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「新潮45」休刊の背景 右派の台頭 日本はまだまし 今こそ未来を切り開く意思の力を

木村正人在英国際ジャーナリスト
「新潮45」の休刊を伝えるお知らせ(新潮社のHPより)

なぜ受ける右派の論調

[英イングランド北西部リバプール]月刊誌「新潮45」が自民党の杉田水脈(みお)衆院議員の「LGBTは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」という寄稿を掲載し、最新号で改めて「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」という特別企画を組んだ問題で、発行元の新潮社は25日、同誌の休刊を決めました。

「新潮45」は1985年の創刊以来、手記、日記、伝記などのノンフィクションや多様なオピニオンを掲載する総合月刊誌として言論活動を続けてきました。しかし「ここ数年、部数低迷に直面し、試行錯誤の過程において編集上の無理が生じ、企画の厳密な吟味や十分な原稿チェックがおろそかになっていたことは否めません」と、初めて謝罪しました。

コスト削減を迫られる中、人手と手間をかけずに安易な右傾化路線に走った結果、今回のような事態を招いてしまったようです。どうして雑誌の市場で右派の論調が受けるのか、考えてみました。

(1)「失われた20年」で経済的にも社会的にも疎外された中年男性が苛立ちを募らせる一方、国家への帰属を求める。その苛立ちを代弁してくれる杉田議員のような女性は「保守のジャンヌ・ダルク」として崇められる

(2)雑誌の購読者が高齢化し、保守化が進んだ。将来への不安がはけ口を求めている

(3)世界第2の経済大国となった中国の軍備増強が進んだ上、北朝鮮の核・ミサイル開発で日本も防衛力を強化する必要が出てきた

(4)世界展開する韓国、中国企業に対して経済ナショナリズムが台頭した

(5)慰安婦問題や韓国や中国の歴史教育への反作用として日本で反動が強まった

(6)人口減少で日本民族が弱体化することへの危機感

(7)外国人旅行者のほか「技能実習生」や「留学生」といった事実上の移民が急増したことへの反発

完全に市民権を得た欧州の極右政党

右派の論調が受けるようになったのは1990年代のバブル崩壊で「日本の衰退」が進んだからです。その一方で新興勢力の韓国や中国が台頭してきたことが日本のフラストレーション、危機感、自信喪失を一気に膨張させました。

防衛力を強化し、日本の復活を掲げるナショナリストの安倍晋三首相は右傾化の象徴として左派からの攻撃にさらされています。

しかし、欧州では反難民・反移民の極右政党が完全に市民権を得て「ナショナリスト政党」(英BBC放送)と呼ばれるようになった現状と比べると日本はまだ随分マシのように感じます。

欧州で右旋回が進んだ理由をいくつか挙げてみましょう。

(1)2001年の米中枢同時多発テロをきっかけにイスラム過激派のテロが多発するようになった

(2)中東・北アフリカの混乱が深まり、紛争で大量に発生した難民が欧州に流入した

(3)「人の自由移動」を認めた結果、人口構成が急激に変わり、排外主義が強まった

(4)08年の世界金融危機をきっかけに「西洋の衰退」が加速した

(5)格差が広がり、経済的にも政治的に疎外された有権者が新興の極右政党に走った

欧州の「ナショナリスト政党」の台頭ぶりをまとめてみました。

昨年3月、オランダ総選挙 自由党13.1%(前回10.1%)

4~5月、フランス大統領選1回目投票 国民戦線(現国民連合)21.3%(前回17.9%)、国民議会選1回目投票13.2%(13.6%)

9月、ドイツ総選挙 ドイツのための選択肢12.6%(前回4.7%)

今年3月、イタリア総選挙 同盟17.4%(前回4%)

4月、ハンガリー総選挙 ヨッビク19%(前回20%)

9月、スウェーデン議会選 スウェーデン民主党17.5%(前回12.9%)

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「寛容の国」として知られる北欧スウェーデンでも、ネオナチに起源を持つスウェーデン民主党が躍進しました。

20世紀初め、スウェーデンの人口は510 万人で、外国生まれは3万6000 人弱。外国生まれの比率は0.7%。難民や移民を積極的に受け入れた結果、2017年に人口は1012万人に増え、このうち外国生まれは188万人、移民二世は56万人。外国背景を持つ人口割合が24.1%に達し、これに15年の欧州難民危機で16万3000人の難民が加わりました。

若い世代は時代の変化に順応できても、中高年になると変わるのが難しくなってきます。

「欧州のトランプ誕生」目指すバノン氏

ドナルド・トランプ米大統領を誕生させた陰の立役者で、オルト・ライト(オルタナ右翼)の暗黒を広げるスティーブ・バノン氏(64)が「次なるトランプ」を欧州で誕生させるべく活動の拠点をブリュッセルに移しました。

反難民・反移民の世論を追い風に「ナショナリスト政党」の勢力を拡大させ、来年5月の欧州議会選(定数751)で3分の1の議席獲得を目指しています。バノン氏が何を考えているかは、昨年7月のトランプ大統領のワルシャワ演説から読み取れます。

「我々の時代における根源的な問いは、西洋が生き残る意思を持っているか否かだ」「我々は、いかなる代償を払っても西洋の価値を守り抜く決意を持っているのか」

「我々は、国民のために国境を守るという十分な敬意を払っているのか」「西洋文明を覆し、破壊しようとする者たちに立ち向かい、それを維持する欲望と勇気を我々は持っているのだろうか」

「衰退」が「不安」や「怖れ」を煽(あお)り、人々は「怒り」や「嫌悪」の炎を燃やすようになるのです。時代はドイツでナチスが台頭した1930年代と非常に似ています。

低賃金で働かされる単純労働者の怒りやノスタルジーに浸る高齢者の不安を煽り、スケープゴートを見つけて叩きまくる。グローバリゼーションを進めたエリートやリベラルを憎み、それに肩入れするメディアを攻撃する。社会と時代から取り残された人たちの怒りのガスは世界中に充満しているのです。

社会主義革命を目論む英労働党のコービン党首(右)とマクドネル影の財務相(筆者撮影)
社会主義革命を目論む英労働党のコービン党首(右)とマクドネル影の財務相(筆者撮影)

リバプールで開かれている英最大野党・労働党の党大会では社会主義への先祖返りが進んでいます。英国は欧州連合(EU)離脱交渉が難航し、錯乱状態に陥っています。強欲グローバル企業から搾り取ったオカネを再分配に回すと言っても、社会主義化した国に高度人材や外国資本が集まってくるわけがありません。社会主義は私たちの答えではないのです。

現実に対する悲観主義には理由があります。しかし未来への楽観主義には意思の力が必要です。私たちには新しい時代を切り開く、強い意思の力が求められているのです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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