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センスと情熱の塊『往生際の意味を知れ!』を見逃すな!

田幸和歌子エンタメライター/編集者
画像提供/MBS:『往生際の意味を知れ!』MBS/TBSドラマイムズにて放送

コロナ禍以降、様々な社会問題を内包するドラマや、SF的要素のあるドラマに秀作が多数登場するようになった。それ自体は喜ばしい流れだが、実は真逆に見える二極化したドラマの真ん中には、共通して重苦しい現実が横たわっているようにも見える。

特に連続ドラマは時代を映す鏡とも言われ、そうした傾向が強いが、それでも。ときにはリアリティや作り手のメッセージ性、世に問う意味などを軽く蹴散らし、ただただ純粋にワクワクする面白いドラマが観たいと感じている人もいるだろう。そんな欲求を満たしてくれるドラマが久しぶりに登場した。

米代恭の中毒者続出の同名漫画を原作に据えた、MBS「ドラマイズム」の『往生際の意味を知れ!』だ。

画像提供/MBS
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冒頭数分で痺れさせる熱量の高さとセンスの良さ

W主演は、加藤拓也脚本の『きれいのくに』(NHK総合/2021年)の見上愛・青木柚のタッグ。脚本は『シジュウカラ』(テレビ東京/2022年)や『ロマンス暴風域』(MBS/2022年)の開真理。その布陣でドラマ好きはすでにアガるが、実際に観てみると冒頭数分であまりの熱量の高さ、センスの良さに痺れる。

漫画以上に漫画のような、計算し尽くされたカット割と画角、映像の美しさ。二次元からそのまま飛び出してきたような見上愛の神々しさと妖しさ、怖さ、可愛らしさ。元カノに往生際悪く拘泥し続けながらも、必死に自身の思いを隠す青木柚の挙動不審ぶりや素直さ、可愛さ、ときどき見せるかっこよさ。

とんだ傑作である。

画像提供/MBS
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主人公は、国民的エッセイ漫画「星の三姉妹」の著者・日下部由紀(山本未來)を母に持つ、謎多き美女・日下部日和(見上)と、7年前に別れた元カノ・日和を忘れられず、日々元カノの写真や映像を摂取することで自我を保っていた“元カノ教”の信者で市役所職員・市松海路(青木)。そんな海路はある日、落雷で自宅が全焼し、思い出が全て灰になったことで全てを失い、自殺を試みるが、まさにそのとき元カノから電話が……。

“小悪魔”的美女に翻弄される恋愛モノかと思えば、ある一面では合っているが、全体的には大きく違っている。突然海路の前に現れた日和は、こんなめちゃくちゃな頼みごとをするのだ。

出産ドキュメンタリーを撮ってくれ、結婚も妊娠もしていない、精子が欲しい、でもSEXはしない、扶養も認知もしなくて良い、父親は要らない、でも子どもが欲しい――荒唐無稽な「妊活」の目的は「母親への復讐」。自身が妊娠することで、母のエッセイ漫画「星の三姉妹」がさらに話題になり、と同時に海路の撮る出産ドキュメンタリーによって母の嘘を暴くこと、「星の三姉妹」の“ひよりん”を消し去り、自身の人生を歩むことが狙いなのだ。

画像提供/MBS
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「過激なシーンなども濁さず描いて欲しい」

MBSプロデューサーによると、本作の企画がスタートしたのは、原作連載開始から1年ほど経った頃、番組の企画制作や映画、コンテンツ、イベント企画を行う「イースト・ファクトリー」の提案から。同社が手掛けていたドキュメンタリー番組『セブンルール』(カンテレ)で米代恭の密着取材を行った際、その人物像とカテゴライズできない作品に強く魅力を感じたのだという。

「原作者・編集者共にドラマ化にあたってリクエストされたのは『過激なシーンなども濁さず描いて欲しい』ということでした。ド深夜だから表現できる可能性を、原作通りにかつクリエイターの力を最大限発揮できる枠にしたいという思いで工夫してきました」(MBSプロデューサー)

MBSの「ドラマイズム」「ドラマ特区」といえば、気鋭のクリエイターを起用した“攻めた作品”を多数生み出していることで定評があるが、本作の場合の肝は、なんといってもW主演・二人のキャスティングだろう。

画像提供/MBS 
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スタッフが成功を確信した、見上愛の「アルカイックスマイル」

笑顔で見つめられると、吸い込まれそうで、何もかも読まれてしまいそうな妖艶さがある一方、笑っていても笑っていない、常にどこか遠くを見ているような見上愛の目。それでいて、時折、無防備に感情が漏れ出る可愛さもある。

「『日和は、見上愛さん以外いない』として企画段階で名前を挙げていましたが、実は米代先生も『きれいのくに』をご覧になっていて、連載中から実写化するなら絶対見上愛さんが良いと思っていたということを後になって知りました。そうした経緯は知らず、満場一致で見上さんにオファーしようということになったのは、幸せな一致でした」(MBSプロデューサー)

「実は見上さんももともと原作が好きで、たくさん読み込んでいらっしゃって、原作の理解や解釈がスタッフの誰よりも深い瞬間が多々あったんですよ」(イースト・ファクトリー プロデューサー)

ちなみに、原作の日和の微笑みについて、脚本家・開真理は「アルカイックスマイル」と命名。本作では、見上の口角の上がり方と遠い目により、そうした神秘性や上品さ、冷たさが見事に表現されており、「初めて見上さんのアルカイックスマイルを現場で見たとき、ものすごく鳥肌が立って。スタッフ一同、すごいドラマになるという確信を得た感じがありました」(MBSプロデューサー)と言う。

