テレビでも映画泥棒扱い?「番組の無許諾ネット公開は違法です」
KNNポール神田です!
2015年2月23日(月)から19:00〜26:00(深夜2時)までの15分以上の番組すべてに、5秒間テロップを挿入すると発表した。
きっとこの、2015年2月23日(月)からは、テレビを見ていて、映画館で、毎度流れる「NoMore映画泥棒」のキャンペーンを観る度の、あの嫌な気持ちになるのと同じ気持ちになることだろう。わざわざ、お金を払って劇場で見ているのに、泥棒扱いされているからで非常にボクは不愉快だ。そう、実際に映画泥棒やテレビ泥棒はごく一部の人のしわざだ。その一部を撃退するために万人にキャンペーンするのは、空港の全員の身体検査と似ている。しかし、空港の検査はテロ全体への影響があるが、映画やテレビは違うと思う。それは権利者の利益が若干なくなるだけだからだ。むしろボクは、メディア側の機会損失であるとさえ考えている。
海賊版がカネに変わる時代もやってくる?
映画の場合、新作が東南アジアで出回ったり、BitTorrentでシェアされ共有されることで、映画の売上やDVDの売上に影響するということは非常にわかりやすい。音楽でも昔からある「海賊版」という違法ビジネスだ。しかし、現在のCDビジネスでは、かつての海賊版が正式な権利者によって特別発売されるという傾向も見られる。有名なのはザ・ビートルズのアンソロジー・プロジェクトだ。マニアが違法録音していなければ、永久に聞くことができなかった音源でもある。もちろん、著作者であるアーティストが望んでいない発表の仕方にも問題があったが、時間が経過すると商業的価値よりも文化的価値もでてくるだろう。映画と音楽では、視聴動向が違う。映画を擦り消えるほど観る人は少数派だが、音楽はヘビーローテーション型の消費だ。
トゥー・ビッグ・トゥー・フェイル化したYouTube
テレビ番組の場合は、基本的に局が著作権を管理している。ネットに違法でアップロードされることにより、バラエティ番組などのDVD化などの営業権が侵害され、機会損失額は数十億円に及ぶという。法的には、著作権侵害というが、実は商業的な営業権の侵害によることのほうが大きい。
かつては、YouTubeという動画共有メディアを叩けばよかったが、ここまで浸透してしまうと潰してしまうわけにはいかなくなってしまったのだ。YouTubeは、放送局にとって もはやToo Big to failなのだ。大きくなりすぎて潰せない存在なのだ。ある点では、プロモーションということで絶大な番組宣伝のパートナーとなっているからだ。
たかだか3兆円の市場規模という放送業界
ただ、日本の民放テレビ局というメディアは、2兆1,581億円(2014年度)という広告市場を主に運用されている。広告主の為に民放は存在しているといっても過言ではない。コマーシャルを見てもらえないという状況は可能な限り排除したい。しかし、その測定はテレビ視聴率という方法でしか持ち合わせていない。総務省から公共の電波を借り、公共性のある放送を放送法に基づいて行っているのが放送局だ。社会の公益に寄与する事業者である必要もある。ちなみにNHKの予算は6,831億円(2015年)だ。トータルするものではないが、日本の放送産業は、ざっくりと3兆円弱の市場規模で成立しているビジネスと考えるべきだ。原子力損害賠償支援機構が東京電力に交付金として渡した金額3兆483億円よりもはるかに安い産業だ。対中国への円借款3兆円とも同等だ。KNN市場規模2015年より。
しかし、テレビをリビングルームのテレビモニタやお茶の間のブラウン管で観る時代は、すでに大きく変化してきてしまった。
高齢者が支えるテレビ生視聴
総務省の調査(2013年)では、日本のテレビ平均視聴時間量は、平日で1日3時間40分 休日は1日4時間10分という驚きの時間だ。しかし、これは富裕層である60代が1日4時間以上もテレビに釘付けで消費をおこなっていないことを標榜している。反対に10代は、テレビを1日100分以下であり、ネット利用も同等なのだ。現在の中高生の「テレビ番組」の概念は、もはや地上波生放送ではなく、好きなバラエティやドラマをスマホやタブレットで延々と好きなだけ、無尽蔵に視聴できる「YouTube越しの番組」のことを意味しているのだ。
テレビ番組表やリビングルームに縛られない視聴を続けている。Wi-Fi環境さえあれば、社会のどこでもかまわないのだ。
今回のキャンペーンの「番組の無許諾ネット公開は違法です」はこの若年層のテレビ視聴をネットから地上波へ取り戻すための施策に見えて仕方がない。
平成25年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査より
※総務省の調査は、N数1500名の調査であるが、住民基本台帳からのクォータサンプリング調査であり、しかも日記調査形式の留置き方式であることを考慮すると、日昼に家にいない層のサンプリング協力者は、若年層もコンサバティブ(保守層)と予測しやすい。すると実情は、もっと恐ろしい10−20代の結果がではないだろうか?
