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菅首相「英国から入国者1日1、2人」 TBS、ファクトチェックせず放送 実際は1日平均150人

楊井人文弁護士
12月21日放送NEWS23(TBS)の事前収録インタビューに出演した菅義偉首相

 英国で新型コロナウイルスの変異種が確認され、欧州各国が渡航規制を強めている中、菅義偉首相が12月21日、TBS「NEWS23」のインタビューに収録出演し、英国から日本への入国者数は「1日1、2人」だから「大丈夫」と発言した。しかし、加藤勝信官房長官は23日午前の記者会見で、英国からの入国者数は「12月は1日平均150人」と明らかにした。

 NEWS23は菅首相の発言に疑問を示さず放送していたが、放送前に調べていれば事実関係の誤りを指摘できたのではないか。これまでにも事前収録した政治家の"事実誤認"発言をそのまま放送して問題になったことはあるが、改めてメディアのファクトチェック(真偽検証)の取組みの姿勢が問われる事案だ。

(首相発言のファクトチェック記事はInFact参照)

首相動静によると、菅首相は21日午後5時半ごろから午後6時ごろにかけて、TBSでNEWS23のインタビューを収録していた。その際、英国などで確認されている新型コロナウイルス変異種への対応について質問され、次のように答えた(インタビュー動画)。

星浩(アンカー):ヨーロッパとか中東で入国禁止措置をやっていますよね。そこは日本はどうですか。

菅義偉総理:そこはイギリス政府と緊密な連携をしながら…。ただですね、現時点において上陸拒否対象国に今なってますので、特別の方限りですね、日本に入って来れるのは。例えば、日本人の方でイギリスに住んでらっしゃる方とか、1日1人か2人だそうです。それで、もちろん検査しています。陰性でも14日間隔離します。そういう体制ですので、大丈夫だというふうに思っています。

小川彩佳(メインキャスター):では今後、水際対策を強化されるというお考えは今のところは…

菅総理:あの、ですから、今のままの中で、ただ1日1人くらいですから、そこは今対応できますから、さらに厳しくするということについては当然イギリスとの間で交渉しています。

小川キャスター:なるほど…。そして国内では…(以下、別の話題に)

 NEWS23は、この収録が終わってから約5時間後の番組で、菅首相のインタビューをほぼノーカットで放送した。その際、英国から入国者が「1日1、2人」という菅首相の発言には疑問や留保を付けずに放送した。視聴者に「1日1、2人」だけなら心配するレベルではないとの印象を与えた可能性がある。

 だが、たとえばJALのホームページを見れば、ロンドンー羽田便が週5日以上就航していることがわかる。普通に考えれば、1日1、2人しか旅客がいないのに週5日以上も就航させるわけがない。JALに問いあわせたところ、広報担当者は「利用している旅客数は明らかにできないものの、ビジネスなどで往来する一定の需要がある」と話した。

 収録中に発言の真偽を問いただすことが難しかったとしても、放送までの5時間の間に調べれば、「1日1、2人」という発言が事実と異なることに気づき、番組内でファクトチェック(発言内容の真偽検証)の結果を伝えることもできたのではないか。

 この菅首相の発言をめぐっては、翌日、野党側が開催した国会ヒアリングで質問し、国土交通省の担当者が「日英間の航空旅客便は今週15便となっております」「(1便あたり搭乗者数は)規模感では数十人」と説明した。これを報道したのも毎日新聞のニュースサイト記事だけだった。

 加藤官房長官は23日の会見で、水際対策を強化するため、英国滞在歴のある日本人以外の新規入国を当分の間停止することなどを発表した。また、記者から英国の入国者数について問われ、11月は1日平均約50人(うち日本人約40人)、12月は1日平均150人(うち日本人約140人)、12月1日〜20日のイギリスに滞在歴のある渡航者に対する空港検疫で13人の陽性者が見つかっていることを明らかにした。

 菅首相の「1日1、2人」発言について、加藤長官は「イギリスに滞在歴のある渡航者で陽性者数を念頭においたものと考えられる」と釈明。だが、菅首相は「1日1、2人」の発言の後「陰性でも14日間隔離します」と発言しており、誰が聞いても「入国者が1日1、2人」と受け取れる発言だったと言える。

 これまでにも、首相の事実と異なる発言を検証せずに放送して問題になったことがある。

 2019年1月にNHK「日曜討論」を放送2日前に収録した際、安倍晋三首相(当時)が「(辺野古沿岸部へ)土砂を投入していくにあたって、あそこのサンゴは移している」などと発言したが、そのまま留保をつけることなく放送し、事実誤認と指摘された

 その後の記者会見で、NHK編集局幹部は「番組内での政治家の発言についてNHKとしてお答えする立場にはございません。事実と異なるかどうかという他社の報道についてもNHKとしてコメントする立場にはございません」とファクトチェックの役割を放棄するかのような発言をしていた。

 海外では、英国の公共放送BBCや、韓国の公共放送KBSなど、多くの放送メディアがファクトチェックに取り組んでいる。

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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