2020年最重要バンド、みるきーうぇい ミニアルバム『僕らの感情崩壊音』を全曲解説
みるきーうぇいが3枚目となるミニアルバム『僕らの感情崩壊音』を9月30日にリリースした。2020年という年はかつてない特殊な年であり、ライブバンドがライブを自由に行えないコロナ禍において、作品創作やアウトプットに時間をかけることのできた稀有な時間になったのかもしれない。
結果、詞曲を手掛ける伊集院香織は楽曲と向き合い、そして紐解き、シナジー効果を高める“小説執筆”やレコーディングに時間をかけることができた。そんな世界観を可視化したミュージックビデオもこの数ヶ月で5作品を発信することもできた。
こうして誕生した、“感情崩壊する度に頭の中で鳴り響いた爆音たち”が集結した最新作『僕らの感情崩壊音』。
恋が崩壊した日も、上京した日も、汚れた手を繋いだ日も、友達が結婚した日も、恋の葬式をした日も、カッターナイフを投げた日も、伊集院香織のすべての日々の記録が本作には収められている。いまにも泣き出しそうな歌声と呼応するせつなき大切な物語たちだ。
発売日:2020年9月30日(水)
3rdミニアルバム『僕らの感情崩壊音』みるきーうぇい
M1:「ドンガラガッシャンバーン」
M2:「大阪路地裏少年」
M3:「汚れた手」
M4:「出席番号」
M5:「傷跡の観測」
M6:「カセットテープとカッターナイフ(ver.2020)」
こんなにも赤裸々に自分の気持ちを爆発させてくれるシンガーは今の日本では珍しいことだろう。標準化、効率化が何よりも優先さられる現代において、自分自身に正直に向き合い続けるみるきーうぇいには勇気を貰っている。そんなリスナーは多いはずだ。
そして、リリースされたばかりのミニアルバム『僕らの感情崩壊音』にはサプライズがいっぱい込められていた。なんと、みるきーうぇいをインディーズ・シーンで一躍有名にしたキラーチューン「カセットテープとカッターナイフ」が6曲目に新ヴァージョンとして再録されていたのだ。ライブでも最後にスパークする、いじめと向き合った激エモーショナルなロックチューンだ。
しかも、「カセットテープとカッターナイフ(ver.2020)」、「汚れた手」、「傷跡の観測」の3曲は、CoccoやGRAPEVINEを世に送り出し、くるり、aiko、つじあやの、中島美嘉、木村カエラ、一青窈、miwaなどに携わる音楽プロデューサー、根岸孝旨が参加している。
それだけではない。「ドンガラガッシャンバーン」は、あの亀田誠治がプロデュース。レコーディングには亀田誠治がベース、リードギターは西川進、ドラムは伊藤大地というスペシャルなメンバーが集結している。
こういったニュースをリリース後まで、一切おくびにも出さない伊集院香織のパンクな姿勢にもリスペクトだ。
みるきーうぇいはもともと3人組バンドとして活動していた。しかし、ドラムとベースの二人が脱退し、現在では伊集院香織による独りバンド体制となっている。そのことを彼女はポジティヴに捉え、“いろんな男を乗り回して強くなる、音楽的ビッチという形を取ろうと思った。”とユーモアを交えながら表現するのだから笑える。いや、いいアイディアだと思う。そして最高な形で実現させたのだ。
その結果、「汚れた手」と「カセットテープとカッターナイフ ver.2020」ではドラムにCrossfaithのTatsuyaが参加。「出席番号」のアレンジは石崎ひゅーい作品などでも知られるTomi Yoが担当しているというのも注目ポイントだ。どこかしら、尾崎豊へと通じるセンスを感じたものだ。
リリース直後、次なる展開はすでに口火を切っている。みるきーうぇい初のテレビドラマ・タイアップが決定したのだ。
