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7月4日は梨の日

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

7月4日は梨の日。シーズンには少し早いが、7(ナ)4(シ)ということで、語呂合わせとのことで、鳥取県東郷町(現在の湯梨浜町)が制定したそうだ。

梨農家の悩み

梨農家を経営している知人から以前連絡があった。梨には決められた規格があり、規格をはずれた規格外品は、「B級品」となり、出荷できないという。身内で消費するにも数が多く、消費しきれない。丹精こめて作った梨なので、ジャムなどに加工しようと考えた。だが、地元の保健所に、食品衛生の基準に合う加工所を作るためには200万円以上の資金が必要と言われて、どうにもできないという。筆者が、規格外の農産物を加工する会社を記事で紹介したところ、その記事を読んでの連絡だった。

世界中にある「規格外品」

規格から外れたら出荷できないのは農産物だけではない。豚肉用の豚にも基準体重があるという。魚の場合も、標準的な大きさの何倍もの大きさのものは、せりに出しても、料理人がさばきづらいため、売れ残り、処分されるという。輸送途中に魚同士が擦れてウロコが剥がれたものも「規格外」となってしまうし、カニの脚が1本取れただけでも値段は半額以下に下がってしまう。

丸の内の「魚治(うおはる)」は、その日の「もったいない」魚を築地から仕入れ、美味しく調理加工してお客様に提供している(筆者撮影)
丸の内の「魚治(うおはる)」は、その日の「もったいない」魚を築地から仕入れ、美味しく調理加工してお客様に提供している(筆者撮影)

摘果作業で生じるりんごを菓子加工に活用

りんごは、摘果(てきか)と呼ばれる剪定作業を行う。実をつけた果実のうち、成熟していないもののうち、増え過ぎたものや生育状態が優れないものを摘み取り、残った果実に十分な栄養を与えるためだ。

このような摘果されたりんごも、無駄になることがある。

長野県の株式会社マツザワは、このような摘果されたりんごを、地元のお土産用の菓子に加工した。

摘果されたりんごを活用したお土産用の菓子「りんご乙女」(株式会社マツザワHPより)
摘果されたりんごを活用したお土産用の菓子「りんご乙女」(株式会社マツザワHPより)

これにより、食品ロスを減らすこともでき、これまで廃棄していた摘果りんごが収入源となり、りんご農家の収入増に繋がった。

食品製造工場でもグラム不足は廃棄

加工食品を製造する工場でも、グラム不足のものや、パッケージ破損などは、ラインから外され、廃棄される。中にはパッケージを解体して活用されるケースもあるが、すべてではない。

フランスでは、このような、グラム不足などで製造ラインから外されたカマンベールチーズやシリアルなどの加工食品や規格外の農産物を一括してブランド化した。一般価格よりも安価にし、ビジネスとして成立させている。

フランスで、規格外のカマンベールチーズ(左)やシリアル(右)に同じブランドをつけてビジネスにしている事例。筆者撮影
フランスで、規格外のカマンベールチーズ(左)やシリアル(右)に同じブランドをつけてビジネスにしている事例。筆者撮影

先進国が途上国に作ってもらう農産物も規格外で現地で廃棄

日本の冬の時期は、フィリピンやタイでオクラを栽培し、飛行機で日本へ毎日空輸されている。そんなオクラも現地で1社あたり100トン単位で廃棄されていることを知った。日本では、緑のネットに入れて販売されることが多く、そこからはみ出る大きさのものは「規格外」になってしまうためである。

フィリピン・タルラック州のオクラ畑(撮影:和田裕介氏)
フィリピン・タルラック州のオクラ畑(撮影:和田裕介氏)

そのようなオクラを活用しようと、オクラヌードルに加工したり、調理加工したりするプロジェクトを3年ほど続けた。フィリピン国内16の施設にも配布した。

廃棄されるオクラは1つのオクラ加工業者で年間100から200トンに及ぶ(撮影:和田裕介氏)
廃棄されるオクラは1つのオクラ加工業者で年間100から200トンに及ぶ(撮影:和田裕介氏)

フィリピンのバナナチップの工場で働いていた女性にも同様の話を聞いた。日本の2つの会社に輸出していたそうだが、2つの会社それぞれ、別々に厳格な基準があるため、相当な量を廃棄していたという。最初はもったいないのでフィリピンでも販売していたが、バナナチップばかり食べる訳ではないのですべてを消費しきれない。しまいには燃料として燃やしていたそうだ。「バナナチップはよく燃える」と話していた。

作り過ぎない世界へ

SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)の17のゴールのうち12番目は「つくる責任 つかう責任」。

SDGsの12番目「つくる責任 つかう責任」(国連広報センターHPより)
SDGsの12番目「つくる責任 つかう責任」(国連広報センターHPより)

農産物は、規格通りには育たない。規格に合わせようとすると、必要量よりずっと多く、余分に生産することになる。SDGsの制定を機に、理想の「規格」とはどのようなものか、持続可能な生産とはどうあるべきか、考えてみたい。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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