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いぶし銀の名棋士・桐山清澄九段(72)負ければ引退の一番を千日手指し直しの末にしのぎ通算995勝達成

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月7日。大阪・関西将棋会館において竜王戦5組残留決定戦・桐山清澄九段(72歳)-井出隼平四段(29歳)戦がおこなわれました。勝者は5組残留、敗者は6組陥落。もし桐山九段が敗れた場合には現役引退となる一番でした。

 持ち時間は各3時間(チェスクロック使用)。10時に始まった対局は先手・桐山九段の四間飛車に対して、後手の井出四段は居飛車穴熊。駒がぶつかる前に双方手を変えられず、10時50分、53手で千日手が成立しました。

 指し直し局は先後が替わって11時20分開始。後手の桐山九段は向かい飛車から穴熊に組みました。

 井出四段は居飛車で、玉を金銀3枚で囲います。頃やよしと井出四段が動き、飛車交換から中盤の戦いに入りました。

 井出四段は振り飛車穴熊の急所である端を攻めます。対して桐山九段は底歩を打って粘り、反撃のタイミングをうかがいます。そして桂を打って井出陣の金銀をはがせる形を得ます。

 終盤に入って勝敗は不明。一手を争う熱戦となりました。そして桐山九段は井出四段からの攻めをしのぎ、次第にリードを奪っていきます。

 桐山九段は自玉の安全を確保し、井出玉を着実に寄せていきます。100手目、桐山九段が決め手の金を打ったところで、16時33分、井出四段投了。桐山九段の勝ちとなりました。

 桐山九段はこれで竜王戦5組残留決定。規定により引退を回避しました。桐山九段が参加できる棋戦は竜王戦のみですが、この先、少なくとも1年は現役を続けられることになります。

 また桐山九段はこれで生涯通算995勝目を達成。1000勝まであと5勝としました。

 現在、将棋界は現役最年少17歳の藤井聡太七段が、史上最年少でタイトルを獲得できるかが社会的な関心事となっています。一方で、現役最年長72歳の桐山九段の現役続行も、大変な快挙と言えるでしょう。

桐山九段、ファンの大声援の中で引退回避

 桐山九段は通算1000勝を達成できるかは、多くの将棋ファンが注目をしていたところでした。

 順位戦は2019年度をもって、C級2組からの陥落が決まりました。

 2020年2月6日。桐山九段はC級2組順位戦で近藤正和六段戦に勝ち、通算994勝目をあげています。

 桐山九段は最新の将棋ソフトを研究に取り入れるなど、最後まで真摯に勝利を目指してきました。

 最後に残っていたのは、竜王戦5組での対局でした。桐山九段は5組から6組への陥落が決まると、規定上、引退が決まります。その土壇場の大一番で、桐山九段は千日手指し直しの末に、見事に勝利を収めました。

 桐山九段は1947年10月7日生まれ。1966年、18歳で四段に昇段しました。

 1975年には順位戦でA級に昇級し、八段昇段。以後、長きにわたって、トップクラスの棋士として活躍を続けてきました。

 1985年、初タイトルの棋王位を獲得。タイトル獲得は合計4期(棋王1期、棋聖3期)。1987年に創設された竜王戦では、第1期の1組で優勝を飾るなど、多くの実績を残してきました。

 桐山九段の門下からは矢倉規広七段と豊島将之竜王・名人が棋士となっています。

 師匠が挑戦して果たせなかった名人位獲得の夢は、愛弟子が叶えています。

 今回、負ければそれまでという一番に勝ち、きわどく引退を回避した桐山九段。さすがの強さというよりありません。

 この先、桐山九段が通算1000勝を達成できるかどうかは、わかりません。その記録がどうなるにせよ、桐山九段が将棋史上に名を残す名棋士であることに、なんら変わりはありません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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