謎解きドラマ『歴史迷宮からの脱出』の主人公、“楽しいことしかやりたくない、それをしないのは今から逃げてるってことだ”を信条とする純ちゃんと自分に向けて作ったという新曲「君をさらって夜を飛ぶ」が、先日番組のエンディングで初披露されたばかりだ。“謎解き”の制作はSCRAP代表、ミュージシャン出身の加藤隆生の名前がクレジットされていたことも、関西出身のみるきーうぇいとしては縁を感じられるサプライズだと思う。
良き運は運を高めて、周囲を巻き込み螺旋状に駆け上がっていく。3枚目となるミニアルバム『僕らの感情崩壊音』とともに、みるきーうぇいの新しい1ページはここからはじまっていく。2021年へ向けて、さらなる大躍進を期待したい。
※上記「カセットテープとカッターナイフ」のミュージックビデオは、2014年に寿司くん(ヤバイTシャツ屋さん:こやまたくや)によって制作されたヴァージョン。
【小説/ショートストーリー】-伊集院香織執筆 同名短編小説-「カセットテープとカッターナイフ(ver.2020)」
https://note.com/milkywaykaori/n/nb8a344fdb1b5
1曲目:僕らの感情崩壊音 「ドンガラガッシャンバーン」ライナーノーツ
まるでファンファーレのようなギターから幕を開けるイントロダクション。一聴したら、ポジティビティ溢れるアッパーなギターサウンドが感情をアップリフトしてくれるように聴こえるかもしれない。
しかし、歌われるテーマは心が砕け散る“僕らの感情崩壊音”そのものだ。
それは、シャボン玉のように弾けて飛んだ“失恋の歌”。その終わり方は半端ないもので“君と過ごした優しいあの日々が 粉々になる凄まじい音がした”と歌詞で表現されているのだから強烈だ。
みるきーうぇい、伊集院香織はそんな響きを「ドンガラガッシャンバーン」と名付けた。まさに“感情崩壊音”だ。ふと、東京のライブで初披露された日、フロアのオーディエンスが右腕を掲げながらこのフレーズを口ずさんでいたことを思い出した。悲しいはずの曲なのに、楽しくポップに聴こえた。
そう、伊集院香織は心が壊れるような最悪な想いを“光って無くなれ”と、次への希望として紡いでくれたのが本作の“ポップ”の本質なのかもしれない。
みるきーうぇいが持つクリエイティブのビジョンには、“音楽で自分と同じ気持ちの人と共感し合いたい。私と同じやつがいるんだ、と感じ合いたい。助け合いたい。”という想いがある。音楽とは面白いもので悲しい歌詞に悲しい音色、アレンジを付けるというルールはない。悲しい音の響きに楽しさを混ぜ合わせることで、あの頃の気持ちをより深く思い出せたり、または昇華することもできる。
そして、音楽を奏でるのは表現者であるアーティストだが、受け止めるのはリスナーであるオーディエンスだ。“1対n”(アーティスト対オーディエンス)。この公式があってはじめてポップ・ミュージックは意味をなす。だからこそ、対面で向き合える生ライブは大事だ。そう、“一人対みんな”であっても、僕らリスナーにとってはみるきーうぇいを“1対1”の関係性で感じられるのだから。ゆえに音楽とは、オーディエンスそれぞれの解釈で受け止めるものであり、解釈は人それぞれでいいのだ。まるで魔法のようだね。
「ドンガラガッシャンバーン」を聴いて、楽しくポップな、いや、少しばかり自棄っぱちな気持ちを感じつつも、新しい感覚としてのパンクな音が胸に響いた。ぜひ、全編鳴り渡るギターの音色にも注目してほしい。あなたには、この繊細なる変化がどうやって聴こえるだろうか。
本作は、誕生秘話を描いたショートストーリーを紐解くことで、より作品の文脈を詳細に理解することができる。ミュージックビデオによる映像表現も同じくだ。みるきーうぇいが解き放つ、宝物のような最新のポップミュージック。キラーチューン「カセットテープとカッターナイフ」を上回るかもしれない拡がりを予感させる、2020年代を切り開くパンクソングの完成だ。
''【小説/ショートストーリー】-伊集院香織執筆 同名短編小説-「ドンガラガッシャンバーン」'''
