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平均年俸で史上最高額だったメッツのオファーを蹴りトレバー・バウアーがドジャースを選んだ背景

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
自らYouTube動画を配信しドジャース入りを表明したトレバー・バウアー投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【バウアー投手がドジャースと正式合意】

 遂に今オフ最大の大物FA選手の所属先が決まった。

 昨シーズンはダルビッシュ有投手を押さえ自身初のサイヤング賞を受賞し、今オフで最優良FA選手の評価を受けていたトレバー・バウアー投手が現地時間の2月5日に、ドジャースと合意した。

 バウアー投手自身も、YouTube上に「MY NEW HOME!!!(私の新しい家)」と題した動画を配信し、ドジャース入りを報告している。

 米メディアによれば、3年契約で年俸総額は1億200万ドルに及ぶ。また契約にはバウアー投手側に、毎シーズン終了後に契約解除できるオプション権が与えられており、いつでも他チームに移籍できるものになっている。

【平均年俸額でコール投手を下回る】

 この結果、バウアー投手の平均年俸額は3400万ドルに留まり、昨年ヤンキースと9年総額3億2400万ドルで合意した、UCLA時代の同僚だったゲリット・コール投手の平均年俸3600万ドル(MLB史上最高額)を下回ることになった。

 ただバウアー投手の各年の年俸額をみると、2021年は4000万ドル、2022年は4500万ドルになっており、いずれも球界最高額になるものだ。

 さらにバウアー投手は、コール投手を上回るか、並ぶ可能性もあったのだ。彼は契約交渉を続けながら、最終的にドジャースとメッツの2チームに絞り込んでいた。彼のエージェントを務めるレイチェル・ルーバ氏もTwitter上に以下のようなメッセージを投稿し、2チームに絞られたことを認めている。

 そして米メディアによれば、最終候補に残ったメッツは、ドジャースを上回る3年総額1億1000万ドル前後のオファーを提示していたというのだ。しかもメッツのオファーもドジャース同様に、毎年契約解除できるオプション権も入っていたという。

 つまりバウアー投手がメッツ入りを選択していれば、平均年俸額でコール投手に並ぶか、上回っていたことになるのだ。

【MLB最強の先発ローテーションが完成】

 しかしバウアー投手はMLB記録の高額年俸を捨て、ドジャースを選んだ。そこには何らかの理由があるはずだ。

 まず考えられるのは、3年間での平均年俸額ではコール投手を下回るものの、年俸総額1億200万ドルの83.3%に相当する8500万ドルが最初の2年間で支払われることになる。もしバウアー投手が2年でオプション権を行使したとしたならば、その平均年俸額は4250万ドルまで跳ね上がり、実質的なMLB最高額になるわけだ。

 こうした契約内容以外にも、ドジャースにバウアー投手を惹きつけたいくつかの要素があったと考えられる。

 その1つは、ドジャースがノース・ハリウッド出身のバウアー投手にとって、まさに幼少時から慣れ親しんだ地元チームだったというのは、見逃してはいけないポイントだ。

 さらにそれ以上に重要だったのが、ドジャースがまだバウアー投手が経験していないワールドシリーズ制覇を狙える、最も可能性が高いチームの1つだということになるだろう。ワールドシリーズ連覇を目指すドジャースは、積極的な補強を行ったメッツよりもやはり戦力は上だと見られている。

 特に投手陣に関しては、バウアー投手が加わったことで、MLB最強の先発ローテーションが完成したといっていい。サイヤング賞3度受賞のクレイトン・カーショー投手、同1回受賞のデビッド・プライス投手、次世代のエース候補のウォーカー・ビューラー投手、昨シーズンのポストシーズンで大活躍したフリオ・ウリアス投手と、他チームならエース級の投手が5人揃っているようなものだ。

 この5人の他にも、昨シーズン先発ローテーションを任されていたダスティン・メイ投手とトニ・ゴンソリン投手の若手が控えているのだから、他チームからすれば垂涎ものの布陣が揃っている。

【メッツより周囲から受けるプレッシャーも軽減?】

 またバウアー投手がメッツ入りしていれば、その契約内容から必然的にエースとして期待され、周囲からのプレッシャーも大きいものになっていただろう。

 一方ドジャースには、2020年の年俸が3100万ドルのカーショー投手、同3200万ドルのプライス投手がいる。3人でプレッシャーを分散できる環境というのも、バウアー投手には理想的だったといえる。

 今オフはダルビッシュ投手を獲得するなど積極的な補強を断行し、一躍ワールドシリーズ制覇の優勝候補に加わったパドレスだが、バウアー投手のドジャース入りで、連覇を目指すドジャースが再び筆頭候補に躍り出ることになった。

 昨シーズンはナ・リーグ中地区でサイヤング賞を争ったバウアー投手とダルビッシュ投手が、今シーズンは奇しくも同西地区のライバルチームに移籍することになった。ドジャース対パドレスのみならず、バウアー投手対ダルビッシュ投手の直接対決にも興味が集まるところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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