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「キングオブコント」王者「かもめんたる」槙尾ユウスケが語る、チャンピオンの苦悩とカレーの学び

中西正男芸能記者
お笑いコンビ「かもめんたる」の槙尾ユウスケ

 「ジャルジャル」の戴冠で幕を閉じた「キングオブコント2020」。13年に同大会を制し、王者となったのが「かもめんたる」です。主にツッコミを担当する槙尾ユウスケさん(39)は現在スパイスカレー専門店「カリガリマキオカリー」の店主という顔も持ちます。コント師として頂点を経験するも、そこからの苦悩の日々。そして、カレーから再確認した芸人の本質。今のリアルな思いを赤裸々に語りました。

収入と時間のバランス

 最初にお店の話をもらったのは1年前、去年9月でした。

 カレー店を経営する社長さんと知り合いまして、夜はバーをやっているような店舗で昼の時間帯を間借りしてカレー屋さんをやるという話をいただいたんです。

 社長さんとしては、芸人、俳優さん、ミュージシャン、アイドルとか夢を追いかけている人が、なんとか収入と時間を確保しつつ、目標を目指す。そういうことができないかと考えてらっしゃって、間借りカレーだったら昼の時間にギュッと仕事をするので、他の時間が自由に使えるはず。そう思って、このスタイルを考えられと。

 僕個人の話でいうと、その頃もコンビの仕事というよりは「劇団かもめんたる」という演劇の仕事にシフトしていて、相方(岩崎う大)は作家業が忙しくなってもいました。となると、相方が創作している間、僕は時間がありますし、生活するにはもちろんお金も必要。それを得るためには副業もしないといけない。そんな思いを持っていたところだったので、正直、ありがたいお話でしたし、やらせてもらいました。

 あと、僕の中にあったもう一つの思いとしては、まず自分がやってみて、モデルケースになろうと思ったんです。

 シンプルに言って、本当にそんなにうまくいくものなのか。実際には、想像以上に大変だったり、予想外のトラブルが起こったりするんじゃないか。それをまず自分がやって見極めてから、後輩にバトンを渡したかったといいますか。

 自宅でいろいろなスパイスを使ってスパイスカレーを作ったりもしていましたし、カレーは大好きではありました。でも、お店をやるとなるとまた違いますから、最初は雇われ店長という形で間借りのカレー屋さんで3~4カ月働かせてもらって、今年1月に東京・三軒茶屋で間借りで自分のお店を始めたんです。

 実際にやってみて思ったのは「バランスがいいな」ということでした。もちろん、お店をやるとなると、アルバイトの人を雇うことなんかも考えないといけないし、仕事として大変な部分もあります。ただ、お昼だけの営業だし、やっぱり拘束時間が非常にコンパクトで済むんです。お金を稼ぐことと自分の時間を持つこと。このバランスが、すごくやりやすい形だなと。

 あと、この間借りカレーだと、カレー屋さんをやっている時間も、自分の名前で、幾分かは“発信”できているといいますか。

 普通のアルバイトだとか、会社に雇われている時は、お笑いコンビ「かもめんたる」の槙尾ユウスケという部分は伏せているというか、どちらかというと、埋没する形になる。でも、間借りカレーは「かもめんたる」槙尾ユウスケを看板にして、存在を発信できる。精神的な部分ですけど、この感覚も大きかったですね。

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チャンピオンの意味

 もちろん、お笑いの世界で発信がどんどんできればそれが一番なんですが、これは本当に難しい。それも痛感しています。

 2013年の9月に「キングオブコント」で優勝して、注目していただく度合いも上がりましたし、お仕事もいただけるようになりました。ただ、いわゆる“バブル”状態だったのは3カ月くらいで、年末あたりまでは本当に忙しくさせてもらいましたが、年明けからは徐々に落ち着いていきました。

 それでも、その後2年ほどはそれなりに営業があったり、もちろんバイトもせずに生活はできてたんですけど、それも徐々に減っていって。優勝して3年目くらいから、またバイトをするようになってましたね。

