法人運営型右派アカウントDappiのツイートは不自然な拡散をしていたか
衆議院選挙も間近という10月の頭に,ツイッターの有名右派アカウントは「自民党」取引企業? 立民・小西議員が名誉毀損で提訴というニュースが流れました.
事の発端は小西ひろゆき議員の以下のツイートです.
小西議員に名誉棄損ツイートを繰り返していたアカウント(@dappi2019)の発信者情報開示を受けたところ,このアカウントの持ち主が法人らしいということが判明したわけです.
これまでも,政治的活動を行うアカウントには金銭の授受が発生しているという話は多数ありましたが,法人が運営しているアカウントらしいということで大きな話題になりました.
では,このdappi2019というアカウントはどのようなアカウントだったのでしょうか.ツイート内容については元の記事に詳しいため,ここではその行動パターンについて分析してみましょう.
3行でまとめると
・dappi2019の運営企業はあんまりブラックではなさそう
・dappi2019のツイートは不自然な拡散をされている
・拡散しているアカウントも不自然な特徴を持っている
意外とホワイトなdappi2019運営企業
過去のdappi2019のツイートを収集できるだけ収集してみました.
2019年6月22日から2021年10月1日までツイートを行っていたようで,収集できたツイートが5066ありましたが,過去のツイート数は5137とありますので,いくつか収集できていないものもあるようですが,とりあえずこれで分析を進めていきましょう.
まずはいつどのくらいツイートを行っていたかを確認します.
これを見るとアカウント開設当初2019年6月22日から7月24日くらいまでは毎日10~30程度のツイートを行っていましたが,その後は毎日ではなくときどきツイートが行われない日が存在することが分かりました.
そこで,どんな日にツイートが行われないのかちょっと調べてみました.青いラインが曜日ごとのdappi2019のツイート割合です.オレンジのラインは参考に載せたツイッター全体の曜日ごとのツイート割合です.
どうやらdappi2019はほとんど土日にはツイートを行わないようです.データは載せませんが,数日間ツイートがない時期もあるのですが,夏休みとか年末年始とかなのでその辺もちゃんとお休みしているみたいです.年末ギリギリまで仕事している大学教員とは大違い.
せっかくなので,ツイートする時間についても分析してみました.同じく青いラインがdappi2019のツイート,オレンジがツイッター全体のツイートです.
dappi2019のツイートが増えるのは9時からで,18時を過ぎるとツイート数が激減します.ツイッター全体では18時過ぎからが本番であることを考えると,案外dappi2019はホワイト企業なのかもしれません.
ちなみに,類似したツイート時間分布を持っている他のアカウントを探してみたところ,NewsDigest ニュース・地震・災害速報・新型コロナウイルス動向(@NewsDigestWeb)や,京都新聞(@kyoto_np)などのニュース系アカウントや,企業アカウント,政治家のアカウントなどがありました.
もちろんその中には,個人っぽいのにdappi2019と類似しているアカウントもありましたが,ここでは個人(かもしれない)アカウントについては言及しませんが,同じような法人アカウントを見つけるヒントになるかもしれません.
dappi2019のツイートの拡散は自然発生的なものではない
さて,次にdappiのツイートをRTしたツイートなどを分析してみましょう.dappi,
dappi2019を含むツイートを収集しました.dappi2019が法人だと分かったのが10月6日ですので,その前までのツイートを分析しています.
2020年9月9日~2021年10月5日の間に,2,852,053のツイートを収集しました.これらのツイートの中から,dappi2019のツイートに注目して,どのくらいRTされているのか見てみましょう.この期間に収集されたdappi2019のツイートでリツイートが確認できたものは2,363ありました.実態と比較してだいぶ少ないですが・・・これを,132,737アカウントが1,785,759回のリツイートを行っています.
ちなみに,全体の約半分の889,581のリツイートは全アカウントの約3%にあたる3,984によって行われていますので,一部のアカウントが大量にリツイートしたことが分かります.この辺は,いわゆる左派発のツイッターデモでもよく発生している現象ですので,右も左も,といった感じです.
2021年10月18日15:30 訂正
ここで書いてあった被リツイート分布分析には重大な事実誤認がありましたので,お詫びして訂正いたします.
