衛星画像で見てみよう。世界最大の氷山の誕生
2021年5月19日、欧州宇宙機関(ESA)は南極で誕生した氷山「A-76」の衛星画像を公開した。面積は4320平方キロメートルと現時点では世界最大の氷山となっている。A-76氷山を観測したレーダー衛星「Sentinel-1(センチネル1)」の画像データは公開されており、無償で誰でも世界最大氷山誕生の観測画像を見ることができる。
巨大氷山は南極半島の東側にあるウェッデル海で「ロンネ棚氷」※と呼ばれる、陸地を覆っていた氷床が海上に張り出した部分から分離したもの。英国南極観測局(British Antarctic Survey)が発見し、米国立雪氷センターが確認。発見された領域を表すAからDまでのアルファベットと、発見順の番号という氷山の命名規則に従って「A-76」と命名された。
※同じ海域の棚氷との併称で「フィルヒナー・ロンネ棚氷」とも呼ばれる。
A-76氷山は、2021年5月13日にロンネ棚氷から分離したとされ、最長部分はおよそ160キロメートル、最大幅はおよそ26キロメートルの細長い形となっている。面積は4320平方キロメートルとされ、フィリピンのセブ島よりもやや小さい程度の面積を持っている。
南極での棚氷の崩壊によって発生した氷山の観測は1990以降続けられており、2002年に南極半島東岸の棚氷「ラーセンB棚氷」で大規模な崩壊が見られた。2017年には、ラーセンC棚氷から面積5800平方キロメートルの巨大氷山「A-68」が分離している。
棚氷からの氷山の分離は、気候変動に直接起因するものではないと考えられている。しかし、過去よりも高い温度の大気が南下していること、また過去50年間で海流の温度も高くなっているなど環境の変化と棚氷や氷河の後退との関連が調査されている。また、A-68氷山は2017年7月の分離から3年ほど南極半島付近にあったが、2020年1月ごろから北上をはじめ、南大西洋のサウスジョージア島付近まで移動してきた。2020年4月に崩壊が確認されるまで3年以上も漂っており、巨大氷山の通過は周辺の海域での環境の変化や、航路の安全に影響を及ぼす可能性があり、継続した観測が必要になる。
衛星画像で見る氷山の誕生
氷山の観測で力を発揮しているのが、衛星によるリモートセンシングだ。1990年代以降、米国が運用するLANDSAT(ランドサット)などの衛星から観測が行われてきた。だが、ランドサットのような光学衛星(カメラのように地球の表面からの太陽光の反射を捉える衛星)は、夜間や雲がかかった条件では観測できない。そこで、衛星からレーダーを発して能動的に地球表面の物体を観測する合成開口レーダー(SAR)衛星が活躍している。
今回、A-76氷山の誕生を捉えたのは、ESAが運用するSAR衛星センチネル1だ。2014年、2016年に打ち上げられた2機の衛星が運用中で、12日ごとに地球上の同一地点の上空を通過する。2機が交互に通過するため、実質的に6日ごとに同じ場所の観測が可能になっている。
センチネル1衛星の画像は、研究機関だけでなく広く無償で一般に公開されている。氷山が誕生した5月13日前後の画像も閲覧可能だ。A-68氷山のように移動することがあれば、移動の軌跡を今後の観測画像から追うことも可能になる。
「センチネル・ハブ」の使い方
ESAの衛星画像は、ブラウザ上で画像を閲覧、操作できる「Sentinel Hub - EO Browser(センチネル・ハブ EOブラウザ)」からアクセスする。
1.センチネル・ハブを開く
センチネル・ハブのサイトにアクセスし、EOブラウザを「START EXPLORING!」を開始する。
2.対象地域へ移動する
EOブラウザは、OpenStreetMapを利用した白地図で表示される。主要な地名や住所などで表示する地域の検索が可能だ。南極の場合は手がかりになる地名を見つけることは難しいが、「Ronne Ice Shelf」で検索可能だ。緯度経度の情報があればより確実だが、A-76氷山の緯度経度情報は「75 17' South, 58 54' West」(米国雪氷センター提供)のように表記されており、検索可能な「-75.283333, -58.900000」のように小数点形式に変換する必要がある。広大な地域を検索する場合は、右下の「+-(Zoom In/Out)」ボタンで調整する。
3.衛星名と日付範囲を指定
左側のグレーのパネルから、「Discover」タブで衛星名(ここでは「Sentinel-1」)と検索対象期間(ここでは2021年5月10日から現在まで)を指定し、「Serch」ボタンをクリックする。※時刻はすべて世界協定時刻(UTC)表記。
4.閲覧したい観測画像を選択する
検索した期間内に観測画像が存在すれば、地図上に画像の範囲が存在される。複数ある場合はマウスオーバーして薄い緑色で表示された画像を表示できる。目的の画像を選択して「Visualize」をクリック。
5.画像表示
5月19日観測のA-76氷山の画像。SAR画像は光学衛星の画像(いわゆる衛星写真)と異なり、レーダー波の反射の強弱を画像化しているためモノクロとなっている。右側に並んだアイコンから、「Download image」をクリックして画像をダウンロードできる。
6.面積の計測
上までの機能はログインしなくても利用可能だが、無料のアカウント(メールアドレスとパスワードを登録)を作ってログインすれば、さまざまな機能が利用できるようになる。世界最大の氷山の大きさを、面積を測って確かめてみよう。右側の「Measure」ボタンは長さや面積の計測機能。氷山の縁を囲むようにクリックして点を打っていくと、範囲内の面積を表示してくれる。5月14日の観測画像から4384.56平方キロメートルと、公表値に近い面積が計測できた。
7.タイムラプス動画の作成
一定期間内の観測画像を連続表示する、GIFアニメーション形式の動画を作成することができる。「Create timelapse animation」をクリック。自動的に1カ月の期間内で画像を検索し、GIF動画が作成される。画像が多すぎる場合は検索期間を調整、標準の表示速度(1秒間に1画像)を変更したい場合は下段の「Speed」で調整する。「Download」ボタンで保存する。
研究機関や報道で公開されている衛星画像の中には、広く一般に公開されているものが多数ある。欧州のセンチネル・ハブは中程度の解像度の画像が中心だが、数千平方キロメートルもある氷山の観測ならば十分に可能だ。衛星による観測のニュースに接したならば、同じものが見られるか考えてみれば、新たな発見があるはずだ。