Yahoo!ニュース

コロナ恐慌で米国の失業者2500万人突破 抗マラリア薬のむトランプ大統領「地滑り的惨敗」か

木村正人在英国際ジャーナリスト
もはや狂気としか言いようがない発言を続けるトランプ米大統領(写真:ロイター/アフロ)

トランプ氏の得票率予測55%から35%に急落

[ロンドン発]イギリスの民間マクロ経済調査会社オックスフォード・エコノミクスは11月に迫るアメリカの大統領選について「景気の失速で現職のドナルド・トランプ米大統領は得票数で負ける。投票率と新型コロナウイルス・パンデミックの進展がカギを握る」とツイート。

同社の報告書では新型コロナウイルス対策の都市封鎖で失業率が上昇しているため、トランプ大統領の得票率予測を再選に成功する55%から地滑り的惨敗を意味する35%まで引き下げました。「経済的な奇跡」が起こらない限り、再選は逆立ちしても無理な状況です。

報告書は「経済は依然として1930年代の大恐慌よりも悪い状態にある」「世界金融危機の最悪期を上回る失業率、パンデミック前の水準を6%近く下回る世帯収入、一時的なデフレはトランプ大統領にとって経済上の克服できない障害となる」と指摘しています。

景気失速で大量失業にデフレの恐れ

アメリカの失業率は2月の3.5%から、3月は4.4%、4月には14.7%、5月上旬で17.2%(2507万3000人)までハネ上がっています。

画像

失業手当の申請登録は3月下旬に過去最高の328万3000人を記録。米労働省の5月21日発表では16日までの1週間の申請登録は243万8000人。過去最高はこれまで世界的な不況に見舞われた1982年10月の69万5000件でした。

GDP(国内総生産)成長率も昨年第4四半期の2.3%から今年第1四半期には0.3%に急落。インフレ(年率)も3月の1.5%から4月に0.3%に急落し、デフレの恐れが広がっています。

新型コロナウイルスがクラスター(感染者の集団)を発生させる“3密(密閉・密接・密集)”ビジネスのレストラン、バー、映画館、ホテル、ジムが閉鎖され、大量の失業者を生み出し、小売業、接客業に大きな打撃を与えています。

逆転に必要なのはワクチンと治療薬

トランプ大統領が大統領選で民主党候補指名を確実にするジョー・バイデン前副大統領を逆転するには、新型コロナウイルスのワクチンや特効薬が開発され、都市封鎖や社会的距離などの公衆衛生的介入措置が解除されることが絶対条件です。

トランプ大統領はこれまで新型コロナウイルスに効くと主張してきた抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンについて今月18日「自分は数週間にわたって予防薬として飲んでいる。良い話をたくさん聞いた。第一線の労働者がそれを服用していることに驚くだろう」と発言。

ホワイトハウスの医師と相談したと言い、20日には「服用は1日か2日で終わるだろう」と話しました。

新型コロナウイルス感染症治療のためヒドロキシクロロキンが投与された症例から不整脈、心停止、突然死といった生命に関わる副作用の報告が相次いでおり、米食品医薬品局(FDA)も病院外で使用しないよう注意を呼びかけています。

米生物医学先端研究開発局(BARDA)局長としてワクチン開発を担当していたリック・ブライト氏はまだ新型コロナウイルス感染症の治療薬として効果も安全性も試されていないヒドロキシクロロキンを万能薬としてオンラインで販売できるようトランプ政権から求められたそうです。

それを拒否したところ左遷されてしまいました。ブライト氏は声明を発表し「ヒドロキシクロロキンは病院で医師の診断を受けて使用しなければならない」と強調。

トランプ大統領や支持者はヒドロキシクロロキンと利害関係を持っているとして、ブライト氏は「科学より政治と縁故主義を優先させ、市民の生命を危険にさらしている」と非難しました。

中国とWHOに責任転嫁

アメリカの感染者は160万人、死者は9万5000人を超えています。さらに失業者が2500万人を突破する事態となり、トランプ大統領は文字通り崖っぷちに追い詰められています。責任を転嫁するため、発生源の中国や露骨に中国の肩を持つ世界保健機関(WHO)への非難をエスカレートさせてきました。

4月14日

トランプ大統領は記者会見でWHOへの資金提供を停止すると表明

参考:WHOに噛み付いたトランプ大統領 勝者は中国 新型コロナで終わりを迎えるアメリカの時代

4月23日

記者会見で「紫外線であろうが、単に強力な光であろうが人間の体に大量に照射して温めれば効果的かもしれないな」「消毒薬は1分もしないうちにウイルスを殺す。体内に注射すればきれいになる」と発言

参考:夏が待ち遠しいトランプ米大統領の末期的発言「消毒薬を注射すれば新型コロナを殺せる」

4月30日

トランプ大統領とマイク・ポンペオ国務長官が「中国湖北省武漢市のウイルス研究所から発生した」と改めて主張

参考:中国「コウモリ女」を標的に新型コロナ起源論争が再燃 トランプ大統領の狙いとは

対策遅れたトランプ大統領

アメリカでここまで被害が広がったのは明らかにトランプ大統領の対策が遅れたのが原因です。

米コロンビア大学の疾病モデルによると5月3日時点で6万5307人だった死者は外出禁止(3月半ば)を1週間早く実施していれば2万9410人に、2週間早ければ1万1253人にまで減らせていたそうです。

また英インペリアル・カレッジ・ロンドンの新型コロナウイルス研究班の推測では、5月17日時点の罹患率はアメリカ全体で4.1%。ニューヨーク州16.6%、ニュージャージー州16.1%、コネチカット州13.3%、マサチューセッツ州13%になっています。

トランプ大統領の発言は末期的で、もはや狂気と言うしかありません。しかしワクチンや特効薬が出てくれば風向きは一気に逆転する可能性は残されています。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事