、動物の待遇を改善しようとする考えのことをいいます。

猫とヒヨコの動画は、アニマルウェルフェア的に見てよくないのです。YouTuberのなかには、動画を投稿しているなかで、かわいい仕草などを多くの人に見てほしいという純粋な気持ちが、金銭的なものがついてくるとアニマルウェルフェアという感覚が欠如していくのかもしれません。

アニマルウェルフェアという言葉は、難しいかもしれません。簡単にいえば、猫を飼っている人なら、猫はそんな不自然なことをしないとか、それって猫にとって虐待じゃないかという感覚を持ってSNSの投稿を見てほしいのです。

そして、それを見つけたら、今回のように声をあげて、そのような文化が改善されるようになるべきですね。

動物系のYouTubeを見ることで、そこに出ている動物は、お金を生むモノになっているのです。私たちは、猫が商品でありモノになる一面がある社会がこのネット上にあることを考えないといけないのです。

チャンネルと一緒に譲渡されそうになった猫は、元気で健やかな毎日を送っているのか、気がかりです。新しい時代になり、ペットの環境にもこのような問題が出てきますが、犬や猫が愛情を持った飼い主と暮らしてほしいものです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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