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膿疱性乾癬患者10名への聞き取り調査で分かった、QOLへの深刻な影響

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【汎発性膿疱性乾癬とは? 症状や特徴を解説】

汎発性膿疱性乾癬は、乾癬の中でも比較的まれな重症型の一つです。皮膚に無菌性の膿疱(のうほう)が多発し、発熱や倦怠感などの全身症状を伴います。膿疱とは、膿を含んだ水疱(すいほう)のことで、黄白色の内容物を含んだ小さなブツブツが大量に現れるのが特徴的です。病理組織学的に、コゴイ海綿状膿疱と呼ばれる所見が確認され、炎症反応を示す検査値の上昇によって診断が確定します。

40代以降の女性に多く、再燃と寛解を繰り返す慢性疾患です。膿疱は非常に痛みを伴い、手のひらや足の裏に好発するため、日常生活動作(ADL)に支障をきたします。発症の引き金としては、薬剤、感染症、ストレス、妊娠などが知られていますが、尋常性乾癬(乾癬の最も一般的なタイプ)の既往がある人もいれば、ない人もいます。乾癬は単なる皮膚の病気ではなく、関節炎など他の症状を合併することもある全身性疾患と捉えるべきでしょう。

【患者の日常生活や心理面への深刻な影響が明らかに】

今回、米国のウェイクフォレスト大学の研究グループが、汎発性膿疱性乾癬患者10名に聞き取り調査を行い、QOL(生活の質)への影響を質的に評価しました。その結果、以下の3つのテーマが浮かび上がりました。

1. 慢性疾患であることと予測不能な経過がもたらす負担

2. 社会的役割を果たせないことによるアイデンティティの喪失

3. 信頼と透明性に基づく医師-患者関係が、慢性疾患を耐え抜く上で非常に重要

患者は疾患のコントロール不能感と不確実な経過に圧倒され、絶望感、怒り、不安、恐怖など様々な感情を抱えていました。日常生活動作の障害により、家族内や社会での役割を果たせず、恥ずかしさや罪悪感を感じていましたが、家族やコミュニティ、医療スタッフの支援と理解により、柔軟な考え方や新しい視点を得ていました。

【皮膚科医の役割の重要性】

多くの患者が、疾患の原因や経過について理解不足から混乱や絶望感を抱いていましたが、皮膚科医によって診断が確定すると、希望、安堵、慰めの感情に変化したと報告しています。私たち皮膚科医は、患者に汎発性膿疱性乾癬の再燃-寛解サイクルについて教育し、再燃を避けたり対処したりするための戦略を共に考えることで、不確実な道のりを歩む手助けができるのです。

この研究から、汎発性膿疱性乾癬が日常機能とメンタルヘルスの両面で患者のQOLを大きく損なうことが明らかになりました。再燃時だけでなく寛解期にも影響は及びます。希少疾患で情報も乏しいからこそ、皮膚科医が患者や家族への定期的な指導と教育を通して、不安定な病勢の中で安定した存在となることが重要と言えるでしょう。汎発性膿疱性乾癬に限らず、乾癬など慢性の皮膚疾患を抱える患者の支援に示唆を与える研究と考えられます。

参考文献:

Clin Exp Dermatol. 2024 May 13:llae194. doi: 10.1093/ced/llae194.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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