元々,記事内で被リツイート分布に歪みがあり不自然である点を指摘しておりました.
が,Dappiアカウントがアカウントを作り直しているという情報をお寄せいただきました.
通常はこのような被リツイート分布になる可能性はほぼ無いのですが,古いアカウントのフォロワーを引き継いで新しいアカウントを作ったのであれば,このような分布になることは十分あり得ます.そのため,この分布をもって,被リツイート分布が不自然であると結論付けることはできませんでした.被リツイート分布についての分析は撤回しお詫びするとともに,情報をお寄せいただいた方に感謝申し上げます.
リツイートアカウントの分析
では,いったいどのようなアカウントがリツイートしていたのでしょうか.個々のリツイートしたアカウントについては述べませんが,統計的性質について見てみます.
実はデータを見ていて,妙にプロフィールが書いていないアカウントが多かったことが気になったので,プロフィールの有無に注目してみたいと思います.dappi2019のツイートをリツイートしたアカウントの中で,プロフィールが空白のアカウントがどれくらいあったのでしょうか.
1度でもdappi2019のツイートをリツイートした全アカウントですと,17.6%がプロフィールが空白のアカウントでした.
これが,10回以上リツイート,100回以上リツイートしたアカウントになると,20.5%,25.8%がプロフィールが空白のアカウントとなります.
ツイッター全体のプロフィール空白率を調べてみると,2021年1~4月までの間ずっと空白だったアカウントの割合は12%ですので,dappi2019のツイートに注目しているアカウントにはプロフィール空白アカウントが多い事が分かります.特にdappi2019のツイートを100回以上リツイートしたアカウントのプロフィール空白率は異常.
とはいえ,もしかしてツイッターを始めたばかりでまだプロフィールを書くことに気づいていないだけかもしれませんよね.というわけで,dappi2019をリツイートしたプロフィールなしアカウントが過去何回くらいツイートを行っているのかを示す「過去のツイート数」を見てみましょう.もしこれが十分少なければ,初心者と言うことで大目に見ても良さそうです.
その結果こちら.
まずdappi2019をリツイートしたプロフィール無しアカウント全体についてみると,ツイッター全体の過去のツイート数分布とほぼ同じなため,ここに大きな特徴はなさそうです.
しかしながら,10回以上リツイートしたアカウントになると,1000回以上ツイートした割合がかなり多くなり,ツイート数が少ないアカウントが激減します.
さらに,リツイート数100回以上のアカウントは「過去のツイート数」のピークが10000回以上のツイートとなっており,「過去のツイート数」が1万回以上のアカウントの割合は74.7%にあたります.「過去のツイート数」が10000回以上のアカウントの割合はツイッター全体でも22.4%しかないのにもかかわらず,です.
というわけで,プロフィールがないのは初心者だからでもなく,相当な数のツイートを過去に行っているアカウントがdappi2019のツイートをリツイートしていたことが分かりました.
ここから色々なことが類推できますが,ここではあくまでも数字の紹介だけにとどめておきたいと思います.
おわりに
今回は,法人が運営しているといわれるアカウントが明らかになったと言われており,かなり興味深い実例と言うで,そのデータを分析してみました.
その結果,アカウントの行動パターンはいかにも企業的な特徴があることが分かった一方で,リツイートをしているアカウント,特に多数のリツイートを行っているアカウントにも顕著な特徴があることが分かりました.
政治的ツイートに関しては以前から変わった動きが多数確認されていましたが,法人が運営していることが明らかになったといわれるアカウントの存在は,サンプルが提供されたという点でツイッターにおける政治的行動の研究に大きな影響を与えそうです.
なお,dappi2019のツイートデータすべてを今から集めるのは難しいかもしれませんが(今試したら3000ツイートくらいは取得出来るようです),気になるアカウントがあった場合は,Web Tweet Crawlerを使えば,任意のアカウントの直近のツイートを収集して分析することができますので,研究等でご利用になりたい方は是非お試しください.
なお,当該アカウントが法人運営だったらしいことが良い事か悪い事かという点について結論を出すものではないので,その点はご注意ください.