 これも正直な話、僕らでいうと、優勝してからいくつか戸惑ったこともありました。

 まず“チャンピオン”ということで番組に呼んでいただくんですけど、この“チャンピオン”はあくまでも“コントのチャンピオン”ということなんですけど、その番組内では“その時の一番面白い人”として呼ばれる。“お笑い全体のチャンピオン”みたいな感じで。トークもチャンピオン、バラエティーでの振る舞いもチャンピオン。そういうものが求められる空気にもなるんですけど、それは僕らの実情とは違う。

 となると、そこからは“チャンピオンなのに…”という空気が強くなっていって、僕らのことを書いてくださる記事も「チャンピオンなのに売れない」みたいなものが増えてくる。

 「チャンピオンだから面白い芸人じゃないといけない」という気持ちは強くなる一方、それが実戦の場で見せられなかったら、また「チャンピオンなのに…」となる。ま、チャンピオンでなくても面白い芸人ではありたいんですけど、肩書がついている分、より一層、思われないといけない。しかも、チャンピオンなんだから売れなきゃいけない。「チャンピオンになったけど売れない」というのが一番悲惨で、一番怖いという思いもありました。

 もちろん、チャンピオンというチャンスをどう活かすかは自分たち次第ですし、そこは誰のせいでもない。結果、チャンピオンになったことで、いろいろな思いも経験しました。でも、やっぱりチャンピオンになって良かったなと思っています。

 もしなってなかったら、今もずっと目指してたと思いますしね。その状況の方が希望を追い求めて幸せという考え方もあるのかもしれませんけど、今は目指していたチャンピオンになってからの苦悩ですから。よく考えたら、幸せな苦悩なのかなと思います。

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「アンタッチャブル」山崎の言葉

 今、カレーのお店をしながらも、引き続き、心に響くというか、指針となっているのが「アンタッチャブル」山崎さんからもらった言葉です。

 以前、それこそ、バラエティーへの出方の部分ですごく悩んでいた時に、山崎さんと飲ませてもらって。そこで山崎さんが言ってくださったんです。

 「芸人は、テレビだろうが、舞台だろうが、目の前のお客さんを全力で笑わせる。番組だったら、スタジオ観覧のお客さんを笑わせようと一生懸命やる。オレはそうやってる」

 その言葉がその時もですし、今、カレー屋をやっていても、すごく響いています。

 今の間借りカレーも、目の前のお客さんに美味しいといってもらう。満足してもらう。とにかくそれを考える。まず、最初の「いらっしゃいませ」の言い方で、その後、食事を楽しんでもらいやすいような空気を作る。料理自体も、トッピング一つにしても「こうやって盛り付けた方が、喜んでくださるんじゃないか」と思って工夫する。これって、共通するところがたくさんあるんだなと。

 そして、今は新型コロナウイルスもあって、いつも以上に舞台に立てない状況が続いています。ただ、こうやって、こちらがいろいろ知恵を絞ってお客さんに喜んでもらうということが、やっぱり自分は好きなんだなと今の場で再確認することにもなりました。

 山崎さんからいただいた言葉に今も支えられていますし、それによって気づいたこともあったし、本当に感謝です。…ただ、こんな文脈で、こんなトーンで話を出すことが、山崎さんにとってかなりの営業妨害になってる可能性もありますけど(笑)。

(撮影・中西正男)

■槙尾ユウスケ(まきお・ゆうすけ)

1980年12月5日生まれ。広島県出身。サンミュージックプロダクション所属。早稲田大学で同じお笑いサークルに所属していた岩崎う大らとの5人組コントグループ「WAGE」として活動していたが、解散後の2007年に岩崎と「劇団イワサキマキオ」を結成する。2010年にコンビ名を「かもめんたる」に改名する。13年には「キングオブコント」で優勝。15年には「劇団かもめんたる」を旗揚げし、。18年以降は劇団の活動に力を入れている。今年1月、東京・三軒茶屋にカレー店「カリガリマキオカリー」をオープンする。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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