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オバマさんに伝えたい、原爆でなぜ人は死亡するのか

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
原爆は人も建物も粉々にする(写真:アフロ)

28日、現職のアメリカ大統領として初めてオバマ大統領が広島を訪れた。その様子はテレビ中継され、見た人も多かっただろう。これを機に「原爆が落ちると人体はどうなってしまうのか」について、資料をもとに簡単に説明します。

原子爆弾とはなにか

広島で使われた原子爆弾はウラン爆弾といわれるものだ。これは、ウランというとても壊れやすい元素に崩壊するきっかけ(爆弾の爆発)を与えて崩壊させ、その崩壊によって出てきたエネルギーを使った爆弾だ。ひとつのウラン元素の崩壊からでるエネルギーは小さいが、その崩壊がドミノ倒しのようにほかのウラン元素に連鎖して絶大なエネルギーとなる。エネルギーは熱になり、ウラン爆弾の周囲は1千万度を超えたと言われている。その熱が熱した空気は膨張し、巨大なうちわでぶんと風を起こされたような衝撃波になる。この「熱」と「衝撃波」が、まず爆弾の最初の攻撃だ。

爆発で多くの人は即死だった

原爆が爆発した瞬間、この熱と衝撃波で広島の多くの人は即死だっただろう。原爆は高度600メートルで爆発したので、爆心地周囲は人も建物も黒焦げになり瓦は溶け、血液を含むあらゆる液体は沸騰、蒸発した。おそらく数万人が即死したと思われる。また、爆心地から少し離れたところにいた人々は皮膚などに大やけどを負った。

それから起きたこと

8月に原爆が投下され数万人が即死、そしてその後はどれだけの人が亡くなったのか。広島市のホームページにこう記されている。

原爆によって死亡した人の数については、現在も正確にはつかめていません。しかし、放射線による急性障害が一応おさまった、昭和20年(1945年)12月末までに、約14万人が死亡したと推計されています。

出典:広島市ホームページ

これによると4ヶ月足らずで死者は倍になったようだ。その理由として、放射線によるダメージがある。ここが他の爆弾と原子爆弾の大きな違いである。

原爆は爆発後にもダメージを与え続ける

原子爆弾は爆発と同時に放射線を放ち、人々の身体に目に見える、あるいは目に見えないダメージを与えた。

放射線を浴びたということは、目に見えない小さな弾丸(中性子)のマシンガンを乱射されたようなものだ。弾丸は小さすぎて皮膚を通り抜け、身体の中の臓器にもぶつからず、臓器を構成する細胞ひとつひとつの、そのまた中の「核」というところの中に上手に畳まれているDNAという長い鎖状のものにぶつかって、DNAに傷をつける。DNAは細胞の作り方をメモしている設計図だから、傷がつくと正常とは違う細胞ができてしまったり、細胞が作られなくなる。正常とは違う細胞はがん細胞である。細胞が作られなくなったせいで血液が作られなくなって貧血になったり血液中のばいきんと戦う白血球が作られなくなり感染症に弱くなったり、髪の毛が作られなくなり脱毛したりするのだ。

厚生労働省は、「原爆による発症」と「そうでない発症」をわける原爆症の認定審査をしている。いろいろな病気が認定されるが、中でも

悪性腫瘍(固形がんなど)、白血病、副甲状腺機能亢進症

心筋梗塞、甲状腺機能低下症、慢性肝炎・肝硬変

出典:厚生労働省ホームページ

は「原則的に認定」あるいは「積極的に認定」するとしている。

以上、原爆が起こしたことを医学的な見地からまとめた。

※理解しやすくするために一部で医学的な厳密さを欠いた表現があります。

(参考)

広島市ホームページ

http://www.city.hiroshima.lg.jp/www/contents/1111637106129/

広島平和記念資料館website

http://www.pcf.city.hiroshima.jp/

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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