「被害に遭われた方が声を上げたことは間違いではありません」『アクタージュ』作画担当者がコメントを発表
原作者が未成年者への強制わいせつ容疑で逮捕され、連載が打ち切られることになった『アクタージュ』の作画担当である宇佐崎しろさんが、ツイッター上でコメントを発表しています。※『アクタージュ』は原作と作画担当が別で、逮捕されたのは原作者の男性です。
コメント内では、「まだ司法の判断は下されていませんが、被害に遭われた方の届出によって事件化され、逮捕・勾留という手続がとられたという事実を、重く受け止めたいと思います。」と書かれています。
まだ容疑者である時点で断罪することを避ける一方で、被害者へ心を寄せる内容で、大変配慮された文章だと感じました。
また、続く文章では性犯罪では二次加害(二次被害)が起こりやすいことを危惧し、読者に呼びかけています。性被害に遭った人の心理や、性犯罪は申告率が低いこと、あるいは二次被害がどういうものかを、宇佐崎さんは良く知ってらっしゃると感じました。
被害に遭ったときの心理やそれ以降の回復は被害者によってそれぞれですが、性被害は少し前までは「殴られたわけではない」「減るもんじゃないし」などと言われ軽視され続けてきました。現在でも、痴漢など「体を触られた」というような行為について、その被害を軽視する人は多くいます。
若者にも大きな影響力を持つ立場の方が、このように明確に問題を示してくれていることは大きいです。
このあと、連載終了を残念に思うファンに「私もとても残念に思っています」と心情を示し、次のように続きます。
宇佐崎さんがここまで言葉を尽くすのは、過去に芸能人など有名人が性犯罪で逮捕された際に、被害者がファンたちから激しくバッシングされてきたことを知っているからかもしれません。
実際にこれまで有名人による性犯罪が報道されたとき、被害者に関する真偽不明の情報が出回ったり、推測で被害者が中傷されたりすることが多くありました。多くあった……というか、必ずと言っていいほどそうなります。
今回の場合も当初「10代女性にわいせつ」という報道から、「援助交際」や「児童買春」だと思い込んで茶化したツイートをした人が複数いました(その後、自転車で追い越しざまに面識のない中学生の体を触ったと報道/たとえ児童買春だったとしても茶化すようなことではありません)。
また、ネット上ではファンたちから宇佐崎さんを心配する声が多く上がっていました。宇佐崎さんはこれが初めての連載で、ご本人と関係のない事件で打ち切りとなることを多くのファンが悲しみ、編集部に宇佐崎さんをサポートするように求めていました。
このような中で、「一番の被害者は宇佐崎先生」というツイートも少数ながら目にしました。
前述したように性被害は軽視されがちです。被害者が性被害に遭ったことより、連載が打ち切られることによる「被害」の方が大きい、と感じている人も中にはいるようです。
宇佐崎さんを心配するこういったファンの気持ちが、被害者を攻撃したり、被害軽視をしたりすることにつながらないように、宇佐崎さんは自らファンに自制を呼びかけたように読めます。
これまで芸能人や漫画家など有名人が性犯罪で逮捕された際に、事務所など関係者が、ここまで被害者に心を寄せ、二次加害を懸念する文章を発表したことは、なかったように思います。
少年ジャンプ編集部は、8月10日に出した連載終了に関するお知らせの中で、「社会的責任の大きさを深刻に受け止め」「ご迷惑をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます」「編集部はもとより、宇佐崎先生は断腸の思いをなさっていますが、先生をサポートし、また作品を作っていけるよう励んでまいります」と書いたものの、被害者や二次加害に関する言及はありませんでした。
これについて、被害者への言及がないことにネット上で批判が上がり、一方で「編集部に責任があるわけじゃない」など擁護の声も上がりました。
また、宇佐崎さんがツイートした後、これにかぶせるかたちで編集部が「編集部も同じ思いです」とコメントを発表。
もろもろの判断があって編集部もこのようにしかコメントを出せなかったのだとは思いますけども、どちらを子どもに見せたいかと言えば、宇佐崎さんの毅然とした態度だな……と思います。自分の言葉で語ったのは宇佐崎さんだけ。
原作者が逮捕されたことについてはもちろん宇佐崎さんにも編集部にも責任ないでしょうが、この件について読者に呼びかけることができるのは自分であるという「責任感」が、宇佐崎さんにはあるのではないでしょうか。
この事件に限らず、性犯罪の被害者が二次被害に遭うことのない社会に変えていくために、今回のようなアクションには大きな意味があると感じています。