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アベノミクスは「キプロス」を乗り越えられるのか?

岩崎博充経済ジャーナリスト

市場の期待通りに進んだアベノミクス

「2年で2%」という課題を抱えて、黒田新総裁の日本銀行がスタートした。アベノミクスへの期待から、市場は安倍政権の思惑通りに株価を上げ、円を売ってきた。「日本株ロング、円ショート」のスタンスは今後も続きそうだが、ここから次のステップに上がっていくのが難しそうだ。外国人投資家が推進役となって買われてきた日本株は、ここに来てさすがに過熱感が出てきたと言わざるを得ない。キプロス問題はおそらくきっかけに過ぎないだろうが、市場はこれまでの調整なき上昇相場から、やや異なる局面を迎える可能性が高い。

そもそも、日本の株式市場はプチバブルにせよ、バブルにせよ、だいたい次のような10のプロセスを経て、ひとつの相場を終える。そういう意味では、現在の相場はまだ始まったばかりといえる。

1.外国人投資家が日本株を買い始める

2.デイトレーダーなど国内の積極的な投資家が参入

3.証券会社が投資セミナーを活発に開催し、マネー雑誌も完売する

4.国内個人投資家が参入してくる

5.株価が高値を更新する

6.投資経験のない素人投資家が大量に市場参入する

7.外国人投資家が売り逃げを開始する

8.ブラックスワン(想定外)の事態が発生する

9.株価が暴落する

10.大量の損失を出した個人投資家の「塩漬け銘柄」が増える

アベノミクスによって外国人投資家の期待が先行して始まった「日本株ロング」は、現在まさにレベル3の段階と言って良いだろう。国内の個人投資家の本格的な参入は、これからになるだろうし、バブルといわれるようになるには、投資経験のない個人投資家が大量に参入してこないと難しい。

これまで何度も何度も繰り返されてきたパターンと一緒なのだが、たとえば小泉政権時代の「郵政解散」(2005年8月8日)から始まった株価急騰と比較してみると、様々な部分で似ているところがある。当時の株式市場は、郵政民営化を目指して解散に踏み切った小泉政権の姿勢を支持し、解散の翌日から急騰していく。マザーズなど新興市場の急騰ともあいまって、日経平均株価は1万1000円から1万7000円まで一気に急騰する。

しかし、ここで日本版ブラックスワンともいえる「ライブドアショック」が起こる。ライブドアショック(2006年1月)によって、株価は暴落するのだが、そのブラックスワンも何とかクリアして、平均株価は1万8000円に達する。その後は、世界中を巻き込んだブラックスワン「リーマンショック」(2008年9月)で株価は暴落する。

キプロス問題の行き着く先は銀行破綻?

今回のキプロスショックでもそうだったが、何か経済的なショックがあると日本の株価は常に最大級の下落をする。今回のキプロスでも、EU諸国よりその下げ幅は大きかった。安定株主である個人投資家が少なく、リスクマネーが多い外国人投資家の比率が高いからだ。キプロス問題がどこまで発展するかは分からないが、トロイカがとった今回のキプロス救済方法は、はっきりいって大失敗だったといわざるを得ない。

トロイカの一員であるIMF(国際通貨基金)は、こうした銀行預金課税を提案しているのではないかといわれているが、IMFといえば莫大な財政赤字を抱える日本を救済する方法として、IMFのメンバーが非公式にまとめたとされる「ネバダレポート」というのが注目されたことがある。その中にも「銀行預金は30~40%カットする」という項目が入っていたのだ。ネバダレポートの真偽については諸説あるが、キプロス救済の銀行預金強制課税プログラムが、まったく何もないところから出てきたわけではなさそうだ。

いずれにしても、キプロス政府は今回、非常にまずい対応をした。まず、1週間も銀行を閉鎖してしまったことで、再開後はよほど預金引出し限度額を下げないと、あっという間に「取付け騒ぎ」が起きて、銀行は経営破たんに陥る。銀行預金への強制課税を決めたのであれば、議会にかけるといった悠長なことはせずに非常事態宣言でも何でもして、即時に実施しなければいけなかったのに対応を誤ったのだ。

異次元の金融緩和、期待はずれなら逆回転も

キプロス問題が解決したとしても、新しい問題がすでに出始めている。海外の投資家がアベノミクスに期待して進めてきた日本株ロング、円ショートという投資スタンスは、ここに来て新しい展開に入ったといえる。安倍首相とマーケットとのハネムーン期間も終わり、いよいよ実生活という「現実」が待ち受けているからだ。

その第一弾としては、やはり新しい体制ができた日銀の「異次元の金融緩和策」の中身だろう。アベノミクスがどこまで本気なのかが分かる。日銀は、資産担保証券(ABS)や株式の購入まで視野に入れていると報道されているが、問題なのはそうした次元の違う量的緩和策が本当に物価を押し上げる効果を持つのかどうかだ。債務問題に苦しむ欧州や不動産バブルの崩壊に苦しむ米国が実施した、未曾有の量的緩和によって、世界はマネーの過剰流動性に陥っている。

過剰流動性の行き場を求めて、世界のどこかでバブルを起こしたかったのだが、アベノミクスはそんな状況の中で、株式と不動産の資産インフレにゴーサインを出したわけだ。投資家は、その流れに沿って日本株を買ったわけだが、当然警戒感もある。日銀の「異次元の金融緩和策」が期待はずれ=これでは資産インフレは無理、と思われたら市場は一気に冷める。これからが正念場だ。

経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト。雑誌編集者等を経て、1982年より独立。経済、金融などに特化したフリーのライター集団「ライト ルーム」を設立。経済、金融、国際などを中心に雑誌、新聞、単行本などで執筆活動。テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活 動している。近著に「日本人が知らなかったリスクマネー入門」(翔泳社刊)、「老後破綻」(廣済堂新書)、「はじめての海外口座 (学研ムック)」など多数。有料マガジン「岩崎博充の『財政破綻時代の資産防衛法』」(http://www.mag2.com/m/0001673215.html?l=rqv0396796)を発行中。

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