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国内線航空路に精神障害割引導入のビッグニュース

古谷経衡作家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長
筆者所有の障害者手帳(精神3級-千葉県)

・悲願の航空路線割引導入

 報道によると、日本航空グループや全日本空輸など国内航空10社が、国内線で障害者割引の対象を精神障害者にも拡大することを決定した(2018年9月25日、東京新聞報)。

 国内線航空路に於ける精神障害者手帳保有者(以下精神手帳保持者)の障害割引導入は、精神障害者団体などが国交省や航空各社に長年要請していたものであり、今回の結果は長年の要望が結実した悲願といえるビッグニュースである。

 我が国における精神手帳保持者は、内閣府の最新統計(平28)によれば約392万人(男性:159万人、女性:234万人)。簡単に言うとこの手帳の交付者とは、うつ病、躁うつ病(双極性障害)、統合失調症、パニック障害などを筆頭とした精神疾患一般に罹患しており、日常生活に著しい制限もしくは一定の制限を受ける者を指し、程度の重い順から1級、2級、3級となっている。

・外見からは分からない精神障害

 かくいう筆者は、1998年(高校2年時)にパニック障害を発症して診断・加療ののち、現在まで約20年間、この厄介な病気と闘病中である。よって精神障害者手帳でいうところの「第3級」に該当するとして、精神障害者手帳の交付を受けているものである(写真)。

 この事実を述べると「とてもそんな風には見えない」と決まって言われるが、精神障害者は主に身体障害者等とは違って、外見上は健常に見えてもその内面に漆黒のごとき宿痾を抱えているモノなのである。だから外見上健常に見えてもイコール健常人とは限らないという事実は、なかなかこの社会の中には通念として浸透していないのは歯がゆい。

 ともあれ、幸いにも筆者は、パニック障害治療の名医と出会って現在、薬物療法で以て病状は完全にコントロール下にあるし、「第1級」「第2級」に該当する障害の程度よりは軽いと判決されている。そもそも職業が自由業的文筆人なので、日常生活に一定の制限はあるものの、病状はアン・コントローラブルではないのが幸いである。

 この事実は、拙著『若者は本当に右傾化しているのか』(アスペクト、2014年)の中で既に記述しているが、この本は余り売れなかったらしく、該部分を読んでいない方が多いためか必ず驚かれるので、この際再度書くべきと思った次第だ。

・なぜか航空機とJRだけは割引除外だった

 さて、国内線航空路に於ける精神手帳保持者の障害割り引き導入が「悲願」と書いたのには訳がある。なぜなら、精神手帳保持者の障害割り引きは、既に路線バスとフェリーには適応されている(東京都だけは都営地下鉄も含まれる)のに、なぜかJRと航空路線にだけは適応除外とされてきたからである。

 そもそも、精神手帳保持者は、うつ病などを発症(合併の場合も)しており、元来屋内に引きこもりがちな傾向にある。こうした事情から、積極的な外出を促し、ひいては社会復帰を図る目的で、路線バスとフェリー各社は精神手帳保持者に対して早期から割引を導入してきた。だが、おなじ公共交通の名を冠するJRと航空路線は、身体障害者に対しては割引を適応してきたが、長年、精神手帳保持者に対する割引適応を拒否してきたのである。

・駐車場だけ半額の謎

 しかし不思議なことに、羽田、成田、新千歳、福岡など、国内の主要飛行場に於ける「駐車場」は、精神手帳保持者は半額(または減免)になる措置が講じられているのである。つまり筆者の場合、羽田空港に自家用車を一泊泊めたとする。通常期、この値段は1500円であるが、これが750円となる優遇措置が図られているのである。空港の駐車場は半額になるのに、肝心の航空路そのものには一切割引は適応されない。

 繰り返すように精神手帳保持者への公共交通機関への割引は、彼らの積極的な外出を促し、ひいては社会復帰を図る目的である。にもかかわらず「駐車場だけ割引」とは大変おかしな理屈である。このことから、割引の航空路本体への適応を精神障害者団体などが求めてきた、と言うわけだ。

・JRにも割引の拡大を求む

画像

※図中にもあるように、自治体や各社の判断、また「等級」によって異なる場合が有るので注意されたい

 今回、長年の要望が受け入れられた事により「悲願」が実現した。これは精神障害に苦しむ392万同胞にとって、余り報道されないが大変大きなビッグニュースである。日本航空にあっては早くも10月4日予約分から割引適用を開始する。その他の航空会社は2019年から適用が開始され、各社独自で呼称してきた「障害者割引運賃」の名称そのものも変更されるケースがある。

 正直言って筆者は、シュリンクする出版業界の中にあって、辛うじてだが、物書きとして、食うや食わず程の貧窮をしている状況では無いので、この割引の経済恩恵がどれほどあるのか不明瞭である。

 が、精神障害に苦しみ、外出したくともその高額な航空運賃がネックとなって、航空路の活用を躊躇してきた392万同胞の一部が救済されるのであれば、これは望外の展開で有り、ビッグニュースに他ならない。

 今後は、なぜか頑なに精神手帳保持者への割引を認めないJRへの割引適用拡大が求められる。

 なぜならJRこそ、最も身近な公共交通機関であるのは自明で有り、ここに割引が適用されないのはどう考えてもおかしいからである(*冒頭に述べたとおり、東京都在住の精神手帳保持者に対しては、都営地下鉄全線が無料の措置を講じている)。JRへの割引適用拡大を切に要望するものである。

作家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長

1982年北海道札幌市生まれ。作家/文筆家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長。一般社団法人 日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。テレビ・ラジオ出演など多数。主な著書に『シニア右翼―日本の中高年はなぜ右傾化するのか』(中央公論新社)、『愛国商売』(小学館)、『日本型リア充の研究』(自由国民社)、『女政治家の通信簿』(小学館)、『日本を蝕む極論の正体』(新潮社)、『意識高い系の研究』(文藝春秋)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり』(晶文社)、『欲望のすすめ』(ベスト新書)、『若者は本当に右傾化しているのか』(アスペクト)等多数。

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