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「母と息子は凍った部屋で息絶えた」金正恩の失政に批判

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

 昨年末、北朝鮮北部の両江道(リャンガンド)の民家で、40代女性と10代の息子が遺体となって発見された。食べるものも燃料もがなく餓死または凍死したものと見られている。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

 事件が起きたのは、恵山(ヘサン)市の蓮峯二洞(リョンボンイドン)。コロナ前には商業や貿易で賑わっていた市内中心部から、数キロ内陸に入ったところにある。市内でも最も貧しい地域で、行政区域上は都市部に当たるが、地域住民の暮らしぶりは北朝鮮の一般的な農村と変わらないひどいものだった。

「(地域住民は)コロナ前にもギリギリの暮らしをしていたが、(コロナ禍で)さらにひどくなったのは言うまでもない。このごろは、1日に1食まともに口にできる家が珍しいほど」(情報筋)

 そんな蓮峯二洞に住んでいた40代のリさんは、6年前に病気で夫に先立たれ、路上で食べ物を売って10代の息子を育てていた。しかし、当局の取り締まりが厳しくなり、それすら困難になった。極度の貧困で、息子は登校すらできなくなっていた。

 先月22日、人民班の班長(町内会長)が、1年間未納になっていた人民班資金の督促にリさん宅を訪れたが、家の中に人の気配が感じられなかった。リさんと息子を長らく見かけていないという隣人の話を聞き、玄関ドアを叩き壊して家の中に入った。そして、冬服を着たまま布団の上で横たわり息絶えている2人を発見した。

 米びつはすっからかんで、薪もなく、家の中は凍りついていた。飢えと寒さで亡くなったのではないかというのが、ほとんどの住民の見方だ。中には自ら命を絶ったのではないかという人もいたが、それすら「カネがなければできない」という声に打ち消された。

 北朝鮮は2020年1月、新型コロナウイルスの国内流入を防ぐために国境を封鎖したが、人の流れだけでなく、物資の流れも遮断したため、著しい食糧不足・モノ不足に陥った。貿易で栄えていた恵山は、飢餓が支配する都市へと転落した。

(参考記事:「気絶、失禁する人が続出」北朝鮮、軍人虐殺の生々しい場面

「国境封鎖後、住民生活は本当に最悪になったが、国は統制を強化するばかりで市場での商売ができなくなった人は死ぬしかない。将来のある10代の息子まで亡くなる胸の痛む出来事の原因は、すべて国にある」(情報筋)

 国境封鎖を主導した金正恩総書記に対する、実質的な失政批判とも理解できる言葉だ。

 母子が餓死したという噂はあっというまに市内全域に広がり、不安が高まっている。

「コメをくれとは言わないから、商売くらい自由にさせてくれと皆が言っている」(情報筋)

 ところが、地元当局は住民の生活対策そっちのけで、社会主義体制がいかに素晴らしいかという思想教育を繰り返し、住民は激怒していると情報筋は伝えた。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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