満場一致で「青木柚君の市松海路が見たい」

一方、原作を読んだ時点では、すぐに思い浮かばないのが、市松海路を演じる青木柚。年齢的に原作よりかなり若く、ビジュアル的に似ているというわけでもないのに、見れば見るほど市松海路だ。

「一つは、今回が3度目の共演となる、見上さんとの相性の良さ、見上さんが安心してお芝居できるということ。ただ、私も『きれいのくに』が大好きで、すごく良いコンビだと思っていましたが、ちょっと若いかなと思うところはあったんです。そんな中、決め手となったのは、開先生から台本がある程度あがってきた段階で、コミカルなシーンや真に迫ったシーンなど、いくつかのシーンを実際に演じてもらったこと。『海路がいた!』と現場がすごく盛り上がったんですよ。米代先生にもお芝居を見ていただいて、こちらも満場一致で『青木君の海路が見たい』ということになりました」(MBSプロデューサー)

画像提供/MBS
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NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(2021年度下半期)では、3代目ヒロイン・ひなた(川栄李奈)の弟で野球少年の桃太郎を、今年1月期のTBS金曜ドラマ『100万回言えばよかった』では、佐藤健扮する鳥野直木の8歳下の弟で、直木から過去3度骨髄移植を受けていた鳥野拓海を演じていたのが、記憶に新しい。

どちらも、ときに言いよどんだり、相手と言葉が少しぶつかったり、気まずそうに袖口をいじったり、手を動かしたりする「普通の日常会話」があまりに自然で、芝居とは思えない生々しさだった。

また、本作で、「あなた」という呼び名で無理に壁を作り、日和に対する恋心を隠しつつも、見えてくる顔や仕草――狼狽えて瞬きが増えたり、目が泳いだり、語気が強まって口が尖ったり、嬉しさでつい頬がゆるんだり、テレ隠しで鼻をかいたり――そうした海路を見ていると、「普通の人」の私生活をのぞき見しているような気まずさすら感じる。かと思えば、突如、ドン引きするほどヤバイ思考回路が見え、気づくと素敵に思えてくる。

画像提供/MBS 第7話より
画像提供/MBS 第7話より

普通の人からにじみ出るアンモラルな精神面・センスの塊

「もともとサイコパスの役や振り切った役は、ある意味やりやすいんですが、海路は一見普通の人で、でも実はマインド的に全然普通じゃない。普通の人にもなれるし、だからこそそこからにじみ出るアンモラルな精神面が演じられるという振り幅を自分の中で落とし込んで、ナチュラルに演じていただける方は、めちゃくちゃ少ないんじゃないかなと思います。どの表現もなんでこんなに上手いんだろうと思うと、たぶん解釈が深いんですよね。開先生がホン作りのときによく言っていたんですけど、海路はただダサいやつじゃない、どこか日和が惹かれるであろう男らしさとか、かっこよさみたいなところが滲み出る人物なんですね」(MBSプロデューサー)

「青木さんは、我々がオーダーする前から、上手に振り回されている情けなさと日和を引きつけるアンモラルなかっこよさみたいなところを共存した状態で入っていらっしゃったので、天才型やろ、と思いました。人物の本質にたどり着くスピードがめちゃくちゃ速い、センスの塊という印象です 」(イースト・ファクトリー プロデューサー)

画像提供/MBS
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『Nのために』以来の「怖すぎるお母さん」も話題に

また、本作の大きな見どころに、山本未來演じる「怖すぎるお母さん」もある。

山本未來の「怖すぎるお母さん」と言えば、湊かなえ原作×榮倉奈々主演、奥寺佐都子脚本、塚原あゆ子演出、新井順子Pによる名作『Nのために』の怖い母――「のぞみちゃん~」と笑顔で語りかけながら、節約を頑張る娘の目を盗み、ブランド品を買い漁る恐怖の浪費家を思い出す人が多いだろう。

実際、山本自身、『Nのために』以来とも言える怖い母親役を、おもいきり楽しんで演じているそうで、「現場を明るく楽しくしてくださる、素敵な俳優さん」(MBSプロデューサー)と言う。

見どころと推しポイントについて両プロデューサーに語ってもらった。

「もともと原作でも、日和の目が笑っていない、海路にも一切好意を漏らさないところから、ちょっとずつ海路への好きが出ちゃうところが好きなところなんです。日頃自分の感情を押し殺している日和が動揺したり、ポーカーフェイスが崩れ、アルカイックスマイルじゃなくなったりするシーンが原作以上にエモーショナルではないかなと思っていて。これは見上さんのお芝居のなせる業で、ニコッと本当に笑ったときとそうでないときの違いが映像として立ち上がってきたとき、圧倒的にいいなと思うんですよ。日和から漏れる、『絶対海路のこと好きじゃん』という部分にキュンとして欲しい」(イースト・ファクトリー プロデューサー)

「みんな何かの過去に執着しているキャラクターで、それぞれが囚われていること、過去への執着がどんどん露呈していく中で、話が転がっていきます。日和も海路も、周りのキャラも、新たな一面が見えてくる中で、少しずつ成長したり、過去に囚われたりのせめぎ合いに注目して欲しいです」(MBSプロデューサー)

残るは今夜放送分含めて2話。コロナ禍以降に現れた狂気と情熱ダダ漏れの傑作を味わい尽くしたい。

(田幸和歌子)

エンタメライター/編集者

1973年長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌・web等で俳優・脚本家・プロデューサーなどのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。エンタメ記事は毎日2本程度執筆。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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