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朝日を浴びてセロトニンを出してもポジティブにならん! ~心理学の謎と哲学のいろは~

ひとみしょうおちこぼれの哲学者・心理コーチ・作家

朝日を浴びるとセロトニンが出ます。したがって、うつっぽい人や考えがネガティブな人は早起きして朝日を浴びよう! そうすることで前向きな考え方になります。こういった考え方をみなさん、1度はネットなどで読んだことがあるでしょう。

しかし、実際にうつっぽくなり、何をやっても脳がネガティブな考えに支配されるようになると(1)そもそも早起きしたいと思えなくなる(2)早起きして朝日を浴びてもポジティブな考えにならない、ということが起こります。

その時、人々は(1)自分なりに自己啓発などの方法を試みる(2)メンタルクリニックで薬をもらう、のいずれかをやるのだそうです。他にも何かをやっている人がいるのでしょうが、私のもとにカウンセリングに訪れる人はおおむねそのいずれか(あるいは両方)をやっているようです。

親を亡くした人に薬は有効か?

例えば、親を亡くしてうつっぽくなった人に薬は有効なのでしょうか? 

セロトニンを誘発させる薬はセロトニンを誘発させるのでしょうから、それを飲むとセロトニンが出てくるのだろうと思います(飲んだことがないのでわからない)。しかし、セロトニンが出てきたからといって、親を亡くした哀しみが癒え、ポジティブ思考に切り替わるのでしょうか。

私にはそうは思えません。

あるいは、意に染まない学校や会社に毎日行くしかない人にとっては、生きていることそれ自体が精神的地獄のようなものでしょうが、その塞ぎきった気持ちはセロトニン誘発剤を飲むと雲散霧消するのでしょうか。

私にはそうは思えません。

しかし、なぜか「もっと薬を増やしてください」とお医者に言う人がいるらしいのです。で、薬の副作用が大変なことになる直前くらいに、私のもとにカウンセリングに来ます。「お薬いらずの体質に変われますか?」

科学で割り切れないもの

なにもそういった人たちを非難しているわけではありません。私のもとにもっと早く来いと言いたいわけでも、決してありません。

ある種の人はなぜ、そこまで心理学を信じ込むのか、不思議に思うのです。

親を亡くした哀しみ。これは科学では割り切れないものです。それをなぜ科学の塊である薬で「治そう」とするのでしょうか。意に染まない理不尽な環境というのはなんらか数式で表せるものではありません。それをなぜ薬でどうにかしようとするのでしょうか。謎。

親を亡くしてどうして私はこんなに哀しいのだろう。

意に染まない環境にいることでどうして私は死にたいと思うのだろう。

それらの「なぜ」を問うところから、すなわち自分の心と対話するところから、おちこぼれの哲学は始まります。

自分なりに納得のいく答えが見つかれば、問いそれ自体が消滅して悩みは消えます。

心理学の謎

他方、心理学に頼ってどうにかなった人は別にそれでいいのですが、どうにもならなかった人は、自分をさらなる地獄へと突き落とします。心理学が提唱する「枠」から「すら」外れた「おちこぼれ」だと自分のことを認識します。その結果、極度に落ち込むか、自暴自棄になるか。ようするに精神病棟に入院することになります。そこに救いはないように私は思います。

しかしそれでも、心理学は多くの人にとって「すがる対象」になっているように見えます。そのことが私にとっては不思議なのです。おそらく「こうすれば、ああなる」というわかりやすい説明を心理学はするからなのかもしれません。

しかし、あなたは今「こうしても、ああならなかった」から悩んでいるのではないですか? つまり「科学の外」にあなたの悩みはあるのではないですか?

おちこぼれの哲学は誰かに何かを強制するものではないので、これ以上のことは言いません。しかし時には、「なぜ」を考えた方が健康にいいのではないかと思います。

人間の精神は誰もが知っているとおり機械ではないので、「ガソリンが切れた→給油する」みたいに「うつっぽくなった→セロトニン誘発剤を飲む」だけでは済まないようにできているからです。

おちこぼれの哲学者・心理コーチ・作家

8歳から「なぜ努力が報われないのか」を考えはじめる。高3で不登校に。大学受験の失敗を機に家出。転職10回。文学賞26回連続落選。42歳、大学の哲学科に入学。キルケゴール哲学に出合い「なぜ努力が報われないのか」という問いの答えを発見する。その結果、在学中に哲学エッセイ『自分を愛する方法』『希望を生みだす方法』、小説『鈴虫』が出版された。46歳、特待生&首席で卒業。卒業後、中島義道主宰「哲学塾カント」に入塾。キルケゴール哲学を中島義道先生に、ジャック・ラカンとメルロー=ポンティの思想を福田肇先生に教わる(現在も教わっている)。いくつかの学会に所属。人見アカデミー主宰。

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