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「中秋の名月」の頃は高潮に特に警戒 台風12号の接近で初の高潮に関する早期注意情報

饒村曜気象予報士
中秋の名月(写真:イメージマート)

台風12号が沖縄接近

 台風12号が発達しながら沖縄の南を北西へ進み、12日から14日頃にかけて強い勢力で沖縄地方に接近する見込みです(図1)。

図1 台風12号の進路予報と海面水温(9月9日21時)
図1 台風12号の進路予報と海面水温(9月9日21時)

 台風に関する情報は、最新のものをお使いください。

 台風は、台風が発達する目安とされる海面水温27度を上回る、海面水温29度以上の海域を通って沖縄県先島諸島に接近することから、発達を続け、強い台風となっての接近です。

 沖縄地方では、11日から高波に、12日頃からは暴風や大雨に警戒してください。

 台風12号は、台風を動かす上空の風が弱いため、動きがゆっくりで、暴風域が沖縄県の先島諸島にかかるのは、当初考えられていた9月11日夜の始め頃より少し遅れ、12日未明になってからと考えられます(図2)。

図2 沖縄県石垣島市(上)と沖縄県本島南部(下)が暴風域に入る確率
図2 沖縄県石垣島市(上)と沖縄県本島南部(下)が暴風域に入る確率

 そして、丸一日以上、13日の昼前まで暴風域に入っている可能性が高くなっています。

中秋の名月

 9月13日は、太陰暦の8月15日、「中秋の名月」の日です。

 太陰暦では月の満ち欠けから日にちを決めており、毎月15日が満月です。そして、太陰暦では7月から9月を秋としており、その真ん中の8月が中秋ですから、8月15日の満月を「中秋の名月(十五夜)」として、月をめでていました。

 しかし、この中秋の名月の頃は、台風の高潮に特に警戒する時期と重なります。

 海面の水位(潮位)は、主に、月が地球に及ぼす引力と、地球が月と地球の共通の重心の周りを公転することで生じる慣性力を合わせた「起潮力」で変化します。

 また、地球と太陽との間でも、同じ理由でやや小さい起潮力が生じますので、地球に対して月と太陽が直線上に重なるとき(太陽・地球・月が満月、太陽・月・地球が新月)、月と太陽による起潮力の方向が重なるため、1日の満潮と干潮の潮位差が大きくなります。この時期が「大潮」です(図3)。

図3 大潮・小潮の解説図
図3 大潮・小潮の解説図

 月と太陽が互いに直角方向にずれているときは、起潮力の方向も直角にずれて、互いに力を打ち消す形となるため、満干潮の潮位差は最も小さくなり、「小潮」となります。

 つまり、満月と新月のときは大潮なのです。

 加えて、気温が高くなる夏は、海水が膨張して海面が約30センチも上昇しています(図4)。

図4 冬から春と夏から秋の潮位の比較
図4 冬から春と夏から秋の潮位の比較

 つまり、中秋の名月の頃は、一年で海面水温が一番高い時期にあたり、台風の高潮によって潮位が高くなると大きな高潮被害が発生する可能性がある時なのです。

最初の高潮の早期注意情報

 気象庁では、平成29年(2017年)5月17日より、暴風(暴風雪)や大雨、大雪、波浪などの警報を発表するほど強くなる「警報級の現象」が、5日先までに予想されているときには、早期注意情報として「高」、「中」の2段階の確度で発表しています。

 これは、平成26年(2014年)8月19~20日の広島市に対する豪雨災害など、集中豪雨や台風等による災害が相次いで発生したこと、また、雨の降り方が局地化、集中化、激甚化していることを踏まえたものです。

 この早期注意情報は、警戒レベル1に相当し、住民がとるべき行動は、「災害への心構えを高める」となっていますが、令和4年(2022年)9月8日から高潮が加わりました。

 そして、最初の発表が、この台風12号による石垣島地方などに対してのものです(図5)。

図5 沖縄県石垣島地方(上)と沖縄県本島中南部(下)が警報を発表する可能性
図5 沖縄県石垣島地方(上)と沖縄県本島中南部(下)が警報を発表する可能性

 沖縄県石垣島地方では、週明けに台風12号が接近することから、高潮が発生する可能性は、12日、13日、14日ともに「中」となっています。

 つまり、台風の移動速度が遅く、長期間にわたって、高潮に警戒が必要な状態であることを示しています。

 高潮の早期注意情報は、高潮予測技術の改善により、台風に伴う高潮予測の精度が向上したこと及び台風以外の要因による高潮も含め警報級の高潮となる可能性をより具体的に評価することが可能となったことから生まれました。

 現時点での高潮「高」が発表の目安は、(明日まで)台風が予報円の中心を通った場合に予想される潮位が高潮警報基準以上となる場合、(明後日から5日後まで)予想される潮位が高潮警報基準以上となることが「中」より高い確度の場合です。

 ただ、これまでの大雨、大雪、暴風(雪)、波浪と違って、量的予報は行いません。これは、高潮の大きさは台風進路予報のわずかな変化で極端に変わり、警報級の高潮が予測されても、その後の台風進路によっては実際には警報級の高潮とならない場合があるからです。

 高潮による浸水が想定されている地域では、市区町村での防災対応や住民自らの早めの避難行動の判断材料としての活用が期待されます。

図1の出典:ウェザーマップ提供。

図2、図3、図4、図5の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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