ちなみにボクは学生時代はビデオリサーチの調査員だったので、日昼、男性の協力者家庭を見つける苦労はいやというほど理解している。
プラットフォーマーと放送事業者のせめぎあい
この図を見るとわかりやすいが、すでに通信と放送が融合するのではなく、市場をカニバリあっているのである。さらに、ネット系、放送系、メーカー系、そして生放送、ストリーミング、VODとさらにレイヤー層は複雑化している。
当然、テレビ局側もオンデマンドプラットフォーム化で取り組もうとう努力をする。
民放キー5社横断のVOD月額945円の「もっとTV」の月額課金は2014年1月7日にスタートしたが、2015年1月31日にサービス終了。1年しか持たなかったのだ。もっとTVのストリーミングも3年で撤退だ。原因は、視聴端末の普及というテレビ受像機側の問題だというが、果たしてそうだったのだろうか?
民法キー局が集まっても、もはやテレビ受像機を中心に添えるという戦略が間違いではなかっただろうか?
彼らは「生放送視聴率」という呪縛で、自らのクビを占めているとしか思えない。
「視聴消費率」「番組再生率」という概念をそろそろメジャーに添えないとますます斜陽産業化するばかりだ。モチロンそれを邪魔しているのが、視聴率による価値だ。
日本で初めてのYouTube配信テレビ番組「BlogTV」から学んでほしい…
2006年9月1日東京ローカルTOKYO MXの「BlogTV(生放送番組)」ではCMも含めて全編YouTubeに番組をアップロードするというチャレンジを行った。実際に9年前の映像もこのように合法的に紹介することができる。当時ボク自身がMCをやっていたこともあるが、出演者、広告主、制作会社、放送局の4者が、著作権は保持しながらもテレビ電波以外に視聴機会をえることができる。東京ローカルの番組でもネット経由で世界のどこからでも視聴できるのだ。
新たなプラットフォーマーとの交渉が必要だ!
当時はYouTubeからの収益システムが存在しなかったが、現在ならば桁が変わる収益化となることだろう。しかし、YouTuber的な個人インカムと、テレビの収益性とはマッチしないのも当然の問題だ。
当然、テレビ局の公式コンテンツということであれば、YouTube側も日本の広告市場とマッチした代理店と放送局との広告価格設定に応じるべきだろう。希少価値的広告を生業としてきた広告代理店と潤沢価値マッチング広告を生業とするネット広告はなかなか広告測定方法の視点を譲歩することが難しい。
そんな水面下での激しい攻防と交渉がメディア同士で行われている中での、少しでもやらないよりは、ましだろう的な、たったの一週間だけの「番組の無許諾ネット公開は違法です」は、視聴者の皆様には、今さら感が満載なNo more 映画泥棒にしか映らない気がして仕方がない。