ユニクロのセルフレジに対する特許権侵害訴訟の最新情報について
ITソリューション開発企業のアスタリスクという会社が、ユニクロ(およびGU)店舗で使用されているセルフレジが自社の特許権を侵害しているとしてファーストリテイリング社に訴訟を提起した件については既に書いています(関連過去記事1、関連過去記事2)。
訴訟のメインの特許である特許6469758号は、製品の無線タグを読み取るリーダーに桶状に形成されたシールドを設けるというシンプルなものでした。これに対して、当然ながら、ファーストリテイリング社は無効審判を請求し、一方、アスタリスク社は分割出願を特許化してファミリー化するという一般的な特許係争のシナリオどおりの展開になっています。
その大きな動きの1つとして、本日、上記の特許6469758号に対する無効審判に対する審決取消訴訟の判決が知財高裁より出されました。これに関して、アスタリスク社のプレスリリースが出ています。なお、同社は、関連特許ファミリーを、今年の2月にNIPという会社に譲渡していますが、プレスリリースはアスタリスク社のサイトに両社共同名義で出されています。知財管理をNIP社に任せ、アスタリスク社が実業に専念できるようにという判断かと思います。
さて、このプレスリリースによれば、本日の知財高裁判決では、メイン特許の6469758号に対する無効審判の審決(請求項1,2,4を無効、請求項3は有効)に対して「請求項1,2,4を無効」の部分を取り消しました。要するに全請求項が有効との判断(正確に言うと無効にした審決は取り消すべきであること)を示しました。なお、厳密に言うと、特許性を最終判断するのは知財高裁ではなく特許庁なので、この後、ファーストリテイリングが上告しない限り、特許庁の無効審判が再開されて、ほぼ確実に請求棄却(全請求項について特許登録維持)となるでしょう。
アスタリスク社にとっては大勝利のように思えますが、実は、話はそう簡単ではなく、この第6469758号には、ファーストリテイリング社により、2回目の無効審判が請求されています。なお、同じ当事者が同じ証拠に基づいて確定した無効審判を蒸し返すことは許されませんが(一事不再理)、別の証拠を持ってくれば何回でも無効審判を請求できます。その審決の予告が4月に送達されているのですが、そこでは、全請求項が進歩性欠如により無効とされています。証拠として大きいのは、1回目の無効審判と同じ米国特許9245162号(タイトル画像参照)であり、今回の知財高裁判決との整合性が気になります。いずれにせよ、アスタリスク社は、ほぼ確実に審決取消訴訟を提起することになり、この特許の有効性が確定するまでは侵害訴訟の方は中止状態となるものと思われます。
さらに、メインの特許出願から分割した特許である特許6532075号にも、無効審判が請求されているのですが、こちらは、請求棄却(全請求項で特許性あり)との審決が(何とも絶妙のタイミングですが)昨日出されています。当然、これに対してファーストリテイリング社は審決取消訴訟を提起するでしょう。長くなりましたのでこの特許については別記事で解説しようと思います。
ということで、アスタリスク社にとっては一勝一敗という状況です。このように、消耗戦の様相を呈しててくると体力のある大企業がどうしても有利になってしまいますが、個人的にはアスタリスク社(とNIP社)にがんばって欲しいという感情が生まれてしまいます。