「もう梅雨明け?」 速報発表の難しさと受け止め方
気象庁では、「梅雨の時期に関する情報」を発表し、梅雨入り・梅雨明けについて速報的に発表している。その当日までの実際の天候経過と、主に週間天気予報を根拠にした今後の天気の「予想」をもとに、「◯◯地方は梅雨入り/梅雨明けしたとみられる」と発表するのだ。
今年(2022年)は、6月だというのに西〜東日本では早くも真夏のような天気となっている所が多く、「もう梅雨明けか?!」という声がすでにあちこちから聞かれる。今年は、判断が非常に難しい。
■ 「梅雨明け」はどのように決めるか?
「梅雨」は、初夏から真夏にかけて季節が移ろう際に、日本付近で曇りや雨の日が多くなる季節現象である。つまり、梅雨の後=梅雨が明ければ真夏がやってくるわけであり、平たく言えば「真夏が来た」と根拠を持って判断できれば「梅雨明け」の発表となる。先述の通り気象庁が判断して発表するのだが、実は具体的な数値などの基準はなく、様々な資料を分析して、総合的な判断となる。
・当該の地方では梅雨前線が離れ、あるいは消滅し、
・真夏の太平洋高気圧に広く覆われるようになり、
・そうした気象状況が一時的ではなく、持続するようになる。
といったことがひとつの目安と考えられるが、いかんせん、季節現象であることからビシッと線を引くことが難しい。「今日から春」「今日から冬」などと、ある日をもって季節が次のステージに移ったと言い切るのが難しいことは、読者のみなさんにも容易にお分かりいただけるかと思う。
季節現象は「グラデーション」であり、実際、梅雨の入り明けについても「平均的に5日間程度の移り変わりの期間がある」と気象庁も言っている。さらに、速報発表する段階では、その先の天候経過の「予想」をもとにするので、残念ながら予報が外れることもあり得るという点も考えなければならない。これだけでも、発表担当者の方々がいかに頭を悩ますかがご理解いただけるだろう。
■ 天気予報の技術的限界
さらに、天気予報には技術的な限界がある。筆者の感覚では、今の科学技術ではどれだけ精いっぱい見通しを立てても、一日一日の天気については最大でも2週間程度先までしか予想ができない。スーパーコンピュータの予測シミュレーションとしてならばいくらでも先まで計算することはできるが、利用価値のある一定程度の信憑性を持って予測を立てられるのは、良くて概ねその程度先までである。
そこで、本稿の執筆時点での状況を考えてみよう。今日は6月25日。めいっぱい頑張って予報したとしても、ある程度信頼性を担保できる予報が個々の日について出せるのは、せいぜい7月初めまでだ。一方、西〜東日本の平年の「梅雨明け」は多くの地方で7月19日頃。仮に今、予報技術を駆使して最大限先まで見通した結果が「真夏のような晴天続き」だったとしても、それでも、いつもの年の梅雨明けの時期まではその後まだ1〜2週間程度は残されている、ということになる。
実際、今のところ、そのような予想になっているのだ。来週にかけても西~東日本は太平洋高気圧に覆われやすく、真夏のような晴天が続きやすい予想で、気象庁発表の週間予報やウェザーマップ発表の10日間予報を見ても、梅雨を思わせるような雨の予報は西~東日本にはほとんど出されていない。
この「予報技術の限界よりも先」の時期に、梅雨前線が戻ってきて、場合によっては大雨をもたらすことがないとは現時点では言い切れない、というところが本当に悩ましいのだ。
もちろん、これまでにも「梅雨明け」発表後に梅雨前線が戻ってきて、大雨をもたらしたような、いわゆる「戻り梅雨」の事例は少なからずある。真夏を先取りした今の天候を「記録的に早い梅雨明け」と判断して速報として発表し、その後の雨は「戻り梅雨」として扱うという考え方もあるだろう。
ただ、時期があまりにも早過ぎるというのが難しい点で、例えば、もしも今後、平年の梅雨明け時期より早い段階(7月前半)のうちに梅雨前線が戻ってきて大雨になった場合、「まだ7月前半だし、やっぱり梅雨は明けていなかったじゃないか」ということにもなりかねない。
今の時点では、後日振り返って「やはり梅雨が明けていた」ということも「明けていなかった」ということも、どちらもあり得る状況で、今が本当に「梅雨明け」と言ってしまっていいものか判断がつきかねる状況なのである。
■ もし「梅雨明け」と言われたら…?
もう一点付け加えるとすれば、「梅雨明け」の情報が持つ意味であり、受け取った側の印象である。気象庁が発表する「梅雨明け」の報に接すると、いわば「雨の季節が終わった」と安心情報として受け取られ、大雨災害に対する備えに緩みがわずかでも出てこないだろうか。気象庁が「梅雨入り」を発表し、「目下、梅雨の真っ只中である」と伝えていることには防災対策的な役割が多分にあり、軽々に「梅雨明け」と発表するのは、その意味ではなおさらためらわれる。
その一方で、「梅雨明け」=真夏の到来と受け取られるため、熱中症予防などの暑さ対策については「梅雨明け」の速報が心構えを高める効果も少なからずあるとも考えられる。ここ最近の熱中症発生状況に鑑みると、「梅雨明け」と早く伝えることは、また別の面では防災対策的な意味合いがあり、ある種その板挟み状態でもあるのだろう。
繰り返すが、梅雨は季節現象でありそもそも線引きがとても難しく、それを予想も含めて速報的に伝えるのはかなり難しい。今回はあくまで筆者の主観ではあるが、予報担当者の考えを代弁させていただく想いで本稿を執筆した。また、気象庁にも、「梅雨明け」の発表をしない理由(あるいは、今後する場合にはその理由)など、科学コミュニケーション的観点からもぜひとも随時丁寧にご解説いただければ…と筆者は考える。
■ 梅雨明け発表の有無にかかわらず、猛暑に要警戒
最後にもうひとつ。現時点での見通しでは、少なくとも来週(6月最終週〜7月第1週)にかけては、西〜東日本では真夏と同様の気象状況が続くと予想されている。季節を先取りした厳しい暑さが続き、熱中症の危険性が高まりやすい状況だ。
気象庁が「梅雨明け」の発表をする・しないにかかわらず、真夏と同程度、あるいはそれ以上の熱中症対策を一人ひとりが積極的にとっていただきたいと思う。最新の天気予報や熱中症警戒アラートなどをご活用いただきたい。
なお、ここで論じているのは、梅雨の入り・明けについて、気象庁が速報的に発表している情報についてである。ご存知の方も多いかと思うが、毎年9月初旬には、5〜8月の実際の天候経過を振り返り、後世に残す記録として、気象庁が「梅雨入り」「梅雨明け」の時期を改めて精査して確定値として発表している。それが、速報として発表した日と異なることも少なくない。
年によって春夏秋冬の表情が異なるように、梅雨も年によって特徴が違う。今年も随分と特徴的な梅雨のようだ。様々なご意見があろうと思うが、梅雨の時期について速報として発表する難しさや受け止め方について、読者のみなさんに少しでもご理解いただけたなら幸いである。