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サッカー界にはびこる拝金主義。相次ぐ大けが、ヤマルは潰されるのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

クラブワールドカップの矛盾

 2024年12月、クラブワールドカップは欧州代表レアル・マドリードが決勝で、北中米カリブ代表のパチューカを3−0と難なく下し、完勝で幕を閉じた。準決勝、南米代表ボタフォゴが0−3でパチューカに敗れていた波乱もあるだろうが、世界的な盛り上がりは欠いている。例年通り、“勝つべきチームが勝つだけ”の結末だったのもあるが…。

 かつてインターコンチネンタルカップ、トヨタカップと言われた時代は、欧州と南米のサッカーの違いがぶつかり合い、実力伯仲で盛り上がった。しかし、近年は欧州と南米の格差が広がって、大会そのものの価値は低下。残念ながら、有名無実化した。

〈欧州CLの優勝チームこそ、世界一である〉

 それはサッカーファンなら誰でも知っている。大会関係者には“不都合な真実”だった。

 その事実にふたをするかのように、むしろ大会を拡大。新たに『クラブW杯』と銘打って、アジア、アフリカ、オセアニアを混ぜ合わせて試合数を増やした。質はさらに下がった。

〈試合数を増やす〉

 むしろ、それが目的化した。放映権で利益を生み出すためだ。

 そしてマーケティング重視の傾向は止まらない。2025年からの新クラブW杯は32チームで、半ばリーグ戦が行われるという(大陸王者とFIFAクラブランキング上位のクラブが参加)。

「夢がある」

 単純に喜ぶべきなのか?

異常に見える日程

「試合を増やせるだけ増やせ」

 サッカー界は、そんな号令でも下っているかのような状況だ。

 FIFAは他にも、2026年ワールドカップを32チームから48チームに大会を拡大している。UEFAも、ネーションズリーグは欧州内の親善試合を大会化し、チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグを拡大し、試合数を増やした。さらに各クラブはオフにも海外遠征で外貨を稼ぎ、年中、どこかで試合が行われている状況を作り出している。

 もはや、日程は破裂寸前だ。

「プレーヤーズファースト」

 それはもはや死語に近い。過密日程が原因で、選手のケガは増えている。慢性化は選手生命をも脅かす。

 例えば、FCバルセロナのペドリは出場時間の超過で、コンディションに問題を抱えることになった。2020−21シーズン、クラブで大車輪の活躍をした後、EURO2021、東京五輪と連戦を戦った後、断続的な怪我に悩まされた。ここ1年は安定してプレーできるようになってきたが、2年も怪我との対峙を余儀なくされた。

 ケガと過密日程の因果関係を明らかにするのは難しいが、前十字靭帯断裂の大怪我も増えている。

 マンチェスター・シティでプレミアリーグ優勝し、スペイン代表でEURO2024優勝の最高殊勲者となったMFロドリは、右膝前十字靭帯断裂で今シーズン中の復帰は絶望的と言われる。同じくスペイン代表でEUROに優勝し、レアル・マドリードではラ・リーガ、チャンピオンズリーグで優勝したダニエル・カルバハルも、右膝前十字靭帯断裂だ(ちなみにガビも右膝前十字靭帯断裂でEURO出場を棒に振った)。

 各クラブを見ても、ベストメンバーを揃えるのが難しくなっている。

 例えば今シーズンのレアル・マドリードは、すでに名前を挙げたカルバハル、ダビド・アラバ、エデル・ミリトンと3人もの選手が、前十字靭帯断裂で長期離脱を余儀なくされている。ビッグクラブの主力は稼働率も高い。自ずと、怪我の可能性も高まるのだ。

 前十字靭帯断裂ではないが、ブラジル代表ロドリゴは今シーズン、何度もハムストリングの故障で戦線を離脱している。南米選手権での疲労などの影響も否定できない。これはペドリ同様に慢性的な症状となる危惧があるのだ。

ヤマルの異変

 最近ではバルサのスペイン代表ラミン・ヤマルが、足首の違和感で出場を制限されている。この1年、ヤマルはバルサで主力になっただけでなく、スペイン代表でもフル稼働、17歳の試合負担はあまりに大きすぎる。これ以上、無理を強いた場合、最高の才能を潰すことになりかねない。

 スター選手であればあるほど、試合出場を求められる。密接にマーケティングと結びついている。プロサッカーは興行で、ビジネスではあるが…。

 スペインサッカー連盟も、スペインスーパーカップで「金の亡者」とのそしりを受ける契約を交わしている(2029-30シーズンまで10年間で約60億円)。ラ・リーガ王者とスペイン国王杯王者が激突する前哨戦、スペインスーパーカップは4チーム(優勝チームと準優勝チーム)が集い、サウジアラビアで1月に行われることになったのである。今年は1月8日に開幕し、アスレティック・ビルバオ対バルサ、レアル・マドリード対マジョルカで準決勝が行われた後、決勝戦が行われる。

 シーズン途中に、他国で行う道理は「拝金主義」でしかない。

 選手というリソースは無限ではない。試合数が重なれば、プレークオリティは著しく落ちるし、無理をすれば怪我につながる。とても危険なサイクルの中に、選手を放り込んでいる時代だ。

 2025年から2026年へ、サッカー界の日程は史上最高に膨張する。破裂せずに耐え切れるのか。ヤマルのような才能を潰してはならない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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