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西之島再噴火:日本は大きくなるか?

巽好幸ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)
2013年の西之島噴火(写真:海上保安庁/ロイター/アフロ)

2017年4月20日、西之島が1年5ヶ月ぶりに噴火したことが確認された。報道によると、噴煙は高さ1000メートルに達し、溶岩流が海岸線まで流れたようだ。2013年に数十年ぶりの噴火が始まって新島が誕生した時には、3・11巨大地震が影響した異変だとか、富士山大噴火の予兆だとか騒がれた。もちろんこんなことは、全く科学的根拠のない「たわごと」である。

一方で、菅義偉官房長官が破顔一笑「領海が広がればいいな」と述べたのは印象的だった。西之島は今回の噴火でさらに強固になり、国民の期待に十分応えそうだ。領海だけではない。実はこの辺りの火山活動が、日本列島の陸地そのものを大きくしてきたし、これからも大きくしていく。

巨大火山が並ぶIBM

日本列島には110の活火山がある。その中でも日本最高峰富士山は神々しいまでに美しく、圧倒的に雄大だ。地球上で最も火山の密集する東北地方では、八甲田山、鳥海山、榛名山がビック3である。しかしこれらを全部合わせても富士山にはかなわない。だから多くの日本人は、富士山が日本一大きい火山だと思い込んでいる。

ところが実際は、富士山は第8位。日本にはもっとデカい火山があるのだ。それらは全て、富士山から南へ伸びる「伊豆・小笠原・マリアナ諸島」(それぞれの英語名、Izu, Bonin, Marianaの頭文字をとって「IBM」と呼ばれる)に並ぶ。

日本の活火山とその体積。IBMには巨大火山が並び、「大陸の種」が創られている。
日本の活火山とその体積。IBMには巨大火山が並び、「大陸の種」が創られている。

ただ、大部分が海中にあるので、海面上に顔を出した部分だけが火山だと勘違いしている。日本最大の火山はIBMの北硫黄島、富士山の2倍の体積だ。西之島も富士山を凌ぐ巨大火山で、海底からの高さは4000メートルにもなる。

巨大火山の地下で「大陸」が誕生する

火山活動を引き起こす「マグマ」は地下約100キロメートルで発生する。この深さでプレートから「触媒」の働きをする水が絞り出されるせいだ。しかし、このマグマのうちで、地表(海底)へ達して火山となるのはほんのわずかである。ほとんどは地下で冷え固まってしまう。つまり、火山活動と同時に地下ではどんどんと新しい「地殻」が作られ、その結果地盤が盛り上がる。実は日本列島が「山国」となったのは、この作用のおかげである。さらに言えば、こうしてプレートが沈み込む所で地殻が分厚くなることが、太陽系惑星の中で唯一地球だけに「大陸」が存在する理由なのだ(詳しくは「なぜ地球だけに陸と海があるのか」に)。

つまり巨大火山が並ぶIBMでは、まさに今、地球創生期の壮大な大陸誕生のドラマが再現されているのだ。西之島の噴火はそのワンシーンである。

大きくなる日本列島

でも、単に地盤が盛り上がるだけでは「大陸」にはならない。分厚くなった地殻、言わば大陸の「種」が集まって大きくなることが必要だ。さてここで、図をもう一度ご覧いただこう。IBMはフィリピン海プレートの上に乗っている。したがって、このプレートの動きに伴って大陸の種は日本列島へ押し寄せる。例えば丹沢山地や伊豆半島は、数百万年以上前からIBMが本州に衝突して合体したものだ。

つまり、日本列島はIBMの衝突によって大きくなってきた。そしてこの「領土拡大」は今後も続く。日本列島の面積は現在約37万平方キロメートルだが、単純に計算すると、すぐに40万平方キロメートルを超える。もっとも「すぐ」と言うのは地球時間での話であって、馴染み深い尺度に直すと1000万年先だ。

日本神話によれば、イザナギ・イザナミが天沼矛(あめのぬぼこ)で混沌とした大地をかき混ぜて日本列島を創り出したそうだ。いわゆる「国産み」である。マグマ学者にとっては、この話が西之島などの海底火山の噴火を記しているように思えてならない。

ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)

1954年大阪生まれ。京都大学総合人間学部教授、同大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授、海洋研究開発機構プログラムディレクター、神戸大学海洋底探査センター教授などを経て2021年4月から現職。水惑星地球の進化や超巨大噴火のメカニズムを「マグマ学」の視点で考えている。日本地質学会賞、日本火山学会賞、米国地球物理学連合ボーエン賞、井植文化賞などを受賞。主な一般向け著書に、『地球の中心で何が起きているのか』『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』(幻冬舎新書)、『地震と噴火は必ず起こる』(新潮選書)、『なぜ地球だけに陸と海があるのか』『和食はなぜ美味しい –日本列島の贈り物』(岩波書店)がある。

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