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Facebookが残酷動画の掲載方針で右往左往

小林恭子ジャーナリスト

米フェイスブックが、残酷な場面が入った動画の掲載について短期間で方針を変更する事態が生じた。

生存中の女性の頭部を切り落とす動画がサイトに掲載されていることを不満に思った利用者たちがフェイスブックに動画を取り下げるよう依頼したところ、フェイスブック側が応じなかったので、メディアに連絡した。フェイスブックはメディアの取材に対し、動画を取り下げないと当初伝えたものの、その後報道が広がったことで、動画を削除。同時に何を掲載できるか、できないかについて新たな方針を発表した。

以下、BBCとガーディアン紙の報道を基にして事態の経緯をまとめてみたが(関連記事のアドレスは記事の末尾を参照のこと)、この中で問題になっている動画を筆者は見ていないことをお断りしておきたい。

―暴力的コンテンツは掲載可?

今年5月1日、人間の死の場面を見せる動画の掲載について、BBCがフェイスブックに問い合わせたところ、フェイスブックは「利用者は『私たちが生きる世界』を描く権利がある」と答えたという。

しかし、BBCがフェイスブックの安全利用の担当者へのインタビューを報道した後、2時間もたたない間に「報告された動画を削除し、このような動画についての方針を再評価したい」とする旨を発表した。

いつ方針の見直しが決定するのか、この時点では不明だった。

今月21日、BBCはフェイスブックの利用者の一人から連絡を受けた。10月16日にサイトに掲載された動画を削除するようフェイスブックに連絡したが、フェイスブック側がこれを拒否しているという。

この利用者によれば、動画の中で、顔をマスクで隠した男性が女性の頭を切り落としたという。斬首直前まで女性は生きており、動画についた多くのコメントから判断すると、オーストラリアの警察やほか複数の利用者がフェイスブックに対して動画を削除するよう依頼したものの、実現していない、ということだった。

オーストラリアの警察がフェイスブックに連絡したところ、モデレーターから「動画は写実的な暴力についてのコミュニティー基準を違反していない」といわれた。

そこで、BBCがフェイスブックに連絡を取った。広報担当者はこのような画像の掲載制限が解除されていたことを明らかにした。新たな基準が適用されているという。描写された内容、つまりは斬首を祝うあるいは奨励しない限り、このような動画をサイトに掲載し、共有は可能だと説明した。

こうした方針に対し、キャメロン英首相がツイッターで懸念を表明。ほかのフェイスブック利用者も「授乳の際に女性の乳首が見えるのが駄目なのに、なぜこのような残酷な場面が入った動画が許されるのか」と疑問の声を上げだした。

そこで、フェイスブック側は問題の動画が再生される前に、「警告!この動画には動揺させる可能性がある、極度に写実的なコンテンツが入っています」というバナーを出すようにした。

その後、フェイスブックは再度掲載方針を変更。動画を削除し、「このコンテンツは利用できません」という表現が出るようになった。

22日、フェイスブックのウェブサイトには利用できる画像についてのアップデート情報が、掲載された。その内容は以下。

「人がフェイスブックに戻ってくるのは、体験を共有したり、利用者にとって重要な問題について意識を高めるためです。時として、この体験や問題が人権侵害、テロ行為、そのほかの暴力行為など、公的に関心があるあるいは懸念がある、写実的なコンテンツを含む場合があります。こうしたコンテンツを共有するとき、大部分は非難することが目的です。サディスティックな愉しみや暴力を称賛するために共有されるとき、フェイスブックはコンテンツを削除します」

「フェイスブック上で暴力の称賛を根絶する努力の1つとして、私たちの方針の実行を強化します」

「第一に、利用者がコンテンツについて通報してくるとき、暴力的な画像あるいは動画の周辺の文脈を全体的な視点から判断し、暴力を称賛する動画を削除します」

「第二に、そのコンテンツを共有する人が責任を持ってそうしているかどうか、つまり、動画あるいは画像に警告をつけているか、適した年齢層と共有しているかを見ます」

「こうした基準に沿って、写実的コンテンツについての最近の通報について再度考慮し、このコンテンツが暴力を不当に及び無責任に称賛するものであったと結論付けました。この理由から、コンテンツを削除しました」

「今後、写実的コンテンツを非難する目的で共有する人は責任を持ってそうすること、視聴する人を注意深く選ぶこと、コンテンツの内容について事前に警告を与え、見る人が情報に基づく選択をできるようにしてください」。

結局、暴力的映像の掲載禁止から、禁止の解除、その後のバッシングの後で再度禁止となったわけである。

―乳首が見えては駄目

フェイスブックはこれまでにも、利用者が掲載するコンテンツの基準について、時として物議をかもしてきた。

例えば、母親が赤ん坊に授乳する光景だ。昨年リークされたフェイスブックの画像についてのガイドラインによると、サイトのモデレーターは母親の乳首が見えるような画像は禁止し、動物が食事をするあるいは獲物を捕まえる行為を「写実的に映す」場合は許可することになっていた。

「深く生々しい傷」や「つぶれた頭部・手足」の画像は許され、誰かが判別できる人間の体から出た液体(血液など)の画像は禁止された。精液はいかなる状況でも掲載できない。

授乳行為について、最近はルールが変わり、画像の掲載が許されるようになった。

掲載禁止への動きが遅いといわれているのが、女性に対する暴力行為を示す画像だ。ガーディアンの調べによれば、女性の海軍兵士への暴力行為についてのジョークは3年間も掲載され続けていた。しかも、最終的に削除されたのは、口座が偽の身元情報を使っていたという理由であった。

また、フェイスブックが政治的な抗議運動について干渉していると見る人もいる。2011年、英政府の財政削減に反対する活動団体「UKアンカット」が作ったページ、同じく財政削減に反対する学生たちの運動組織「ロンドン学生協会」のページも閉鎖された。当時、フェイスブックの広報官は閉鎖の理由を「正しい方法で登録していなかった」と説明している。

2007年には、携帯電話会社ボーダフォンなど数社が、人種差別的と一部で批判されている政治組織BNPの活動を推奨する団体のアカウントに抗議するため、フェイスブック上の広告を引きあげたこともあった。

どこからどこまでが許されるのか、表現を見極めるのは時として難しく、こうした方針を世界に約11億人といわれる利用者に十分に理解してもらえることも簡単ではない。

利用者に思い思いのコンテンツを共有してもらいながらも、行き過ぎは避けたいー。SNS運営者にとって永遠の悩みかもしれない。今後も、紆余曲折の方針変更がありそうだ。

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参考記事

Facebook makes U-turn over decapitation video clip

Facebook's changing standards: from beheading to breastfeeding images

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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