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日本の女子高校生ペアが模擬国連大会で最優秀賞

木村正人在英国際ジャーナリスト

世界の高校生が国連会議を模して国際問題を討議する「グローバル・クラスルーム国際模擬国連大会」が15~17日、ニューヨークで開かれ、渋谷教育学園幕張高校(千葉市)が「国連人権理事会」部門で最優秀賞を受賞した。

日本の最優秀賞受賞は初めてだそうだ。うれしいニュースだ。

共同通信によると、3年の板垣奈恵さん(18)と2年の高佐綾菜さん(16)がペアを組んで「クウェートの外交官」になりきり「無人機利用」の決議案をまとめる交渉を行ったそうだ。このペアの実力は、「みらいぶ」というホームページでも紹介されている。

昨年11月に東京の国連大学で開かれた第7回全日本高校模擬国連大会でも、この2人は最優秀賞に輝いている。その時のインタビューから2人の言葉を拾ってみる。

板垣さん「調べてみてわかったのは、インターネットの情報だけでは限界があるということです。だから、親や先生に教えてもらった政治や経済関係の本や雑誌など、信ぴょう性のある情報をいろいろ読んで(略)勉強しました」

高佐さん「私は9歳から12歳までオーストラリアにいましたが、英語ができる、できないにかかわらず誰にでもできると思います」

板垣さん「頭の中で自分達の国の政策をよくわかった上で、他の国の意見を聞いて、まとめることが一番大事だと思いました」

2人とも帰国子女だ。国際舞台でここまで発信できる日本人は、あまりいないのではないか。2人が学ぶ渋谷教育学園を調べてみて、納得した。

同学園の田村哲夫校長のインタビュー記事が東洋経済オンラインに掲載されている。同学園は創立31年と非常に若い中高一貫校だ。田村校長いわく。

「渋谷教育学園が強いのは英語教育でしょう。(略)その中核を成すのが、帰国生クラスです。(略)もちろん先生はネイティブで、授業の内容も板書はほとんどなく、ディスカッション重視です。現在、授業で取り上げているのが、シリアの問題です」

「日本ではトップの東大も、世界的なレベルで見たら27位です。世界で戦うことを目指す生徒にとっては、東大は『まずは目指そう』というレベルの目標になりつつあります」

「個人的には、明治維新と同じような大変革が日本を襲っていると感じています。それも明治維新よりもはるかに速いスピードで。既存の価値観の多くが否定され、突如、現れた新たな価値観にとって代わられる。そういう時代です」

国際都市ロンドンで暮らしていると、時代の速さを痛感する。一時は我が世の春を謳歌した携帯電話ノキアは、スマートフォンのiPhoneに駆逐された。

メディアの世界も告発サイト、ウィキリークスや、米国家安全保障局(NSA)の監視プログラムを暴露したスノーデン事件で一変した。

サッカーのイングランド・プレミアリーグのクラブがマレーシアの実業家に買収され、繁華街ピカデリー・サーカスからは三洋電機の電光掲示板が消えた。

激変の波にさらされているのは日本だけではない。

そんな中で、板垣さんと高佐さんのような若者が日本でも育っていることを心強く思う。やはり肝要なのは教育だ。

世界にはいろいろな考え方がある。しかし、日本の考え方に閉じこもっていては、多様性も、多文化も、時代の変化も実感できないだろう。

在英日本大使館の四方敬之政務担当公使は、東日本大震災当時、官邸国際広報室長としてソーシャルメディアのTwitterを駆使し、積極的に英語で情報発信を行った。現在のフォロワーは1万6696人にのぼる。

その四方公使はかつて経営情報誌のディスカッションでこう話している。

「3.11の教訓ですが、私自身はこの問題は政府だけの話ではないと考えています。東京電力という民間企業もその一部であったわけですが、学者、政治家、マスコミ、そして日本の社会すべてが重要な課題を突きつけられているのではないかと思います。グローバルな社会のなかで危機が起こったとき、少なくとも英語で、出来れば中国語を含めた多言語で対外的に説明する。そこで対話出来る能力がないと、国際社会では生き残っていけないのではないかということです」

そのためには、日本の教育制度が最も重要だ。中長期的に戦略的に人材を育成し、どの組織にもインターナショナル・スポークスパーソンがいるという社会を構築していく努力が欠かせなくなるという。

日本では終身雇用を支えてきた「新卒採用」制度が壁となって、海外在住や留学経験のある優秀な人材を十分に活用できていないのではないか。この人は優秀だと思っても、日本の優良企業に就職する道は閉ざされている。

「新卒」ではないからだ。だから、「新卒」「中途」にこだわらない外資に優秀な人材がどんどん流れていくのだろう。

産経新聞ロンドン支局長時代の助手だったトム・ウィルソンさんは最近、ロイター通信への就職が決まった。留学したり、修士号をとったり、シンクタンクで勤めたりして、少しずつキャリア・アップに努めた。

日本では、まだ、このようなキャリア・アップの道は限られている。「新卒採用」を逃すと、「非正規雇用」となり「正規雇用」が遠くなる。日本の若者の多くがそんな焦燥感にとらわれているような気がしてならない。

国際社会で活躍できる人材を育てるためには、まず日本社会が変わる必要がある。今日のニュースが伝えるように日本は変わり始めているが、まだまだ限られている。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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