https://note.com/milkywaykaori/n/na6d582cfb615
2曲目:僕らの感情崩壊音「大阪路地裏少年」ライナーノーツ
ストーリーが浮かぶ言葉とエモーショナルな調べ。
みるきーうぇいの主人公、いやヴォーカル&ギターの伊集院香織は大阪生まれ大阪育ち。昨年、夢を叶えるために一旗揚げに東京へやってきた。このお話は大阪時代のラスト、2週間前からはじまる物語の断片だ。
今回描かれるのは、新世界の路地裏、通天閣の真下でうずくまっていた家庭環境の複雑な少年との出会い。
最初は、歌を聴きながら“その少年は実は猫だった”なんて、スタジオジブリのようなアニメ風なレトリックなのかと思ったらそうではなかった。さすが伊集院香織、肝が座っておられる。そして今回も鳴り響く、感情崩壊音……。
歌詞で“新宿に春を売りにいく アタシは君を置いていく”と表現されていてドキッとした。新宿とは、みるきーうぇいの東京のホームグラウンドである老舗ライブハウス新宿LOFTのことを指すのだろう。“春を売る”という言葉を“ライブ演奏”と重ねあわせている見事な表現だ。
そして、ワンシーンずつフィルムに刻まれていく夢のようなお話。
それは映画、岩井俊二作品のような独特の色使いが似合うせつなき世界観を醸し出す。物語が展開されるにつれてギターの音色が様々な表情に変化していく。伊集院香織の歌声とギターの音色はまるで悲喜こもごも泣いているかのようだ。それこそ、高まる感情崩壊音……。
伊集院香織による小説と、リリック(歌詞)をフィーチャーしたミュージックビデオが楽曲の文脈を紡ぎあい、お伽話のような物語にリアリティーを与え、胸が張り裂けんばかりの感情にさらにガソリンを注いでいく。ラストに進むにつれて路地裏少年との距離感が近くなっていく様をベースが畝りを増すことで表し、心臓の鼓動はリズムの手数が増えながら跳ねるビートを繰り広げていく。
新世界と歌舞伎町を繋ぐピュアネスなロックンロール。
ああ、早くライブで体感したい曲だなぁ。
【小説/ショートストーリー】-伊集院香織執筆 同名短編小説-「大阪路地裏少年」
https://note.com/milkywaykaori/n/n289193fd5edf
3曲目:僕らの感情崩壊音「汚れた手」ライナーノーツ
70年代、今でいうポップソング=歌謡曲はもともと危険でエロティックな匂いを漂わせるものだった。いつの頃からJ-POPは健全と言えば聞こえはいいが、無味無臭な応援歌が増えてしまったのだろう。もちろん、それは時代の要請に応えた結果なのかもしれない。しかし、コロナ禍にある今の時代、僕らの心の穴、あなたとの心の距離を埋めてくれる音楽とは、そんな空虚な音楽ではないはずだ。
みるきーうぇい、伊集院香織にとって「汚れた手」はとても大事な曲だ。“本当に大切にしてきた曲。 去年欠かさずライブでやっていた曲。”と言いきる。すべてをさらけ出し、自らの経験から生まれた泣けるラブソングだ。そこで、彼女は楽曲が生まれた経緯、鳴り響いた“感情崩壊音”をポップミュージックとして紡いでいく。
パワーワードがある。“明日 世界が滅ぶとしたら 迷いなくあなたに会いに行く あなたがあの子の元へ走るなら あなたの靴をすべて隠すわ どうか裸足で走らないでね 汚れた手でも許してあげる その足は汚さないで あたしを蹴ってもいいから”。
このフレーズとともに楽曲は高揚感が爆発寸前にまで高まっていく。エモーショナルなギターの音色がやさしく澄んだ歌声と混ざり合い、ドラマティックに鮮烈だ。
ほんの少しだけシンデレラの物語をオマージュするような展開。しかし、ここで彼女は、彼の靴を隠そうとする。そして、あの子に触れた“汚れた手”を許してあげるのだ。そこにあるのは素直な想いの強さ、感情の振れ幅を超えていく楽曲のラストでギターがフィードバックするノイズ音。あなたにとってどんな表情に聴こえるだろうか?
