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「えっ!これしかないの!?」亡父の遺産の額に愕然~「相続預貯金」の調査は「2つ」の資料がポイント

竹内豊行政書士
「遺産分割協議書」の署名押印は慎重に行いましょう。(写真:イメージマート)

佐藤次郎さん(仮名・48歳)は、3か月前に父太郎さん(仮名・85歳)を亡くしました。太郎さんは長男・一郎さん(仮名・50歳)と太郎さんが所有するマンションに同居していました。妻の花子さんは既に他界していたので、相続人は長男の一郎さんと二男の次郎さんの二人です。

次郎さんは、マンションは一郎さんが全て相続して、金融資産はできれば一郎さんと半分ずつ分け合いたいと考えています。

遺産の額に愕然

一郎さんから「相続の件で話があるから家に来てくれないか。それから実印と印鑑証明書を持ってきてくれよ」と電話があったので、早速翌日役所で印鑑証明書を取得してその足で伺いました。

すると一郎さんから「財産目録」という書類を見せられました。それを見た瞬間、次郎さんは愕然としました。そこには、マンションの他、銀行名と貯金の金額が書かれていましたが、金額が約100万円しかないのです。続けて一郎さんは「このマンションは俺が今後も住み続けるから俺がもらうよ。その代わり預金は全てお前にあげるよ。ここに100万円用意したから受け取ってこの書類にサインして実印を押してくれ」と「長男佐藤一郎は、亡父佐藤太郎の全ての遺産を取得する。」と書かれた「遺産分割協議書」を差し出しました。

次郎さんはマンションを一郎さんが取得することには異論ありませんが、堅実な父が100万円しか残さないで死亡したことはにわかに信じられませんでした。しかし、太郎さんの財産管理は一郎さんが行っていたため、内容は一切わかりません。さて、次郎さんは一体どうしたらよいのでしょうか。

相続財産を明らかにする2つの書類

相続開始後、相続人が被相続人(死亡した人)の預金口座に関して金融機関に請求できる主な書類は2つあります。一つは「残高証明書」、もうひとつは「取引履歴」です。

残高証明書

残高証明書は、特定日の預貯金口座の残高を記した書類であり、相続財産の評価を確定させるために相続開始時点(=被相続人の死亡日)での評価を請求します。

取引履歴

取引履歴は、預貯金口座の過去の入出金の推移が記された書類です。被相続人の口座の過去の入出金を確認することにより、相続人やその他の者が生前贈与を受けていないか、また、不正な出金がないかなどを確認するために請求します。

相続人が単独(1人)で請求できる

そして、法定相続人の1人が金融機関に対して、残高証明書や取引履歴の開示請求を行った場合、原則として認められます(最高裁平成21年1月22日判決)。したがって、他の相続人の同意は必要ありません

必要書類

金融機関に対して「残高証明書」や「取引履歴」を請求するために必要な書類は次のとおりです。実際に請求する場合は、事前に金融機関に確認することをお勧めします。

・被相続人との相続関係を証明できる戸籍謄本

・請求者の身分証明証(運転免許証、マイナンバーカード等)

・請求者の印鑑登録証明書

・請求者の実印

※貯金通帳はあれば提出する。無くても申請は可能。

遺産分割協議書には「納得」して署名押印する

さて、兄一郎さんから提示された「財産目録」に疑念を抱いた次郎さんはどうしたらよいでしょうか。今回ご紹介したように金融機関に「残高証明書」と「取引履歴」を請求することをお勧めします(次郎さんは兄一郎さんの承諾を得ずに単独で金融機関に請求できる)。そして、事実関係を把握した上で、兄一郎さんと協議してお互い納得した上で遺産を引き継ぐようにしましょう。曖昧な状態で署名押印してしまうと遺恨を残すことにもなりかねません。そのようなことにならないように遺産分割協議書の署名押印は事実関係を把握した上で行なうことをお勧めします。

※この記事は、判例と筆者の実務経験を基に作成したフィクションです。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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