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世界1位シェフラー逮捕劇は、逮捕時の音声が公開され「誤解」「全容疑取り下げ」も、広がる波紋 #ゴルフ

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

世界ランキング1位のスコッティ・シェフラーが、全米プロゴルフ選手権の2日目となった5月17日の朝、試合会場バルハラGC(ケンタッキー州)の目の前で、交通整理の警官の「止まれ」の指示に従わずに車を前進させ、警官にケガを負わせたとされて、その場で逮捕・連行され、そして約2時間後に釈放されたという仰天の出来事は、シェフラーによる罪状認否が6月3日に予定されていた。シェフラーには暴行、器物破損、危険運転、信号無視の4つの容疑がかけられていた。

しかし、5月29日の午後1時(米東部時間)、ケンタッキー州のジェファーソン郡検察から「すべての証拠に基づき、ミスター・シェフラーに対する容疑を取り下げる。ミスター・シェフラーの行動は、犯罪ではなく、彼が語った通り、大きな誤解だった」と発表され、罪状認否を待つことなく、まずは早期決着となった。

【警察車両の中の会話を捉えた謎の動画】

この発表が行われる1時間ほど前、警察車両の中で交わされたシェフラーと警官の会話が録音された動画がSNSで公開され、米メディアは騒然となった。

その動画は、現地警察(LMPD)が公開したものではなく、音楽関係のソーシャルネットワーク創設者を名乗る人物がSNSで公開したもので、米スポーツイラストレイテッド誌によると、その人物がこの動画を入手できた経路などは不明とのこと。

だが、音声は明らかに警察車両の中の警官とシェフラーの会話であり、そのやり取りは、シェフラーが何をどう誤解していたかを裏付けるものだった。

警察車両の中でシェフラーと話をしている警官は、シェフラーに手錠をかけた警官とは別の警官で、興奮状態のシェフラーの説明を聞きながら冷静に事実確認を行なっている様子が伝わってきた。音声はシェフラーの声で始まっていた。

17日の早朝、バルハラの目の前の道路で1人の男性が交通事故に遭い、命を落とした。その事故の影響で大渋滞が起こり、迂回するなどして「すでに30分以上かかっていた」と説明したシェフラーは「1人の警官の指示に従って反対車線側のレーン(中央のUターン・レーンの意)を窓を開けた状態で進んでいたら、そこに別の警官が近づいてきて『止まれ』と言った。でも、そのとき僕は、彼が警官だとは知らなかった。警備員か何かだと思った」。

すると、警察車両の中の警官が「それが警官か、警備員かで、何が違うんだ?」と尋ねた。シェフラーは「おっしゃる通り。でも僕はスタート時間にかなり遅れ気味で焦っていた。彼は僕の車に近づき、いきなり僕の肩を掴み、僕を殴った。彼はとても攻撃的で、僕はもっと殴られそうだと感じ、彼を振り切ろうとした。彼が誰だか知らなかったんだ。彼は自分がポリスだとは名乗らなかった。僕には彼のイエローのジャケットしか見えなかった」

聞いていた警官は、結果的にシェフラーの車がその警官を引きずり、膝にかなりの傷を負わせたという事実をシェフラーに説明した上で、「車から出なさいという指示にもアナタはすぐに従わなかった。それが状況をさらに悪化させた」と、シェフラーに説いて聞かせていた。

シェフラーは「そのときも彼が誰だか知らなかった。わからなかったんだ。ポリスだとわかっていたら、僕はあれほどの恐怖を覚えなかったかもしれないし、いや、もっと恐怖を感じたかもしれないけど、とにかく僕はパニックで怖かった。彼は『警察だ。車から出なさい』とは言わなかったんだ。手にしていた懐中電灯で僕の肩を殴り、そして『車から出ろ』と言った。怖かったんだ。信じてほしい。ポリスだとわかっていたら、僕はすぐに車から出た」。

最後に、警察車両の中の警官は「アナタは車を止めなかった。相手が警官であれ警備員であれ誰であれ、車を前進させてケガをさせることは良くない。そして、アナタはイエロー・ジャケットがポリスを示すものであることに気付かなかった」と、シェフラーを戒めるように言った。

【後味は悪い!?】

この動画の音声は、シェフラーが相手を警官だとは思わず、「暴力的な民間人」だと誤解していたこと、その人物に恐怖を覚えて振り切ろうとして車を前進させたことを示しており、このやり取りがシェフラーの容疑が取り下げられる決め手の1つになったと考えられる。

すべての容疑、嫌疑が晴れた今、シェフラーと彼の家族はさぞかし安堵し、ゴルフ界もファンも、みな胸を撫で下ろしていることだろう。

巷では、シェフラーに手錠をかけた警官の行動が「過剰反応だ」と批判する声が多数上がっており、ボディカム(体に装着しているカメラ)を作動させずにシェフラーを逮捕したことで、この警官にはすでに「規則違反」の処分が下されている。

一方で、ケンタッキー州の現地では法曹関係者や法律の専門家から「たった2時間で釈放されたことは有名人ゆえの特別扱い」「一般庶民なら連行されてから釈放されるまでに、最低でも6時間から12時間はかかる」といった意見も聞かれている。

「シェフラーのケースに限らず、米国にはリッチな白人向けの法律と、そうではない人々向けの法律があるようなものだ」といった声も上がっている。

前代未聞の逮捕劇は、罪状認否を待たず、発生から2週間で、形の上では早期決着となったが、後味の悪い終わり方、いや「終わらせ方」には、今後も波紋が広がり、さまざまな方面で物議を醸しそうである。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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