小説やミュージックビデオ、楽曲が織りなす世界を超えて、みるきーうぇいの物語はまだまだ広がっていく。
【小説/ショートストーリー】-伊集院香織執筆 同名短編小説-「汚れた手」
https://note.com/milkywaykaori/n/n0ab8f5551608
4曲目:僕らの感情崩壊音「出席番号」ライナーノーツ
断言しよう2020年を代表するポップソングの誕生だ。イントロのUKテイストを感じる前向きなギターリフがとてもいい。多くの引っ込み思案なリスナーに勇気を与えてくれるフレーズだ。
全人類誰にでも共通するルールはたったひとつ = 人生は一度きり。
学生時代、誰もが経験したことがありそうなキーワードが頻出するナンバー「出席番号」。甘酸っぱいあの頃の気持ち。でも、やっぱり軸となる視点は、みるきーうぇいならではの感情を震わせるフィルターを通した“せつなさ”でいっぱいだ。
「出席番号」には、伊集院香織が生み出した小説『放課後爆音少女』で描かれた登場人物があらわれる。
本作のすごさは、学生時代とその後の生活が時代を超えてリンクするところだ。親友との関係性の時間の変化が“席”と“籍”がかかることで意味が変わってくる。名前で並んでいた、制服を着ていた頃には戻れないんだって事実が哀しい。だけど、悲しんでいるだけではなく、強く友人を信頼している気持ちも伝わってくるんだ。歌詞では具体的に描かないけれど、行間とメロディー、音楽、そして歌声の響きで伝わってくるのは優しさだ。
ああ、でもやっぱりもどかしい……。でもそれが人間なんだよね。そんな人生のやるせなさをポップ・ミュージックとして3分47秒の物語として表現するのだから、伊集院香織はすごい。
このもどかしさの答えを僕は知っている。肌感覚で覚えている。海外でいえばマニック・ストリート・プリーチャーズ、日本ではブルーハーツや尾崎豊級のポップネスのあらわれだ。だからもっともっと多くの人に、リアリティーに富んだみるきーうぇいの楽曲が持つピュアネスを知って欲しいなと思う。「出席番号」を聴いてほしいと願う。みんなで“もぞもぞ”してほしい。これは今の時代のヒット曲になるべき作品なのだ。
「出席番号」は、みるきーうぇいにとってめずらしい柔らかなポップソングだ。普段の尖ったロック主張は影を潜めている。だけれども、胸が張り裂けそうな“パンク”はいっぱいに詰まっている。張ち切れたら、それが青春期を記録する“僕らの感情崩壊音”となるのだろう。高校時代の友人に送った、優しさだけで生まれた最高のウエディング・ソング。人生って尊いんだなぁ。香織さんに教えられるわ。
【小説/ショートストーリー】-伊集院香織執筆 同名短編小説-「出席番号」
https://note.com/milkywaykaori/n/n16b5988d5f01
5曲目:僕らの感情崩壊音「傷跡の観測」ライナーノーツ
みるきーうぇいがコロナ禍の2020年に解き放った“#僕らの感情崩壊音 シリーズ”。5曲目にして、新境地ともいえる新しい世界観を持つ大名曲に出会えた。その名も「傷跡の観測」だ。
イントロの柔らかな音像のなか、ベースとストリングスによる重厚な裏メロが、みるきーうぇいの新たな音色を浮き彫りにする。
伊集院香織曰く、恋の葬式を挙げた日の曲だという。描かれるのは、かつての恋人たち。印象的な、お互いが着ていたという黒いYシャツと黒いワンピースのいでたち。“僕ら二人の時間を殺した 共犯者の証みたいね”と、お気に入りの服を表現するパワーワードに痺れる。
学生時代、BUMP OF CHICKENを聴いて、澱んでいた気持ちから救われた経験を持つ伊集院香織。ヒット曲のタイトル「天体観測」という言葉が本作にも登場する。しかしながら、黒いワンピースを着た彼女は“最後に天体観測をしよう 二人と同じ黒い空 切り傷によく似た流星が 空と二人を切り裂いた”と歌う。悲しみでしかないフレーズだ。
だが、感情に再び火が灯されるサビのメロディー“いつかまた会えるとしたら 傷跡の深さを測り合おう 笑ってまた会える日が来るのなら 傷と傷をすり合わせて 血を分け合おう”。このフレーズによって、すべての思いが溶けていく狂おしいせつなさが秀逸なのである。
本作は、彼女が当時の恋人と沖縄へ行った際のことが題材とされている。小説では、沖縄であったことの意義、そして本作のタイトルが「傷跡の観測」であったことのワケ。そして“傷跡の深さを測り合おう”というフレーズの真意が描かれている。
伊集院香織が、実体験から歌を紡ぎ出す天性のメロディーメーカーであることを「傷跡の観測」は証明してくれた。
ミュージックビデオの映像美。小説として赤裸々に繰り広げられていくストーリー。そして、楽曲と折り重なっていく感動のフィナーレの瞬間、伊集院香織は“生きていこう”と歌う。ここでもまた“僕らの感情崩壊音”がパーンと鳴り響いたのだ。
【小説/ショートストーリー】-伊集院香織執筆 同名短編小説-「傷跡の観測」
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みるきーうぇい オフィシャルサイト